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シナリオありきの警察・検察の取り調べ【松江介護詐欺事件・第8弾】

 松江介護詐欺事件で1審有罪(控訴中)となった島根県松江市で介護事業会社「いずみ」を経営する田窪紘子さん(73)のリポートの続報をお届けする。

 

 紘子さんは、1審の執行猶予付き有罪判決を不服として控訴した。判決内容そのものというより、それまで繰り返された違法で非人道的な取り調べに対する怒りが原因だったといってもいい。いったいどんな取り調べだったのか。

 

 紘子さが、こう語る。

「警察では、村尾という刑事が取り調べの担当でした。私が否認の供述をすると、いつも決まって『息子さん、仕事がやりにくくなるでしょう』『息子さんの迷惑にならないように素直に話したらどうだ』と、容疑を認めるよう迫られた。私の長男は公務員をしているんです。それで、『テレビ、新聞で騒がれてもいいのか』とか。正直に話しても、村尾刑事の考えと違うとダメなのです。あるとき、息子のことを何度も言われ、パニックになって本当のことが書かれていない供述調書にサインしてしまいました。訂正を求めたが、してくれない。大声で『あなた逮捕されているんだ。わかっているのか、反省がないんだ』と罵倒されたこともありました」

 

「ガンのせいなのか、体調が悪いとき、取り調べ中に水が欲しいと言うと『真実を言う方が先だ』と言ってなかなか水を飲ませてもらえなかったことも」

 

「裁判になる、それで負けたら、介護の会社もなくなるし、息子さんも(医師の)娘さんも困るから、素直に話せと脅されるように供述を強要された」

 

 その言葉を裏付けるように、紘子さんが勾留されていた時につけていた、被疑者ノートには村尾刑事の言葉が書かれていた。

 

<裁判になったら、テレビ、新聞などに出るので息子さんがこまるじゃあないですか。早く腰を下ろされた方がいいですよ>(2013年10月6日)

 

 それでも、紘子さんは警察、検察ストーリーに合うような供述調書を拒否し続けた。

「村尾の取調べで、介護の担当者から名義借りをしていただろうと責められ、私はそれを認識していなかったといいました。すると、担当者の名前を挙げて〇〇名義貸しと10回書けと強要してきた。腹が立って書かないと『もう供述調書とらないかもしれない。早くサインした方がいいよ』などと脅すように言われたんです」

 

 こうした非道な捜査は警察だけでなく、松江地検でも同じだった。担当は江渕悠紀検事だった。紘子さんは言う。

「江渕さんは、よく私に指さして『このままでいいのか』『もう証拠は揃っている』『あなたはね』などと挑発するように言いました」

 

 紘子さんの被疑者ノートにも、

<検察庁、エブチさん、脅される。つよいくちょうで話される>(2013年9月18日)

 と記されている。

 

 恫喝、脅しの取調べは明らかに問題、いや犯罪だ。

「体調が万全なら、裁判で戦った。だが、あのままずっと拘束されていれば、生きて出られなかったかもしれない。仕方ないのですが、悔しいです」

 と紘子さんは絞り出すように語った。

 

 紘子さんは身に覚えのない罪を着せられ、重病を抱えながら長期間、勾留され、違法な取り調べを受け続けた。

 

 厚労省の村木厚子さんの事件や袴田巌さんの事件、菅家利和さんの足利事件など、冤罪がわかるたびに警察や検察は反省を口にする。だが、それが口先だけなのは、紘子さんの声を聞けばよくわかるというものだ。

(おわり)

 

【松江介護詐欺事件】

2012年秋、島根県松江市の介護事業会社、いずみの田窪紘子被告が逮捕、起訴された。松江市に介護事業の得られる生活支援給付金を不当に請求し、余分に得たという詐欺容疑。しかし、いずみは年商8000万円ほどあり、詐取した金額が約15000円と不自然なもの。紘子被告は、否認を続け争っている。ゆえに、ガンで緊急手術を余儀なくされたにもかかわらず、ずっと拘束されたままの状態が続いている。

 

(今西憲之)

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