【40カ月目の福島はいま】4度目の夏休み迎えた二本松市。今なお子どもたちを取り巻く被曝の危険性
原発事故から4度目の夏休み。街から子どもたちの姿が消えた2011年と異なり、歓声が響く2014年の夏。福島第一原発から約60km離れた二本松市でも、依然として汚染と被曝の危険が点在するが、川遊びを楽しむ子どもたちに被曝回避の危機感は無い。犯罪や事故からわが子を守るように、放射線から子どもたちを遠ざける義務が大人にはある。「街中に放射線量を貼り出して欲しい」。そう願う保育士の言葉は重い。
【〝危険の見える化〟望む保育士】
東北本線・安達駅からほど近い保育園。梅雨明けを思わせるような強い陽射しの下、園庭で子どもたちが遊んでいる。
「放射線量ですか?どのくらいありますか?」
フェンス脇で線量計をのぞいていると、若い女性保育士が声をかけてきた。「0.35μSv/hくらい?うーん、そうですか…」。保育士は表情を曇らせ、ため息をついた。
保育園から安達駅に向かう道は、場所によっては0.4μSv/hを超す。身体の小さい園児たちは大人より線源からの距離が短いため、被曝の危険性は高くなる。「街中のあちらこちらに放射線量を貼り出して欲しいくらいですよね。数値が見えれば、子どもたちだって数字の大小は分かります。放射線量の高い道は歩かないようになりますよね」。
時間の経過とともに、被曝への危機感が薄れつつある。中には、被曝の話題を口にするなと怒り出す人さえいる。「でもね、放射線量のことは決して忘れてはいけないんですよ。大人がきちんと放射線量を把握していなければ、子どもたちに伝えたり、遠ざけたりすることができませんから」。
行政は広報紙などを通じて市内の放射線量を周知しているが、保育士は「自分の住んでいる地域以外は、なかなか目が行かない」と打ち明ける。だからこそ、必要な放射線量の〝見える化〟。
「先生、のど乾いた~」
1人の言葉を合図に、子どもたちは園舎に入って行った。
<JR安達駅近くの水田。手元の線量計は1.2μSv/hを超した>
<保育園の園庭脇は0.3μSv/hを上回る。保育士はため息をついた=二本松市油井>
【0.6μSv/hでの川遊び】
「ここは放射線量が高いから危ないよ」
そう声をかけると一瞬、子どもたちの歓声が止まった。「ここは放射線が高いってさ」。1人の男の子が仲間に言うが返事は無い。そして、再びの歓声。手元の線量計は0.6μSv/hに達していたが、川遊びを楽しむ子どもたちには野暮なおじさんにしか映らなかったようだ。
JR二本松駅前の六角川。遊んでいたのは、小学6年生の男女8人。真っ赤なザリガニを捕まえては歓声を上げ、川水を掛け合っては歓声を上げる。どこにでもある夏休みの風景。しかし他の地域と違うのは、ここには被曝の危険性が点在しているということだ。
雑草が刈り取られるなど水遊びができるように整備されたことで以前のように1.0μSv/hを上回ることはなくなったが、それでも安全に川遊びができるとは到底思えない数値。「放射線は気にならない?」と尋ねると、男の子は「うん。まあね」と小さくうなずいた。
川に面する市民交流センターに設置されたモニタリングポストの数値は0.280μSv/h。これだけを見れば、この3年で放射線量は下がった。しかし、ほんの数メートル移動して川に近づくと0.5-0.6μSv/h。河川法で川の除染が進められないのであれば、せめて数値を掲示して欲しい。
子どもたちはひとしきり川遊びを満喫すると、冷房の効いた市民交流センターに向かった。夏休みの宿題をするという。真っ赤なザリガニは、再び川面に放たれた。川の向こう側では、智恵子像が空を指さしていた。
<二本松駅前を流れる六角川は、依然として0.6μSv/hを超す高線量。だが注意を促す掲示もなく、小学生が川遊びを楽しむ。並行する車道でも数値は下がらない=二本松市本町>
【早く終わらせたい汚染土との〝同居〟】
「周囲の家がすべて除染されなければ、本当に意味での安全とは言えないんですけどね…」
二本松市油井の女性(50)は、自宅の除染が完了して1年。かつてのように庭で10μSv/hを超すようなこともなくなり、穏やかな生活を送る。だが、完全に払しょくされたとは言えない不安。3年間の約束で庭の一角に埋められたフレコンバッグ。それまでに破れたりしないか、本当に2年後に掘り返して仮置き場に移動させてくれるのか…。「早く仮置き場を整備して移して欲しいのですが、仮置き場に反対する方の気持ちも分かりますし」。想いは複雑だ。
東京都内で就職した長男が先日、恋人を連れて帰郷した。結婚が具体化しているわけではないため口にはしなかったが、母親として心配している事があるという。「本人たちは前向きに考えたとしても、あちらの親御さんや親戚が何と言うか。福島出身ということで反対されなければ良いのですが…」。
世間がどれだけ原発事故を昔話にしようとも、女性にとっては放射線の話題が日常であることには変わりない。
「福島での事故はもう終わりましたか?完全に収束しましたか?福島が収束できていないのに、なぜ再稼働の話が持ち上がるのでしょうか?そんなことをしていないで、もっと福島の再生や復興に力を入れて欲しいです」
(鈴木博喜/文と写真)<t>