イスラエル軍ガザ侵攻による市民の悲劇は、正当防衛か、国際法違反か?
イスラエル軍のガザ地区侵攻と攻撃は誰も止められない!? 予測されたように一般市民犠牲者の数は激増の一歩を辿っている。
この状況にパレスチナやイスラム圏だけでなくヨーロッパ各地でイスラエルに対する抗議活動が広がっている。パリなどではデモ参加者の一部と警官隊との衝突も起きている。
ガザ地区での一連の衝突で特にイスラエル軍の侵攻が始まって以来、市民の犠牲者は激増、7月24日夜の時点で既に800人を超えている。圧倒的多数は一般市民でそのうち3分の1が子どもと女性。対するイスラエル側にはハマスがロケット弾を1000発以上発射し市民2人と兵士30人以上が死亡している。
イスラエル政府は、ハマスをテロリストと見て、ガザ攻撃を(イスラエル)市民をテロリスト・ハマスのロケット弾攻撃から守るための正当防衛だと主張。一方ハマスは、“ガザは巨大な監獄”で、住民は絶えずイスラエル軍の監視下に置かれ、水も食糧も医薬品も全て不足していると訴え、国境検問所の開放、自由な出入りの権利を求めている。どちらも戦闘を止める気配は無く、手詰まり状態だ。
パレスチナ(自治区)西岸地区でも、イスラエルに抗議するデモが起きたが駐在するイスラエル軍に直ぐに鎮圧された。
病院、学校、国連施設まで攻撃するイスラエルに対し「国際法違反」との批判が強まった。
国連側は“施設の位置や、市民が多く避難している状況をイスラエル側に通知している”と言う。
対するイスラエルは、市民の犠牲者が多く出るのは“ハマスが市民を盾にしているから”、また国連施設や病院への攻撃は“ハマスが施設中に兵器を隠しているからだ”などと主張する。
しかし、抗議行動の参加者たちは、“大勢の子どもや市民が避難しているのを承知で攻撃しているのは人道上の犯罪だ”との声が広がっている。
(アメリカでも流石に衝突の停止を求める抗議デモが起きているが、イスラエルを一方的に支持する声は依然として強い)
自分自身の疑惑や強権政治でとかく評判が落ちているトルコのエルドアン首相は、ガザ地区攻撃を拡大するイスラエルは国家テロを犯している、と激しく批判した。
第二次大戦中のユダヤ人に対するホロコーストの過去を持つドイツでは、イスラエルに対する贖罪の意識が強く、他の西欧諸国に比べイスラエル批判には慎重だ。
しかし今回のガザ攻撃については、正当な“自衛権の行使”なのか“人道上の罪”、“戦争犯罪”なのか、論争が起きている。また、これまで“イスラエル批判は即刻、反ユダヤ主義”との刻印を押されてきたが、“如何なる具体的な理由であってもイスラエル批判は許されないのか?”と言った基本的な問題も提起されている。
契機となったのは左派系高級週刊紙シュピーゲルの創設者の息子ヤコブ・アウグスタイン(Jacob Augstein)氏が以前、シュピーゲル電子版に書いた、“イスラエルは民主主義国だが、ガザを実質的に占領し、パレスチナ人を弾圧している”の一文。
これに対しユダヤ人NGO「シモン・ヴィーゼンタール・センター」は氏を世界で最も悪質な反ユダヤ主義者(10人)の内に挙げて批判。
ドイツ・ユダヤ人中央評議会のグラウマン(Dieter Graumann)議長が、“そうした問題提起自体がユダヤ人嫌いや偏見に基づく”と批判、議論の中止を求める声明を出している。
アウグスタイン氏は、“ドイツ人である自分は他の国の人がするような(率直な)イスラエル批判は出来ない、慎重な配慮が必要”だ。しかし“ジャーナリストとしては、イスラエルであっても、悪い場合は主張する権利がある”、という。
世界各国での論議を他所に現在の処、イスラエル、ハマス双方に停戦の意志は全くないようだ。
ネタニヤフ首相はハマスが立ち上がれなくなるまで攻撃を続行する、と言う。またハマスは、ガザの一般市民の犠牲者が増えるにつれハマスへの支持が広がるのを横目に“攻撃は続ける”、という。
検問所解放の要求などハマスの主張には理がある。
一方で多くの無辜の子どもたちや市民が犠牲になっているのに、ハリド・メシャール最高指導者が戦火とは程遠い安全なカタールにいるのは何とも違和感がある。
双方指導者、及び欧米各国政府は“常に攻撃の犠牲になるパレスチナの子どもたちや普通の人々の命に対する配慮が足りない”のではないか?
(大貫康雄)
PHOTO by CPT-Hebron (http://cpt.org/index.php?q=gallery&g2_itemId=2660) [CC-BY-SA-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons