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屋内遊び場を造るとイメージダウン?~子どもたちの被曝回避より「外遊び推進」を選択した郡山市

 一度はめくったはずのカードを裏返し、別のカードに手をかけた。それも禁断のカードを…。そんな方針転換と言えよう。郡山市が、子どもたちの被曝回避から屋外活動推進にシフトチェンジ。屋外遊び場を複数整備することになった。依然として被曝の危険性が無くなっていないなかでの大転換。その裏には「屋内施設では、対外的に危険性をアピールすることになってしまう」との思惑が見え隠れする。市議からは「子どもを犠牲にしてシティセールスを進めるのか」との批判の声も上がっている。

 

【「3年経て状況が好転した」と市幹部】

 問題となっているのは、郡山市が市議会9月定例会に提出した「屋内遊び場等整備案」。大槻公園、郡山カルチャーパークなど計4カ所に屋内1カ所、屋外3カ所の遊び場を整備する。設計などの委託費用として約7000万円の補正予算を今議会に計上している。議会で承認されれば、国の復興予算を利用して整備工事に着工。2017年春の利用開始を予定している。

 

 被曝回避を視野に入れた遊び場整備に関しては、2013年3月に開かれた市議会本会議で当時の原正夫市長が「子どもたちが屋内グランド上で元気に体を動かしたり遊んだりできる屋内運動施設を市内4箇所に地域バランスを考慮しながら整備し、子どもたちの健全な育ちを支援してまいります」と発言していたが、今月1日に開かれた本会議では一転、品川萬里市長が「施設整備の具体的な内容については、郡山カルチャーパークに雨天時及び冬季にも利用できる屋内運動施設を整備するとともに、大安場史跡公園、大槻公園、旧行健第二小学校跡地には、屋外運動施設を基本とした施設整備の方針を固めたところであります」と説明。被曝回避から屋外活動推進へ大きくシフトしたことが表面化した。

 

 この案件を担当する郡山市役所の「こども部」が8月末、市議らに配布した資料によると、方針転換にあたっては今年3月以降、学識経験者や保育士らで構成する子どもの遊びと運動に関する検討会」を計4回開催。その中で、原発事故の影響で子どもたちの肥満や運動不足に拍車をかけたこと、屋内施設ばかりを整備することで、対外的に郡山市が被曝の危険性があるかのように間違った情報発信をする可能性があること…などの意見が委員から出されたという。

 

 委員名や議事録は市民に公表されていないが、独自に入手した名簿には、中村和彦山梨大教授や富樫正典郡山医師会事務局長、大木重雄市体育協会常任理事ら13人の外部委員の名前が記されている。中村教授は「子どものからだが危ない -今日からできるからだづくり-」などの著書があり、「郡山市震災後子どもの心のケアプロジェクト」のメンバーでもある。

 

 「昨春は、一刻も早く屋内施設を造る必要があるような危機的な状況だった」と市子ども部幹部。「しかし原発事故から3年以上が経過し、良い状況に変わってきている。そこで子どもたちの遊び場についてゼロから意見を聴こうと検討会を開いた」と話す。一部の市議から「結論ありきの人選ではないか」との批判があがっているが、「断じて結論ありきの検討会ではない」と反論している。

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8月末、市議らに配布された説明資料では「『郡山は危険だから屋内の遊び場を作った』と間違った情報発信になる」「放射線の影響を危惧する保護者の減少」などと記されている

 

【80%の保護者が、放射線対策「重要」】

 検討会では、市内のNPO法人が実施したというアンケート調査の結果も提示された。昨夏、市内の3-15歳の子供を持つ保護者を対象に行われ、回答率は約89%。検討会で特に重視されたのが「放射線のために外出することを心配する」という設問。これに「ときどきある」「よくある」と回答した保護者はほとんどなかったという。これをもって、市側は「放射線の影響を危惧する保護者が減少した」との認識を議会向けの説明文書に記している。

 

 しかし、別の調査結果もある。市こども部が昨年11月から12月にかけて市内の就学前児童や小学生を持つ世帯を対象に実施された「子ども・子育てニーズ調査」だ。回答率は38%ほどだったが、この中で「子どもや親が安心して外出できる環境(子どもの遊び場や公園等)になっていると思いますか」との問いには、「どちらかというと思わない」「思わない」との回答が50.9%に達した。また、満足度を尋ねる設問では「放射線対策」について「どちらかといえば不満である」「不満である」が56.8%、さらに80.8%もの人が「今後、放射線対策が重要である」と答えた。

 

 ある市議は「やはり、子どもの放射線被曝について不安を抱く保護者は依然として多いのではないか。それに、NPO法人による調査では『この1カ月のお子様の様子を思い浮かべ、一番近いものを選んでください』と尋ねており、聞き方が悪い。幼い子どもが自ら、放射線による影響を危惧しないだろう」と指摘する。「当初の計画通り、屋内遊び場が造られるものと思っていた。計画を全面的に見直して欲しい」。

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屋外遊び場の整備予定地である大槻公園。手元の線量計は0.25-0.3μSv/hだった=郡山市大槻町

 

【放射線はシティセールスの邪魔?】

 別の市議は、既存の屋内遊び場で実際に母親らから聞き取り調査をした経験から「保護者は放射線の影響を今でも気にしている。低線量被曝は避けなければいけない」と話す。「品川市長は郡山市の発展に力を入れており、シティセールスに放射線は邪魔なのだろう。子どもを犠牲にしたシティセールスは許せない」と語気を強めた。

 

 この市議が市当局から取り寄せた8月31日現在の資料では、郡山市内の屋内遊び場の利用者数が大きく減少しているような傾向は見られない。「ニコニコ子ども館」では、2012年度から2013年度にかけて約25万人から約20万人に減ったものの、今年度は2012年度並みの利用者数に戻っている。「ペップキッズ」に至っては、2012年度を上回る勢いだ。「これから冬になればさらに利用者は伸びる。放射線防護だけが理由でないにせよ、屋内遊び場のニーズが無ければ、利用者は激減するはずです」と指摘する。

 

 取材に応じた市の担当者は「子どもの本分は屋外で遊ぶこと」、「屋外で遊べるのが子どもたちにとって一番良い」、「放射線への不安をいつまでも抱いて屋外で遊べないのは良くない」などと繰り返し強調した。だがその正論が通用するのは、あくまで平時の場合。原発事故による汚染が懸念される状況下では、被曝回避が最優先されるべきだ。これに対し、この担当者はこう答えた。

 

 「屋内とか屋外とか、それが重要ではないのです。放射線被曝への不安を抱いている子どもも、楽しく遊べることが大事なのです」

 

 しかし、なぜ従来通り屋内遊び場ではいけないのか。これには最後まで明快な回答はなかった。

 

(鈴木博喜/文と写真)<t>