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スノーデン氏ロシア亡命1年を前に米諜報機関、ドイツでスパイ事件発覚

 7月31日、アメリカの元諜報機関職員エドワード・スノーデン氏が、ロシアに1年間の亡命を認められてからの期限を迎えるのを前に1年間の亡命延長を申請した。

 

 その直前、ベルリン駐在の米情報担当高官2人にドイツの連邦情報庁と国防省の職員がそれぞれ機密情報を渡していたとして相次いで逮捕されたり検挙されたりした。事件を重く見たドイツ政府はベルリン駐在の米高官2人(CIAベルリン支局長ら:ドイツ・メディア)を国外退去処分にした。

 

 親米で知られるメルケル首相だが、“同盟国政府へのスパイ活動は基本的な信頼関係を損ねるもので(倫理上の)一線を越えている”、とアメリカ政府を厳しく批判している。ドイツはアメリカのヨーロッパ最重要同盟国だが、イラク戦争へのドイツの参戦拒否以来、アメリカ・ドイツ関係は最悪になり、EUとの自由貿易交渉にも影響を及ぼしそうだ。

 

 日本では、人々の日々の活動に支障が出ている欠陥が指摘されながら個人情報保護法が作られているのに、こと「スノーデン氏事件」に関しては政府もマスコミも無視を決め込んでいるようだ。他方、ナチス支配や旧東独の一党独裁体制の暗い過去を知るドイツ国民は政府機関の個人への監視に極めて敏感、連邦議会に真相究明が目的の調査委員会が作られ毎週のように報道されている。

 

 2つのスパイ疑惑が持ち上がった今回は、与党野党の別を超えてアメリカ政府批判の声が強く、メルケル首相は、国民一般の批判を無視できなくなったと言える。ドイツでは政府もメディアも「幾ら同盟国でもやって良いことと悪いことがあり、スパイ活動は友人関係を損ねる最悪の行為」との論調だ。

 

 2日に連邦情報庁職員が逮捕された事件は、この職員がベルリン駐在のアメリカ情報機関高官に機密情報を過去2年間に亘って提供し、謝礼に2万5000ユーロを受け取っていた、というもの。

 9日、国防省職員に対する捜査開始が発表された事件は、ドイツ連邦検察庁は新たに米情報機関高官に機密情報を提供していた疑い。検察庁は国防省職員の自宅や国防省内を家宅捜索した。

 数日のうちに2つのスパイ事件の発覚でドイツ国内には強い批判と怒りの声が上がっている。

 

 ドイツ政府は、ウクライナ危機やシリア、イラク危機、国内育ちのイスラム過激派によるテロなどの情報収集でアメリカ政府とは緊密な協力関係があり、両国ともに互いに欠かせない相手だ。今回の事態は単なる抗議や批判声明だけでは収まりきれない。兎角親米で知られるメルケル首相も怒りを示したが、ドイツ国民の強い怒りもあって、何らかの結果を導く対応を取らざるを得なくなっている。情報機関職員2人の国外退去処分は最初のその表れだ。

 

 ドイツでは、スノーデン氏が公開したデータで米NSAがメルケル首相の携帯電話会話を盗聴・傍受していたことが昨年秋あきらかになった。以来ドイツでは、この“NSA事件”の解明を求める世論の圧力を受け連邦議会で調査委員会が作られ、スノーデン氏の事情聴取を国内でするべきか否かなどが議論されている。

 

(スノーデン氏の公開データで日本政府、国連代表部なども通信がNSAによって盗聴・傍受されていたと明かになったが、怒りはおろか、殆ど問題にならなかったのとドイツの姿勢は全く異なる。たとえ親密な関係であっても、一線を越えたことには断固とした姿勢で臨む。ドイツには主権国家としての一つの信念がある)

 

 アメリカ情報機関は、ドイツ連邦議会の動きも警戒して議会審議の情報も入手していたと指摘されている。

 ドイツ国内では、米欧間の自由貿易協定協議の見直しや、スノーデン氏のドイツ亡命を認めるべき、との声も出ている。

 

 米独政府は揃って両国関係は最重要関係の一つであると認めており、直ちに協力関係にひびが入ることは無い。そんな両国関係が弱くなっているオバマ大統領は、メルケル首相の携帯電話盗聴が発覚して直ぐにメルケル首相に「二度と行わない」と約束した。

 一方、ドイツ側はアメリカ政府・大統領からの明白な謝罪を求める姿勢は崩していない。ドイツ側の怒りは一層強まり米独関係は、ドイツ政府が2004年のイラク戦争への参戦を拒否して以来12年間で最悪になったと言える。

(イラク戦争時でも米独間の他の協力関係や貿易・通商関係は殆ど影響を受けなかった)

 

「親しき仲にも礼儀あり」。ドイツ政府の姿勢は相互信頼の上に立ってこその同盟関係である、と一つの規範を示している。

 

 兎角、アメリカが云々という日本の政府や高官、そしてマス・メディア、ドイツ政府のようなケジメを少しは示すくらいの見識を望む。

 

(大貫康雄)

PHOTO by Laura Poitras / Praxis Films [CC-BY-3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons