今検討する必要がある移民政策
「構造改革」という言葉をこれまでに何度読み聞きしたことだろう。政治改革、行政改革、規制緩和は毎回看板倒れに終わり、今では日本は構造改革が出来ない国というのが国際的通説になってしまった。情けない話である。
しかし日本にとって最も深刻な構造的問題は政治改革でも行政改革でもない。人口減少である。2005年の1億2800万人をピークに我が国の人口は減り始め、このままのペースで行くと2080年代には5000万人を切り、2180年代には1000万人以下になる計算だ。
少子高齢化が進み労働人口が急減すれば、経済再生など夢また夢なのだ。出生率はそう簡単には上がらない。戦時中ならまだしも「産めよ、増やせよ」と政府がいくら叫んでも国民は見向きしないからだ。そもそも子どもを産むか産まないかは個人の権利で、お上にとやかく言われる筋合いはないのだ。
そこで真剣に考えなければならないのが移民政策である。欧米の経済成長は積極的な移民制度によるところが大きい。移民受け入れが労働人口の増加に結びついて経済成長を加速させるからだ。先進国の中で唯一人口が増加している米国はその典型だろう。
オバマ大統領は納税など一定条件を満たせば不法移民(約1100万人)に市民権を与え、米大学で科学技術系の学位を取得した外国人に永住権を付与しようという政策を推進している。実現すれば、今後10年で米経済に136兆円もの経済効果をもたらすという。カナダやオーストラリアではすでに能力の高い外国人を「経済移民」」として受け入れている。
移民に関して日本では根強い反対意見がある。治安の悪化や日本の若者の働く場所を奪うというのがその主な理由だ。文化や習慣の違いによる軋轢を危惧する意見もある。さらに、近年ヨーロッパでは「ベネフィット・ツーリズム」という問題も起きている。旧共産圏の東欧諸国を中心に雇用機会よりも社会保障(ベネフィット)給付を目当てEU先進国に流入してくる人々が増えているのだ。
それでも移民の労働力が各国の国内総生産(GDP)の底上げに貢献していることに疑いの余地は無い。ところが、アベノミクスの成長戦略には移民政策が明示されていない。一時的な鎮痛剤でしかない金融緩和や財政投入を優先し、有権者の不評を買いかねない財政再建や移民政策などの難問は避けて通りたいという安倍政権の本音が透けて見える。それでいいのだろうか。
今や125万人もの日本人が海外で受け入れられ、その半数以上が長期滞在または海外永住でして生計を立てている。これだけの日本人が海外でせっせと稼いでいながら、外国からの移民には背を向ける国であっていいはずがない。そのことを国民も真剣に考えるべきだろう。
(蟹瀬誠一)
写真:各所で働く外国人労働者。入国管理局HPより。