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吉田調書の不開示決定を受け、開示請求者らが提訴を準備

 東電株主代表訴訟、原発メーカー訴訟、福島原発告訴団などの代表ら9人が、福島第一原発の事故に関する政府の「事故調査・検証委員会」が行ったヒアリングのうち、事故当時、福島第一原発の発電所長だった吉田昌郎氏の聴取(いわゆる吉田調書)の開示を求めていた件で、グループの弁護団(原発事故情報公開弁護団)は8月4日、不開示決定が出たことを公表した。

 

 同グループは吉田調書の他、政府事故調が聴取した772人の聴取記録の開示も求めていたが、松下忠洋氏についても不開示決定が出た。残り770人分については14年12月26日までに決定するという。原発事故情報公開弁護団はリリースの中で、8月中の提訴を目指して準備中だとしている。

 

 不開示理由は以下のようなものだった。

1.ヒアリングの記録を公にすれば、ヒアリングに際しての前提と相反する取扱いをすることになり、事故調査への信頼が損なわれて、今後の同様の事故調査において関係者の協力を得ることが極めて困難になるおそれがある。

2.ヒアリングの記録には(…)自己の主観も交えて述べた内容や、供述者の記憶違い等の客観的な事実とは異なる内容なども一体となってそのまま記録されており、これを公にすれば、不当に国民の間に混乱を生じさせ、又は関係者に不当に不利益を及ぼすなどのおそれがある。

3.関係者の個人に関する情報が記録されている。

 

 朝日新聞が5月20日に紙面とインターネットで公開した吉田調書について、政府は吉田氏の上申書を根拠に公開を否定。ただし上申書は、政府事故調から第三者を経由して公開されることを望まないという内容であり、原発事故情報公開弁護団の海渡雄一弁護士らは、政府の情報公開のルールに則って公開するのは問題ないと主張している。

 

 その他の聴取について政府は、個々人の意思を確認しているとしている。この中で、民主党政権時代に原発事故対応にあたった菅直人氏、細野豪志氏、枝野幸男氏については私も開示請求をしたことがあるが、2012年10月に、吉田調書と同じ理由で不開示決定が出ている(画像参照)。

 

 不開示決定書の中で政府は、「ヒアリングの結果は、委員会が、調査結果をとりまとめた報告書に、その内容等を慎重に吟味した上で要点を引用するような場合を除き」公にしないことを前提に行われたものだとしている。一方、朝日新聞は吉田調書について、調書の冒頭部分で吉田氏が公開を了承していたと報じている。

 

 朝日新聞の報道後、吉田調書を否定する記事なども発表された後、朝日新聞が反論をするなどしたこともあり大きな反響を呼び、その内容には今でも高い関心が集まっている。

 

 しかし問題は、事故の全容解明には至っていない中、政府事故調、国会事故調ともに、収集した情報の取り扱い方法が確定していないことから、両事故調の報告書発表以後、検証ができない状態になっていることであろう。

 

 また吉田調書についていえば、以前に拙ブログ(朝日新聞が明らかにした「吉田調書」から見えるもの〜緊急時の事故対応は誰が担うのか?)でも指摘したように、緊急時の作業員の行動、および作業員への指示がどこまで可能なのか、高線量下での作業が可能なのか等、東電テレビ会議の内容とともに、事故対応手段の検証に欠かせない資料といえる。こうした第一級の史料を、取り扱い方法が曖昧なまま倉庫に埋もれさせ、事故検証を停止させたまま規制基準や再稼働の議論を進めるのは、あまりにバランスを欠く。

 

 政府事故調も国会事故調も、時間の制約がある中で検証が十分にきなかった部分があることは否めない。両事故調で収集した資料を公開して、市民、研究者が分析できるようにするなど、徹底した事故原因の究明ができるようにすべきだろう。

 

 人類史に残る大規模災害が継続する中、事故の真相を明らかにする重要な情報が日の目を見るのか。それとも情報が隠されたまま、事故を過去のものにするのか。政府の対応に注目だ。

 

(以下、リリース転載)

吉田調書ほかの不開示決定を受けて 2014年8月4日 原発事故情報公開弁護団

 

 本日、福島第一原発事故の真相究明及び再発防止を求める原発事故情報公開弁護団は、平成26年6月5日付けで当弁護団が行った、①いわゆる吉田調書、②772名分の政府事故調の聞き取り記録、および③関連資料の情報公開請求のうち、①②について内閣官房より不開示決定の通知を受けました。

 

 決定の内容としては、①については全部不開示、②については松下忠洋氏の部分についてのみ不開示(残部770名分については平成26年12月26日までに決定予定)、③については普通回数乗車券使用簿(平成24年度)のうち48頁分のみ開示(残部については平成26年10月6日までに決定予定)というものでした。

 

 さらに①および②の不開示理由として、内閣官房は、「ヒアリングの記録を公にすれば、ヒアリングに際しての前提と相反する取扱いをすることになり、事故調査への信頼が損なわれて、今後の同様の事故調査において関係者の協力を得ることが極めて困難になるおそれがある。」「ヒアリングの記録には(…)自己の主観も交えて述べた内容や、供述者の記憶違い等の客観的な事実とは異なる内容なども一体となってそのまま記録されており、これを公にすれば、不当に国民の間に混乱を生じさせ、又は関係者に不当に不利益を及ぼすなどのおそれがある。」「関係者の個人に関する情報が記録されている。」などとして、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条1号、第5号及び第6号柱に該当すると説明しています。

 

 当弁護団としては、開示請求を行った聞き取り記録および関連資料は、福島第一原発事故の関係者による事故当時の状況についての貴重な生の証言であって、かの未曾有の大事故を二度と繰り返さないため、国民自身の手で事故の原因究明と再発防止を検証する上で必要不可欠であり、また、そもそも国民の税金を使って事故調査・検証委員会が収集した情報でもあり、本来は広く国民に共有されるべき財産であるという考えから、上記の不開示決定に対しては不服申立および訴訟提起を行い、国民への開示を求めて争う方針です。

 

 具体的には、①についての不開示決定に対して早ければ8月中の提訴を予定しており、現在準備を進めております。提訴の際には改めて記者会見を開催させて頂きますので、その際には取材をお願いします。

(ここまで転載)

 

(木野龍逸)<t>