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宇宙線で事故原発の内部を確認できる機器を投入?

 事故を起こした原発の内部の状況も判らないままの福島第一原発の内部を確認・映像化できる機器が投入される!?
 
 NYタイムズ国際版が6月19日付で報じたもの。要点は以下の通り。
 
 事故を起こした原子炉の格納容器など核心部分の内部は超高濃度の放射能のため人間が近づくには危険すぎる。内部状況は調査も検証もできない。このため3年半経っても肝心のデータが把握できず適切な対応措置もとれないままだ。
 
 ロスアラモス・アメリカ国立原子力研究所の最高技術責任者(Duncan W. McBranch)氏は言う。分厚いコンクリートや鋼鉄の壁などを遠く安全な場所からの検証が必要だが、X線など従来の技術では出来ない。しかしミューオン(ミュー[μ]粒子、英語ではmuon)を使って内部状況を確認できる可能性がある、と。
 
 ミューオンは電子の2000倍の質量をもつ、高エネルギーの宇宙線が大気中であらゆる物質の分子と衝突して生じる粒子。光速に近い速さで絶え間なくあらゆる場所で地球に降り注ぎ、地中深くまで到達する。
  
(スイスのベルン科学博物館で開かれたアインシュタイン生誕100年展に降り注ぐミューオンを映像化する装置があった。ニューオンは脈絡なく、絶え間ない集中大雨のように降り注ぎ、我々の体内を突きぬけていく。我々が痛みを感じることはない)
  
 このミューオンが偶然原子核に衝突して方向転換する。その瞬間を捉えて衝突した物質を特定し形や密度を知る手がかりが得られる。この技術はミューオン断層撮影(muon tomography)と呼ばれる。大型の貨物輸送車両やコンテナを外部から中にスキャニングしウランやプルトニウムが隠されていないか僅か45秒で確認できるという。また3次元映像化もできるという。
 
(ミューオンは世界の陽子加速装置で利用され、また日本では宇宙線から派生するミューオンで火山の内部を映像化する研究がすすめられている)
 
 ロスアラモス国立原子力研究所はこの技術のライセンスを供与しヴァージニア州の企業DSI・デシジョン・サイエンス(Decision Sciences International)社がミューオン断層撮影装置を開発し、貨物に外部からミューオン照射をして放射性物質の有無を確認でき、輸出入現場などで使われている。
 
 ロスアラモス国立原子力研究所は改めてDSIそれに日本の東芝とも契約を結び、福島第一原発の現場に持ち込み早ければ今年後半にも実証実験を開始する、という。
 

 事故を起こした福島第一原子力発電所での作業となると、物質の種類、その形状、核種など詳細なデータ収集が必要だ。
 原発の高い放射線から機器を防御する装置も現場に応じて作る必要がある。また長時間の照射や分析が必要で、実証実験をはじめてから事故を起こした3つ原発内部全ての詳細を確認するまでは数週間かかる。映像データは来年初めには入手可能となる、見られている。
 
 福島第一原発事故の直後、世界各国から技術支援の申し出が相次いだが、日本政府も東電も積極的に技術支援を仰ごうとせず、ごく一部を除き自分たちの技術に固執し続けた。
地下の凍結壁建設も、各国専門家の懸念にも拘わらず固執して結局行き詰った。

 事故から3年半、ここに来てようやく外国の技術を取り入れ始めたのだろう。これまで事故原発からは汚染水が流出し続け、大気中にも放出が続いている。何故、もっと早く出来なかったのか。
 
 未曾有の大事故を起こした責任の追及は無く、被災者補償も全くお粗末な状況の一方で原発運転を再開しようとしている。
 
 事故を真摯に捉える姿勢も無ければ、自分たちの技術を過信した政府、東電の責任、優柔不断さに苛立つのは筆者だけではないだろう。
 せめて今度こそ一刻も早く原発内部の実態を突きとめ、最善の収束策が講じられることを祈るのみだ。
 
(大貫康雄)
写真:福島第一原子力発電所1,2号機原子炉建屋(東京電力HP写真・映像ライブラリーより)
撮影日:2011年4月10日