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中国から永遠に腐敗事件がなくならない理由

 北京で友人と食事をしていたら、「習近平国家主席の評判が大変良い」と話していた。何が良いかというと、「庶民的だ」と言う。

 その典型例は習近平主席が昨年末、庶民が行くような市内の町の食堂で食事をしたことだ。護衛のSPは近くにいたのだろうが、習氏は一人で列に並んで、饅頭(マントウ)と呼ばれる中国の蒸しパン6個と、砂肝と野菜炒めをそれぞれ一皿注文。自ら代金を払い、トレイでテーブルまで運び、一般客と一緒に食べたのだ。総額わずか21元(約360円)。

 米国のバイデン副大統領が一昨年8月、北京を訪問した際、副大統領の娘や米政府高官らと、やはり町の食堂を訪れた。一行はジャージャー麺や砂肝、野菜炒め、コーラなどを飲食し、この食堂は一躍、人気店になった。ちなみに御代は5人で78元(約1300円)だった。

【(写真上)北京市内の高層ビル街=筆者撮影】

 

 習氏は仲が良いバイデン副大統領の真似をしたようだ。庶民性を強調するための政治家のパフォーマンスだろうが、習氏は一昨年秋に党総書記に就任直後から「ぜいたく禁止令」を打ち出しており、自らが実戦して見せた形だ。

 これが評判になり、この食堂は千客万来で、習氏が注文した「主席定食」が飛ぶように売れている。多くのメディアもこの模様を取材しようと食堂を訪れるようになった。これを目当てに、地方から北京に来ている陳情者が多数現れ、紙や横断幕に陳情内容を書き、自らの言い分をアピールするなど、いまやこの店は北京の名所になっているほどだ。

 そういえば、胡錦濤前主席や江沢民元主席らは間違っても、町の食堂で食事をするというような真似はしなかっただけに、習氏の庶民性が一層際立っている。

 さらに、友人は習氏の人気の理由として「腐敗撲滅」を挙げた。たしかに、鄧小平氏が改革・開放路線を唱えて、経済改革を実行してから貧富の格差は拡大し、汚職も多くなったのは間違いない。

 深圳の茘枝公園入り口にある鄧小平の巨大画 (3)

【深圳市内にある鄧小平の巨大画。つい最近、鄧小平の生誕110周年記念日が盛大に祝われた=筆者撮影】

 

 しかし、これまでの指導部は口では腐敗撲滅を叫びながらも、実際の行動は伴わなかった。習政権ではすでに最高指導部経験者の周永康・元政治局常務委員や軍の制服組ナンバー1だった徐才厚・元中央軍事委員会副主席らのほか、十数人の大臣・省長級幹部を腐敗容疑で取り調べている。

 とはいえ、この腐敗現象が一向に減少するようには見えないのは不思議だ。1週間に一人は政府高官、あるいは国有企業の幹部が身柄を拘束されているのだ。その要因として、私が肌で感じているのは物価が高いことがある。

 この2、3年、北京や上海など中国の大都市圏に行って感じることは物価が非常に高くなったということだ。例えば、スターバックスのコーヒーは30元(約510円)近い。世界一だそうだ。日本でも300円ちょっとなので、ちょっと頼みづらいが、コーヒー党の私にとって「仕方がない」と諦めもつく。

 しかし、ホテルの場合、1杯100元(約1700円)はざらだ。ここまでくると、「どうして、こんなに高いの。信じられない」と叫びたくなるほどだ。しかし、中国人の取材元から話を聞く場合、〝場所代〟だと思って割り切らざるを得ない。

 私が最初に北京を訪れた30年以上も前には、「これで良いのか」と思うほど物価は安かった。ホテルのレストランで食事をしても、100元もあれば、高級料理でもお腹一杯食べ、お酒も十分飲めた。いまは、100元の料理を探す方が難しい。

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【北京市内のレストランで、北京ダックを調理するコック=筆者撮影】

 

 それだけ、中国の人々が金持ちになった証拠だろう。いまだに不思議なのは、まだ大学を卒業して数年で、月給が3000元(2万1000円)ちょっとなのに、なぜ30万元(約210万円)もするセダンタイプの自動車を所有できるのかということだ。

 その答えは「親が出してくれるから」だそうだ。

 私の知り合いで、上海で新聞記者をしているAさんは妻とまだ幼児の子どもと一緒に300万元(約4700万円)もする3LDKのマンションに住んでいるのだが、Aさんと妻の双方の両親が出してくれたという。二人の両親とも、まだ現役の公務員で、税務署の幹部だそうだ。国際的にも有名な外資系の企業や中国の大手国有企業を担当しているという。

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【天津市内のオフィス街=筆者撮影】

 

 中国は今年の場合、1月31日が日本の元旦に相当する春節(旧正月)。年末には企業側が担当の税務署員に紅包(ホンパオ)と呼ばれるお年玉を渡す習慣がある。上海では2000元(約3万4000円)程度ならば、賄賂に当たらないとの暗黙の了解があるらしい。一人の税務署員は約2000社の企業を担当しており、ざっと400万元(約6800万円)もの見入りとなる。かなりの額だ

 税務署員ばかりでなく、経済関係の官庁に勤めていれば、企業側が放っておかないので、それ相応の臨時収入が入る仕組みだ。

 Aさんの話を聞いて、習近平国家主席がいくら「ぜいたく禁止令」を出しても、中国で汚職などの腐敗事件がなくならない訳が分かったような気がした。

 

(相馬 勝/文と写真)