睡眠という名のダンス!? 振付家・勅使川原三郎が仕掛ける異世界とは
“睡眠”を主題とするダンス公演が明日開幕する。ダンスと言えば一般的には、激しく動き、リズムを刻み、大きく跳んで回って……といったイメージ。しかし、このダンスでは、何でもできる夢の中の情景などではなく、一見すると静的とも言うべき睡眠そのものを、ダンスとして表現するのだとか。それも、バレエの殿堂パリ・オペラ座バレエ団の最高位エトワール、オーレリー・デュポンが出演するという、すこぶる豪華なかたちで。
[caption id="attachment_25868" align="alignnone" width="150"] オーレリー・デュポン photo:Agathe Poupeney[/caption]
このユニークなダンス『睡眠-sleep-』の“仕掛人”は、ダンサー・振付家の勅使川原三郎。睡眠というテーマに、可能性と魅力を感じているという。
「一口に眠るといっても『すやすや眠る』『とろけるように眠る』など、色々な言い方ができますよね。眠りへの向かい方にしても、喜んでいそいそと寝る人もいれば、いつの間にかコテンと寝てしまったりウトウトと眠ってしまったり、あるいは、格闘し、最後に敗北するように諦めて眠る人もいます。僕は今回、ダンスとして、眠りにどう向かっていくか、睡眠の状態とはどういうものかをテーマに創作したいと考えています」と語る。
[caption id="attachment_25869" align="alignnone" width="150"] 勅使川原三郎 photo:Rihoko Sato[/caption]
睡眠を「不可思議な浮遊するネジレた現実」「別世界の入口」とする勅使川原。これは勅使川原自身がこれまでの作品で表現してきたことでもある。近年、彼が連続してダンス化している、ポーランドの作家ブルーノ・シュルツの作品にも通じるだろう。勅使川原も「シュルツが書いている、睡眠に対する人間のあからさまな葛藤とか、人が眠ることで無防備になっていく状態は、とても面白いですね」とうなずいた。
人間は通常、睡眠なしで生きていくことはできない。言い伝えによればナポレオンは3時間しか寝なかったそうだが、その3時間が彼の精力的な活動を可能にしたことは間違いない。そうした点で、勅使川原が題材としている「睡眠」とはいわば、生と死のはざかいにあるものだ。
「眠っている本人に意識がなく、また、『永眠』『死んだように眠っている』といった言い回しからもわかるように、睡眠とはある意味、死に近いもの。その一方で、眠っている間に身体は活発に生まれ変わるわけですね。つまり、生と死が、生物学者の福岡伸一さんがおっしゃる『動的平衡』のように存在しているのが、睡眠なのです」。
これをダンサーとしてかたちにするのが、前述したパリ・オペラ座エトワールのオーレリー・デュポン、勅使川原自身、そして、勅使川原の創作の具現者として数々の名舞台を見せている佐東利穂子を中心とする5名。既にオペラ座で勅使川原作品を踊った経験をもつデュポンだが、勅使川原や佐東との共演でどんな姿を見せてくれるか、楽しみだ。勅使川原はデュポンを「高度な技術を持った方で、何よりも踊りに対して献身的」と評する。
「この作品で、これまでの彼女の踊りで見えなかったものが出て来ることを期待しています。強さと弱さが共存していて、葛藤したり高まったり、消滅するようだったり生命を生み出していたりする身体。そこに美があると僕は思います」。
常に、独特の感性で世界をとらえ、革新的な舞踊作品に昇華してきた勅使川原。今や世界のダンス界のカリスマ的存在だが、意外にも、どんな作品世界になるか、まだわからない部分もあると言う。
「ダンス作品とは、いつも新たな技術を生み出すもの。今までの作品にはなかった踊り方が現れてくるものだと思うんです。だからこそ、ダンスが生き生きとしていく。それが創作の面白さ。すべてをあらかじめわかって作っているかのように語る表現者を、僕は信用できません。結局、芸術とは、わかって表現するのではなく、表現することによってわかるもの。作っている時に深層にあるものが、上演を通し、観客を通じて見えて来るのです。つまり作品とは、予兆であり、それが何であるかを知るために作っているとも言えるでしょう」。
勅使川原の作品には表立った政治性やメッセージ性はない。しかし、どの作品でも、観客の反応を通し、時代や空気が浮かび上がってくる、と勅使川原は語る。その意味では、彼の作品はある種の“鏡”なのかもしれない。睡眠という鏡には、どんなものが映し出されるだろうか?
[caption id="attachment_25870" align="aligncenter" width="150"] 勅使川原三郎 photo:Sakae Oguma[/caption]
【公演情報】
『睡眠-sleep-』
構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎
出演:オーレリー・デュポン 佐東利穂子 鰐川枝里 勅使川原三郎 ほか
公式サイト:http://www.st-karas.com/sleep/
東京公演:8月14日(木)~17日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
愛知公演:8月21日(木)愛知県芸術劇場大ホール
兵庫公演:8/23(土)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
【関連情報】
演劇 & エンタメ系 WEBマガジン「omoshii」INTERVIEW!
『睡眠-sleep-』勅使川原三郎さん
http://omoshii.com/interview/8686/
(高橋彩子)