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「私は同意などしていない」~鮫川村・焼却炉建設の陰で偽造された同意署名と捺印

 福島県東白川郡鮫川村青生野に環境省が設置した「仮設焼却炉」。放射性物質に汚染された牧草や稲わら、除染で生じた庭木などを燃やしているが、その焼却炉建設を巡り、建設に同意していない地権者の署名・捺印が偽造されていたことが分かった。地権者は「汚染物の最終処分場にされてしまう恐れがある。焼却炉建設には絶対に同意しない」と刑事・民事の両面から提訴。偽造の実態を明るみにし、焼却炉の操業停止を求めている。

 

【「あり得ない」賛成の署名・捺印】

 刑事・民事の両面から訴訟を起こしているのは、堀川宗則さん(59)。

 昨年9月、鮫川村宛ての焼却炉設置同意書が偽造されたことに対し、刑法159条に基づく有印私文書偽造の告訴状を福島県警棚倉警察署に提出(被告訴人は氏名不詳)。今年7月には、地権者に無断で焼却炉を建設し稼働させているとして、「所有権に基づく操業差し止めの仮処分」を福島地方裁判所に申し立てた。

 堀川さんは、他の17人と焼却炉が設置された放牧地を共有している。1977年に亡くなった父親から土地を相続。当初は100頭ほどの和牛を飼育し、夏になると毎年、放牧していたが、最近は採算悪化や高齢化などで酪農から遠ざかっているという。

 民事訴訟の第一回審尋が開かれた22日、堀川さんは坂本博之弁護士とともに福島地検郡山支部を訪れ「事業計画に反対している自分が、なぜ賛成の署名をするのか?」、「告訴人である自分が国策に反する行動をとっているから、検察としては国策を擁護したいという心情を抱いているのかもしれない」などとする意見書を提出した。

 その後、地裁郡山支部で開かれた審尋には環境省や法務省の担当者が出席したが、10分ほどで終了。10月17日の第二回審尋で、国側が具体的な反論を提示する予定だ。

 「初めてのことで、何だかよく分からなかった」と緊張気味に振り返った堀川さん。「正式に依頼があったとしても賛成の署名をすることはあり得ない。焼却炉の先には(放射性汚染物の)最終処分場の話があるからです」と語った。

 

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(左)8月22日、福島地裁郡山支部での第一回審尋に臨んだ堀川宗則さん(中央)。有印私文書偽造・行使の刑事事件のほか、操業停止を求めた民事訴訟も起こしている

(右)情報公開制度を使い鮫川村から入手した文書には堀川さんの署名・捺印があるが、地権者の1人が妻に書かせたものであるという

 

【「不同意証明しろ」と迫る警察・検察】

 きっかけは、他の地権者からの電話だった。

 「堀川さんの名前が同意文書にあったよ」

 鮫川村に情報公開請求をして入手した「鮫川村仮置き場設置同意書」(2012年5月11日付)には、確かに堀川さんの氏名と捺印があった。「『青生野協業和牛組合』放牧地の一部に、除染土砂等を一時保管する仮置き場の設置及び落ち葉等を燃やす焼却炉の設置について同意します」と書かれ、大樂勝弘村長宛てに提出されていた。「筆跡も印鑑も自分のものではない」と堀川さんは憤る。

 堀川さんや坂本弁護士によると、告訴状の提出を受けた棚倉署は堀川さんに対し「あんたが署名して良いと携帯電話で聞いたと言っている人がいる。訴えが破たんしているんじゃないか」「あんたが同意していないと言うのなら、それを証明しなさい」などと迫り、5回も押し問答を繰り返した末にようやく受理したという。送検先の地検でも、検察官は「あなたが不同意を証明しない限り成立しない」と同様のやり取りに終始。取り下げろと言わんばかりの取り調べは4時間にも及び、とうとう堀川さんが「俺が嘘をついていると言うのなら嘘発見器にでもかけてみろ」と怒ってしまったという。

 「不同意を堀川さんが証明することなんて、どうしてできるのか」と支援者の1人。これまでの棚倉署の調べでは、和牛組合の幹部が妻に堀川さんの氏名を書かせたことが分かっている。堀川さんも、意見書の中で「本人の署名ではなく、しかも本人の印鑑ではない印鑑を押捺して良しとする感覚は、既に社会人としての感覚ではない」と述べている。

 

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(左)稼働中の仮設焼却炉入口はかたく閉ざされている。掲示された放射線量は0.12μSv/hだった

(右)焼却炉近くの牛舎。堀川さんも、夏になると和牛を放牧していた

 

【国側は「地権者全員の同意不要」】

 民事訴訟の争点は、共有地への焼却炉建設が民法上の「処分行為」にあたるか「管理行為」か。

 坂本弁護士によると、国側は「仮設であり管理行為。地権者の過半数の同意が得られれば問題ない」と全面的に争う構え。これに対し、堀川さん側は「牧草地・放牧地という土地の性質を変えての賃貸契約であり、処分行為にあたる。その場合は、地権者全員の同意が必要になる」と主張している。

鮫川村の焼却炉は2012年9月、環境省が日立造船と契約を締結し11月に着工。2013年5月には一部地権者と環境省との間で土地賃貸契約書が結ばれ、8月に運転開始した。

 環境省などが第一回審尋の前日に福島地裁郡山支部に提出した答弁書で、国側は「本件施設を設置するに当たり、2012年6月8日に鮫川村から『地権者全員の合意を得た』との連絡を受けた」、「本件土地部分に何ら変更を加えるものではない」、「2012年8月29日に主灰コンベア部分の破損事故が起こったことは認める」、「事故の発生やその原因に関する事実を隠した事実はない」、「これまで、その操業によって健康への影響を生じ得る濃度の放射性物質が本件施設の周辺に排出された事実はない」などと述べている。

 

(鈴木博喜/文と写真)