考え抜いた人事で支持率上昇。それでも政権の不安要因は安倍首相自身という現実
安倍晋三首相の内閣改造と自民党役員人事を受けて、メディア各社が行った世論調査結果が出そろった。大半が内閣支持率を数%から10数%もアップさせた。谷垣禎一幹事長というサプライズや5人の女性閣僚登用などが世論に好感をもって受け入れられたことは間違いない。今回の改造人事の目的は来年秋の自民党総裁選で再選を果たすことにある。長期政権を狙ってよく考え抜かれた人事ではあるが、安倍政権のアキレス腱は首相自身の歴史観や国家間にあるという現実は変わらない。
第1次安倍政権で、首相は閣僚のカネにまつわる不祥事、失言、さらには農水相の自殺という前代未聞の出来事に悩まされ続けた。人事の失敗が1年で政権を投げ出すという要因にもなった。その轍は決して踏まないという周到さが今回の人事では透けて見える。
なぜ、この時期に首相は内閣改造に手を付けたのか。
一つは第2次安倍政権の「閣僚交代なし」が戦後最長の記録を更新し続け、大臣ポストが回ってこないことによる自民党内の不満の高まりだ。
もう一つは、そして最大の狙いが、総裁選での再選戦略に今回の改造と党役員人事を位置付けたことだ。
まず、当面の最大のライバルで幹事長だった石破茂氏を「地方創生相」という新ポストで閣内に取り込んだ。閣内一致が求められる閣僚として、辞任でもしない限り、石破氏が来年の総裁選に出馬することは不可能になった。2年前の総裁選で地方票で負けた同氏の牙を抜いてみせた。
さらには今回の人事劇の最大のサプライズである谷垣幹事長の起用だ。党内のリベラル集団「宏池会」の流れをくむ同氏は、政治家としての理念や信条で首相とはもっとも遠い存在、といえる。財政規律派であり、外交的には中国ともパイプを持ち関係改善重視の立場だ。
第1次安倍政権の時に、分裂していた「宏池会」の合流構想が谷垣氏を中心に議論されたが、観念的な「美しい国づくり」を掲げて右に偏る安倍首相に対抗しうる政治勢力を作ろうという意図が隠されていた。真面目な人柄で人望も厚い谷垣氏は党内の安倍批判勢力の受け皿になりうる。それを警戒した首相が自分を支えざるを得ない幹事長に据えることで、先手を打ったのだ。
消費増税や原発再稼働問題、米軍普天間飛行場の移設問題などの内政課題に加え、外交では中国・韓国との関係立て直しなど大きな難問に安倍首相は直面している。高い支持率のベースになってきた「アベノミクス」による経済再生も息切れ気味だ。前の党総裁として消費税10%への道筋をつけた谷垣氏の取り込みは、消費増税や対中韓外交など政策面でも安倍政権にプラスになるとの読みがある。
幹事長就任の会見で「総理のもと、私どもが一結束して」と谷垣氏は語った。ただ、首相が「安倍カラー」を前面に出してきたときに、首相の思惑通りに谷垣氏が動くかどうかは、まったくの別問題なのだ。
今回の人事はうまくこなした。狙い通りに支持率も上がった。だが、例えばサミットなど各国の指導者が歴史観や政治哲学を披歴しあう首脳会議で、安倍首相は持論の歴史観を語れないという現実は続く。行き詰っている近隣外交を打開して長期政権を築くには、まずは首相がいかに自らを「改革」するか、にかかっているのだ。
(平林壮郎)
写真:首相官邸HPより