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メディアに最も重要なのは信頼、自由と独立、それに自己批判の精神【シュピーゲル前・共同編集長】

 ドイツの週刊誌「シュピーゲル(Spiegel)」の前・共同編集長(今年6月交代)マルティン・デリー(Martin Doerry)氏が来日した機会に2回に亘り、ドイツのメディアの在り方について聞いてみた。

 

 朝日新聞の木村社長の福島第一原発事故勃発当時の現場所長の証言と、慰安婦問題の報道に関する謝罪会見の直後でもあり、朝日新聞の対応を聞いた。

 

◆デリー氏は朝日新聞の対応を直接評価することは避け、以下のように述べた。

 

 メディアは常に自己批判の精神を持ち“人間は誰しも間違う者である”との前提で、‘誤報の際、謝罪は社会に向けて迅速、的確、明快であること’、しかし‘同時に他の正確な報道については正しい、と人々に改めて念を押すことも大事だ’。

 

(朝日の木村伊量社長は慰安婦報道で故・吉田清治氏の証言に関する報道で誤解を与えた点を謝罪した。一方、慰安婦確保に“強制性”があったのは確かで、他の記事は正しい、と改めて繰り返したのは適切な対応だった。読者との信頼関係のために、もっとはっきりと強調しても良い程だった)

 

◆デリー氏は、一件一件、具体的個別的に報道を確認、迅速、明快な謝罪を確認してこそ、報道の自由、権力からの独立がメディアにとって最も大事な読者、視聴者との信頼関係が確固たるものになるからだ、と繰り返した。

 

◆また“危機に怯まず、政治権力の介入には断固として闘う不屈の姿勢”がメディアの独立、報道の自由に欠かせない、また人々の信頼を得る、とも加えた。

 

◆デリー氏は、ヴァルトハイム(Kurt Josef Waldheim)元国連事務総長がナチスの犯罪行為に加担したか否かで、シュピーゲル誌自体、誤報で謝罪した件を挙げ、あの時は過ちの指摘を受けるや否や即座に再調査・検証を実施、2週間以内に謝罪報道をした、という。その後まもなく政治家のスキャンダルが発覚し、一つの誤報に怯むことなく、この件の調査報道に全力を尽くし読者の信頼を回復できたのは幸いだった、と言う。

 

◆他方、週刊誌“シュテルン(Stern)”の「ヒトラー日記」報道(1983年4月28日号掲載)は一躍世界的に注目された後、学者たちによって日記が偽物と証明された。シュテルン誌はこの「ヒトラー日記事件」では購読者が激減、編集長以下幹部総辞任となった。この事件は戦後ドイツ・メディア史上最悪の事件で、シュテルン誌は事件前の水準までに信頼を回復するのに10年を要している。

 

◆一方、戦後ドイツ・メディアが今日のような独立し、報道の自由を獲得した契機は1962年10月の「シュピーゲル事件」だったと言う。

 

(シュピーゲルは、この年10月8日号で“連邦軍の演習を取り上げ、演習が東側の攻撃に対処した演習で専守防衛の原則以上の演習だ“と批判する。これに時のシュトラウス(Franz-Josef Strauss)国防相は激怒、シュピーゲル攻撃を指示。10月26日、シュピーゲル本社家宅捜索、アウクシュタイン(Rudolf Augstein)編集長をはじめ記者・取材陣が逮捕される。これに対しシュピーゲルだけでなくシュテルンやツァイト(Die Zeit)紙など“メディアが揃って政府の介入批判に立ちあがり”、圧倒的多数の一般国民の支持を得る。

 シュピーゲルは、シュトラウス国防相が軍施設建設に絡む収賄疑惑を報道。シュトラウス国防相は11月19日連邦議会で虚偽の発言をし、与野党双方から批判を浴びる。

 結局11月末から翌年2月初めまでに編集長や取材陣全員が釈放され、最高裁はシュトラウス国防相の越権行為と断定、裁判自体を開かない、と決定。シュトラウス国防相は12月の内閣改造で更迭されるが、アデナウアー長期政権は支持を失い、事件は崩壊の契機となる。その後“憲法裁判所が報道の自由の原則を確認、ドイツで報道の自由が公にも確立”する)

 

◆デリー氏は、シュピーゲルの報道に対する政府高権力の介入を、他の新聞社・週刊紙も加わったメディア全体が闘い断固撥ねつけたことが重要だった。この事件への断固とした対応でシュピーゲルは国民の評価と名声を確立する。また多くの国民がメディアの断固と対応を支持したことは、ドイツ民主主義にとっての転換点でもあった、という。

 

(日本では安倍総理がニッポン放送やNHKに出演、ここぞとばかりに、慰安婦問題報道で“国家の名誉が傷つけられた、国際社会で名誉回復をするべき“などと朝日を批判。何が国家の名誉を傷つけたのか?!

 逆にこのような安倍氏の姿勢が日本の国際的信用を傷つけているのだ!

 安倍氏が朝日批判でなく、もし、被害者の女性への配慮を示していれば国際的にも一気に評価を上げたのに、、、。

 格好の機会を逃したが、ご本人はそう思っていないようである。懲りない人物である。

 慰安婦確保に強制性があり被害女性たちの人権、尊厳が損なわれたことは被害者たちの証言や記録でも確認され、国際的にもその認識が定着している。

 安倍氏の発言は天に唾するようなものだが、それをサンケイ新聞や読売新聞は安倍氏を批判するのでなく、逆に安倍氏と共に朝日批判を繰り返し、NHKも安倍氏の批判を繰り返し、そのまま報じた。朝日の謝罪が遅れたことと、総理大臣がこの機を利用して朝日の報道を頓珍漢に批判するのは別の問題なのだ。

 メディアの見識もなく、見っともない限りだが、これが我が日本の現実だ)

 

(大貫康雄)

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