ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

米、アラブ各国と共にシリア空爆開始、耳新たな過激テロ集団も攻撃対象に!

 アメリカは国連総会直前の23日、イラクの国境を越えシリア国内の過激派テロ集団への空爆を開始した。

 

 オバマ大統領は、空爆には“サウジ・アラビアなど穏健スンニ派のアラブ5カ国が参加”し、“シリア政府には事前通告”をしたこと挙げ、アメリカ単独の一方的な空爆ではないことを強調した。他の中東諸国やシリア・アサド政権を支持するロシア、イランなどの批判を考慮してのことだ。

(シリア政府の合意はない。しかし反対も妨害もない)

 

 同時にアメリカ国民を意識し“シリアでの目的は短期的には終わらず、長期間かかる”ことを警告しつつ“地上軍は派遣しない”方針を繰り返した。

 

 シリアへの空爆開始は、オバマ大統領が空爆方針を言明後2週間近く経った国連総会の直前。国際社会への政治的効果を考えたと見られる。

 

*)オバマ大統領は、イラクとアフガニスタンでの戦争終結を主張して就任、先ずイラクからの軍撤退を実現、9・11テロ事件以来のアフガニスタンからの軍撤退も今年中に終了させる筈だった。シリアへの軍事介入にも慎重な姿勢を貫いてきた。しかしここにきてシリア空爆を開始、“テロとの戦い”は全く新しい局面に入った。

 

 新しい段階で注目したのはオバマ大統領が、この時ISIL(ISIS)だけでなく、“アメリカにとってISIL以上の脅威である”として「ホラサン(集団)(Khorasan Group)」の名を挙げ、“攻撃対象とした”と、述べたことだ。

 

 「ホラサン」、耳慣れない名だが、アルカイダ系分派と見られ、米情報関係者の間では今年夏から“アメリカやヨーロッパ諸国内に直接危険を及ぼす集団”とされていた。

 つまり彼らの戦闘員が欧米の出身国に戻り、国内でテロ活動をする恐れが出ているためだ。

 

(事実フランスでは24日、帰国する戦闘員の監視が如何に難しいかを象徴する事件がおきた。顛末は以下の通り:過激派と見られる3人がシリアから出てきた処をトルコで強制送還された。しかしトルコ側の連絡が不十分で到着地のマルセイユでの警備は緩く、3人は止められることなく自宅に戻る。何と3人の弁護士の方から連絡があるまでフランス政府は感知できなかった。)

 アメリカでは以前、イスラム教徒の男が空港の危険物検知器にも感知されない爆発物を靴に入れて旅客機内に持ち込み、爆発未遂に終わる事件が起きた。この事件後アメリカの情報当局はこの男の周辺を徹底して洗い「ホラサン集団」の一員であることを確認。

 以来、「ホラサン集団」の活動の監視を続けシリア北部に拠点を構え活動しているのを具体的に把握していた。

 

 シリア空爆ではこれまでの処、「ホラサン集団」の拠点の建物、訓練施設、ISISの通信施設、金融関連施設、石油精製施設などを正確に爆撃している。

 相当正確な情報収集の成果が活かされていると見て良い。

 しかし、ISISも「ホラサン集団」もアメリカ軍の攻撃を避ける対応は素早い。空爆は始まったばかりだ。

 

*)シリア紛争に対しオバマ政権は慎重な姿勢を崩さず、それに対し共和党が、共和党自身にも具体的な案が無いまま“戦略なし”、とか“弱腰”とか批判し、メディアはそれを無検証に報じてきた。

 ISISがイラク国内で急激に支配地を広げ、犠牲者、避難民が激増。“異教徒”の人たちは改宗を拒否すると男や少年は惨殺され、女性は少女も含め拘束、強姦、人身売買されるなど残酷な行為を厭わない彼らの情報が次々に世界に知らされる。

 更に、アメリカ人ジャーナリストがISISによって斬首される映像が公開されると、アメリカ世論は激化。メディアは、オバマ大統領は“無策”、“消極的”“見通しの誤り”など批判的な論調に終始した感があった。

(イラク国内で空からのISIS攻撃を開始して幾分支持率は回復していた)

 

*)そんな論調を他所にオバマ政権内部では、シリア国内の正確な情報収集を重ね、出来ること出来ないことの検証をしていたことが窺える。先述したように、かなり正確に目標を絞った攻撃を可能にしているのも、その表れだ。

 しかし空爆の効果には限界がある。

 政府軍と反政府部隊、それに幾つものテロ集団が入り乱れ戦闘を繰り広げる状況下で地上軍の派遣無しで完全に勝利することは出来ない。

 

 結局、空爆を続ける一方で、最もマトモと見られる反政府部隊の戦闘員を5000人以上訓練して送りこむことが求められる。それには人選や訓練場所の選定も含め数年かかる。巨額の資金も必要になる。

 

 繰り返すがISISなどは石油施設を確保しトルコなど周辺諸国への密輸収入に加え、アラブ諸国の富裕層から豊富な寄付を受けている。

 豊富な資金により、中東ばかりでなく欧米各国から大勢の戦闘員を受け入れ訓練する能力があり、また支配地域で住民の生活を保障、“国家”としての体制を整えつつある。

 ISISを壊滅するにはこれらの収入源を断つ必要がある。

 

 オバマ大統領がそうした工程を挙げているのも、短期間で終わるなどと安易な想定や楽観論が国民の間に広がるのを抑えるためだ。

 

*)今回もう一つ無視できないのは、国連総会の各国首脳演説の場を借りてオバマ大統領が、“アラブ各国首脳に強い警告を発した”ことだった:

“国際社会の規範を破って(人権を無視し平然と残虐行為を行う)テロリスト達に資金援助をしながら、国際社会の中で(資源貿易の収入を得て)繁栄を享受することは許されない”(筆者要約)と厳しい言葉で警告した。

 ブッシュ(子)前大統領でさえも躊躇するような、厳しいアラブ各国指導者に対する警告だった。

 

 中東は報道の自由は元より、未だに国民生活など二の次の独裁体制の国が殆どだ。圧倒的多数の国民は貧困のまま置かれ、一握りの指導層だけが豊富な天然資源を専有して繁栄を享受する国が多い。

 社会矛盾が積み重なりながら克服されることなく、国民の不満が充満している。その支配層は国際社会に脅威を与える過激派テロ集団に資金を提供している。

 

 “石油、天然ガスの国際社会への輸出で豊かな生活を享受しながら、富裕層はその国際社会に脅威を与える過激なテロ集団に資金を援助し、助長させるのは許されない”

(国際社会の中で繁栄を享受したいのであれば、国際社会の規範を順守せよ!)

 

 “身勝手なことはするな!”アラブ各国指導層に対するオバマ大統領の強い決意と警告だった。

  これまでの処40カ国以上の国々がオバマ大統領の方針を支持し、何らかの協力を提示したと言われる。

 

 この演説はシリアへの空爆に懸念を示しているロシアのラブロフ外相や国連大使らも聴き入っていた。

 

注)ISIS(Islamic State of Iraq and Syria)は、冷酷な残虐行為で人々を恐怖に陥れて支配地域を急速に広げつつ名前を変えた。まずISIL(Islamic State of Iraq and Levant)に、そして現在はIS(Islammi State)と名乗っている。オバマ大統領はISIL(日本語では“アイスル”が近い)と呼んでいる。

 

注)Levantは、太陽が上がる=ヨーロッパ人から見て「東方」の意味で東地中海地域を指し、キプロス、パレスチナからヨルダン、レバノン、シリア、トルコ南部地域が含まれる。

 

注)Khorasanは、元々イランからタジキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタンの一部までの広い地域の歴史的な名称。イスラム化する前、人々は主にゾロアスター教を信仰し、仏教も広い地域で信仰されていた。

 

(大貫康雄)

写真:The White Hous(@WhiteHouse)Twitterより