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シリア化学兵器処理完了の報道

「シリアの化学兵器の処理が完了。これは国際社会の努力による前例のない業績!」とオバマ大統領が発表した。

(まだ残りの化学兵器がシリア内にあると見られるが)オバマ大統領が業績を強調しても、これは確かに国際協力で実現した歴史的な実績であり、素直に受け止められる。

 

 しかし残念ながら、シリア内戦、イラク国内の対立と紛争の拡大、ガザ紛争、ウクライナ危機、エボラ出血熱など諸問題噴出の時と発表が重なってしまったこともあってか、メディアの報道は簡単、NYタイムズでさえ、そっけないと言って良いくらいの扱いだった。

 メディアはどうしても所謂現時点で新しく熱くなっている問題、ホットな問題の報道を優先してしまう。

 インターネット時代になり、ホットな動きに飢える傾向が強まり、問題の本質を考える余裕を無くしているのではないだろうか?

 

 シリアのアサド政権は昨年、反政府軍に対して化学兵器を使用。大勢の一般市民が犠牲になる事態になった。

 これに対しアメリカ・オバマ大統領が、「一線を越えた!」とアサド政権を強く非難、8月シリアへの軍事攻撃も辞さないとの態度を表明している。

 アサド政権を支持するロシアも流石に憂慮し、シリアに化学兵器全廃条約批准を促し、アメリカの軍事介入を避けたいシリアのアサド大統領も、昨年9月全廃を約束、国内の化学兵器引き渡しに同意し、国連安保理は、シリアの化学兵器を国際管理下で廃棄させる決議を全会一致で採択した。

 

 しかし、化学兵器の安全な処理技術と施設を持ち、担当者の訓練が出来る国は限られている。運搬・処理費用も相当額に上る。

 このため化学兵器禁止機関(OPCW)が、廃棄計画を立案、担当者はドイツ・バイエルン州の基地などで安全訓練を受けた上で、内戦中のシリアの保管庫を点検し、10月末までにシリア国内23カ所の関連施設を全て破壊するという。

 猛毒のサリンやマスタードガスなどの化学物質1300トンが、ノルウェー・デンマークの船に積まれ、今年7月始めまでにイタリア南部の港に運ばれた。

 

 ところが、シリアの近くの国で大量の化学兵器の受け入れを表明する国はない。受け入れ施設を持つ国も少ない。冷戦体制終了後、所有する化学兵器を処理したアルバニアは、国民の猛反対を受け受け入れを拒否。ヨーロッパ諸国も受け入れに消極的だ。

 このためサリンやマスタードガス600トンが、アメリカの大型処理船「ケイプ・レイ」に運ばれ地中海の公海上で処理作業が行われていた。

 比較的毒性の低い残りの物質は、イギリス、ドイツ、アメリカ、フィンランドなど各国の民間処理施設に運ばれて処理が進められてきた。

 日本政府も処理費用の一部を負担するなど、シリアの化学兵器はオバマ大統領の言う通り、文字通り“国際社会の圧力と協力で”シリアの化学兵器大半の処理が完了した。

 

 シリアにはまだOPCWに申告済みの化学兵器生産施設の一部があると見られ、オバマ大統領は「シリアが残りの化学兵器をきちんと処理するまで目を離さない」と付け加えている。

 

 シリアの内戦はその後冷酷な超過激派「イスラム国(ISIS)」が急速に勢力を増し、国内各派の統一が出来ないイラクへと拡大するなど、1年前に比べ中東情勢は悪化の一途を辿っている。

“シリアの化学兵器が国内に残り、ISISの手に渡ってていたら、事態は一体どうなっていたか?!”と考えてしまう。

 

 今回のシリアのほぼ全量の化学兵器の処理は、シリアへの圧力と国際社会への協力を呼びかけて実現した、オバマ大統領の外交上の少ない業績の一つと言って良い。

 

(大貫康雄)

PHOTO by US government [Public domain], via Wikimedia Commons