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繊維のダイヤモンド 群馬の「天蚕農場」

 世界遺産の富岡製糸場から車で約1時間の距離にある、群馬県吾妻郡中之条町。この場所で野生の天然の繭を育てている、登坂工房を紹介する。

 

[caption id="attachment_24802" align="alignnone" width="240"]tensanAa <天蚕の農場。37棟のビニールハウスがある。1棟あたり約30本のクヌギが植えられている。>[/caption]

 

 昭憲皇太后が日本の養蚕業奨励のために始められて以来、代々皇室で受け継がれている養蚕。現在も美智子妃殿下が小石丸、黄繭、白繭、天蚕(蚕の種類)を飼育されており、登坂工房にも天皇皇后両陛下で視察訪問されたという。

  • [caption id="attachment_24802" align="alignnone" width="180"]tensanB <天皇皇后両陛下視察訪問の際に建てられた記念碑>[/caption]
  • [caption id="attachment_24802" align="alignnone" width="180"]tensanBa <宮内庁から特別に贈られた楓>[/caption]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天蚕は、白い蚕が桑の葉を食べるのに対し、クヌギやカシワなどを食べる。白い繭をつくる蚕も貴重だが、実はこれは人間が改良を重ねてきたもので、本来の野生の蚕・天蚕は緑色をしており白い蚕よりもやや固く、サイズも大きく10cm程だ。緑色の繭からつくられる絹糸は繊維のダイヤモンドと称されている。

 

 

[caption id="attachment_24802" align="alignnone" width="240"]tensanCa <天蚕>[/caption]
        • [caption id="attachment_24802" align="alignnone" width="240"]tensanCc <工房内の様子。ここでワークショップに参加することもできる。>[/caption]
        • [caption id="attachment_24802" align="alignnone" width="240"]tensanCe <天蚕を80度で茹で、素手で糸を引き上げていく。>[/caption]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平成元年から天蚕を育て続けている登坂昭夫さんは、今年6万粒の種をクヌギの葉につける「山付け」と呼ばれる作業を行った。うち3万ほどが繭に育っていく。

 

 普通の絹以上に天蚕は希少価値があるのだが、その需要は少なく、養育を維持していくことも簡単な事ではない。そんな中、天蚕のタンパク質・シルクプロテインは人と同じ18種類のアミノ酸であることが発見されており、衣類はもちろんのこと、伝統文化の継承を意識した化粧品開発なども推し進められている。

 

 米国ではKBL社が、遺伝子操作で蜘蛛と蚕を合わせ、抜群の強さと軽さを誇る「モンスターシルク」を技術開発したことを発表した。技術的には優れたものであり、医療現場等で活用されるとはいえ、人間がまた禁じ手を使ってしまったような印象を受ける。

 

 天蚕のような自然の恵みから織り成す絹糸の美しさと効力は、直接目にして手にする必要がある。富岡製糸場と絹産業遺産群の世界遺産決定をきっかけに天蚕も脚光を浴びるかもしれないが、同時に私達人間がどのような生活を営んでいくのか改めて考える機会でもある。

 

(成瀬久美/文と写真)