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深夜の災害に為す術はないのか?【広島市北部土砂災害続報(2)】

 土砂崩れの現場は、広範囲に及ぶ。

 

 広島市安佐南区緑井地区と八木地区にかけていくつも土砂崩れが発生。住宅が流され、つぶされた。8月20日未明、すさまじい雨が降ったという。

「テレビの声が聞こえないので、ボリュームをあげたがまだダメ。そのうち大きな雷が鳴り響く。バケツをひっくり返したという表現がピッタリのような雨でした」

 と話してくれたのは、土砂崩れの現場のわきにある県営住宅の部屋の泥を掃き出していた住民。

 あまりの雨に深夜12時くらいに避難したという住民もいたが、多くはとどまっていた。避難指示、避難勧告がなかったためだ。

「何か指示が出るのかと、何度もテレビをつけたり、携帯電話のニュースやアプリで確認したが、なかった。それに、すごい雨で車をもっていないので、手段もなかった」

「もし避難するというなら、お年寄りや小さな子供もいる。広島市がバスなどで迎えに来るのかと思った。それが無理でも、広報車などで呼びかけくらいはしてくれ、近くの学校に誘導するとかしてくれると。それが何もない。見殺しじゃけんの」

 そんな住民の声が聞こえた。

 深夜3時過ぎ、県営住宅にも大量の土石流。

「眠い目をこすりながら、大丈夫かと部屋にいきなり土砂が突っ込んできた。何が起こったのか、わからんかった。泥まみれになりながら、妻と外に逃げ出そうとしたが、土砂で開かない。窓から、逃げ出して、なんとか助かった」

 と58歳の男性。

 というのも、その後、第2の土石流があり、それに流された亡くなった人もいるそうだ。

 63歳の女性は九死に一生を得た。大雨で怖くて、同じ県営住宅の人の家に6人ほどが集まって夜を明かした。少し明るくなって、逃げようと外に出た。

「周囲は泥ばかりでそこに車や丸太、自転車、巨大な石などがあちこちある。そうして、かたまって歩いていると、上から泥水が大量に流れてきた。それに足をとられ流された。3mくらいのところにフェンスがあり、ひっかかった。何とか一緒だった人に助け出してもらった」

 幸い、女性は打撲、擦り傷程度ですんだ。

「この付近は、土砂崩れはときよりある。だが、こんなひどい山津波のようなことは聞いたことがない。事前に広報でもあれば、もっと危機感もって対応できたのに…」

と女性を泥水の中から救った男性は残念そうに、そう話した。

 

 広島市北部の土砂崩れから、約一週間。

 避難指示、避難勧告の遅れについて、前回、書いた。

 広島は世界ではじめて原爆が投下された。

 私は以前から、そういう歴史もあって、防災面でも意識が高い都市ではと思っていた。だが、取材を進めると

「防災意識が高い? いや、まったくだ。政令都市で比較すれば、防災意識、防災対策、下位にランクされますよ」

と自民党の広島市議員はそう話し

「今回の土砂崩れ、もっと以前にとれる対策はあったように思う。ある意味、人災と言われても反論できんのじゃないか」

と防災対策のあり方を疑問視した。

 

(今西憲之/文と写真)

※この記事は『「人災と言われても反論できんのじゃないか」【広島市北部土砂災害続報】』を分割したものです。