息子を拘束された母、彼らの教えに沿った直接の訴えも、冷酷無比のISIS最高指導者には通じず
虐殺を平然と遂行する残虐さで世界を震撼させているテロ組織ISIS(イラクとシリアのイスラム国家・現在は「イスラム国」を自称)は先月、ジェームズ・フォリー氏(James Foley)を斬首したのに続き、もう一人のアメリカ人ジャーナリスト、スティーヴン・ソトロフ氏(Steven Sotloff)も同じように殺害するビデオを流した。
ソトロフ氏の母親シャーリーさん(Shirley)は先週、ISISの最高指導者アル・バクル・アル=バクダディ(以降はバクダディと略・Abu Bakr al-Baghdadi)に対し恩赦と釈放をビデオで訴えていたばかりだった。
シャーリーさんは他の事例と異なり、非イスラム教徒としてイスラムを勉強し、カリフ(Caliph, khalifah,etc.)を自称するバクダディ最高指導者に、その教えに沿い、自称するカリフの権威に頼って釈放を訴えていた。
シャーリーさんの訴えの要点は以下の通りだった。
「カリフ(イスラム国家・共同体の最高指導者)は慈悲・温情を示す権威がある、という。私の息子スティーヴンの命は今あなたの判断にかかっている。カリフのあなたが息子にも預言者ムハンマドをはじめ歴代カリフと同じような温情を示し釈放して欲しい。カリフであるあなたの権威を行使し、息子の命を救ってほしい。」
バクダディは、6月以来カリフを自称しているが、大半のイスラム世界は認めていない。
(カリフ制復活を唱える国際ムスリム・ウラマー伝名のユースフ・アル=カラダウィ(Yousef al-Qaradawi)会長らも「残虐非道な行為と過激な思想のバグダディ氏はイスラム法上のカリフとして認められない」と言っている)
もしバクダディが訴えを聞き入れ、スティーヴンさんの釈放を判断すれば、母シャーリーさんは勿論判断を受け入れただろう。
ということは、非イスラム教徒が“カリフ”バグダディ氏の権威を認める最初の事例となり、他のイスラム教徒たちにも“権威”の実績を示すことになったかもしれない。
一方、イスラム教徒であれ、誰であれ自分の主張に従わない者には冷酷な対応をして勢力を拡大してきたバグダディは、一つの自己矛盾を抱え込むことにもなると見られてきた。
母シャーリーさんはこうも言っていた。
「あなた方ISISは、息子が拘束されたことを誰にも口外しないよう伝えてきたので公言しなかった。しかしあなた達が自ら言ったことを破って公言したので私たちも公に最高指導者に直接、息子の解放を求めることにした。」
(ISISは8月後半フォリー氏殺害時のビデオでソトロフ氏を拘束していることを言い、氏を次に殺害すると脅している)
更にシャーリーさんは、キリスト教徒やユダヤ教徒は、ムハンマドが保護するよう指導した「啓展の民」であるとした上で、こう息子の解放を呼び掛けていた。
「イスラムの教えでは、誰しも他人が犯した罪を被せられてはならない、自分で何の影響力も行使できないことについての責任を負わされることは出来ない」、「あなた方は、アメリカ軍が更に攻撃をすれば息子を処刑すると言うが、息子はアメリカ政府に何の影響力も行使できない、一介のジャーナリストに過ぎない」などと説いている。。
他にも難民救済・人権擁護団体の職員2人をはじめ多くの欧米人を拘束しているが、家族の意向で名前は明らかにされていない。
ISISは、アメリカ軍の攻撃中止をソトロフ氏解放の条件にしていたが、アメリカ政府が残虐非道のISISの要求に応じることはなかった。
ISISと指導者は、この息子を思う母の愛に一片の共感も示さず、訴えも冷酷に無視した。
それどころか今度は拘束しているイギリス人も斬首すると言いだした。アメリカ、イギリスの世論の反発も強まり、両国政府、否応なくISISとの“戦争”に巻き込まれるのは必至の情勢になった。
(大貫康雄)
画像:YouTubeより
Correction:ソトロフ氏の母親・シャーリーさんは非イスラム教徒に訂正しました。