安倍外交と報道
安倍総理が6月3日から7日までブリュッセルでのG7先進国首脳会議などに出席して帰国した。“地球儀を俯瞰する外交”という謳い文句で各国首脳と会談しては記者会見。
先の5月の連休中の独英仏、ポルトガル歴訪時と同様、日本のマスコミは一部の例外を除き、今回も何の具体的な検証もせず、安倍氏の記者会見での発言を一方的に垂れ流した。
筆者には、こうしたマスコミ報道が、実態を知らない一般国民の間に安倍氏の好印象を維持する要因の一つになっていると思えてならない。
そこでマスコミとは別の視点で“地球儀を俯瞰する外交”を少し俯瞰してみよう。
今回はG7首脳会議の前にEUのヴァン・ロンプイ(EU代表部に確認)大統領、欧州委員会のバローゾ委員長の二人と会談、次いでフランスのオランド大統領と15分間、ドイツのメルケル首相と10分間会談したという。肝心のオバマ大統領には拒否され会談は実現せず、立ち話が精いっぱいだったとか。
時間の長短で内容云々をいうつもりはないが、具体的な話し合いは出来なかっただろう。
5月のヨーロッパ歴訪時にはメルケル首相と会談し、特に中小企業間の協力を話し合ったようだ。しかしドイツは再生可能エネルギー開発進展を率先して推進する国、中小企業の省エネ、再生エネルギー技術開発も盛んで、メルケル政権は“再生可能エネルギークラブ”を作り各国に参加を呼び掛けているが安倍政権下の日本は反応を示していない。(中国も呼びかけに応じている)これでは基本的に議論がかみ合わなかっただろう。
一方ドイツのメディアは一斉に、安倍政権の原発推進政策を批判していた。
その後フランスのオランド大統領とも会談し原発事業の協力を話し合っているが、フランス企業は中国企業と共同事業を推進している。フランスは日本を競争相手か売り込み先の客、と見ているだけだ。同床異夢と言って良い。
キャメロン首相、安倍氏がすり寄ってくるのは歓迎だが、イギリスでは中国企業が最新の原子力発電所を建設中だ。
安倍氏5月は最後にポルトガル訪問となったが、今年はポルトガルは独裁体制に反対して兵士が立ち上がったのを国民が支持した民主化革命(いわゆるチューリップ革命)から40年。安倍氏が本当に民主主義の価値を信じ推進するのであれば、その民主革命を讃えるべきだった。少なくともポルトガルでの評価は高まったことだろう。
今回のG7首脳会議でも安倍氏は盛んに“法の支配”、“力による現状変更に反対”を繰り返し、間接的に中国批判を繰り返したと言う。(安倍氏が“法の支配”の本当の意味を知っているのか否かここでは触れない)
中国は人権上問題が多い一党支配の国だが、中国を如何に国際社会の健全な一員にするかが肝心。何といっても欧米にとっては最大の貿易相手だ。
またウクライナ問題が焦眉の急の現在、安倍氏が浮き上がった感は否めない。
安倍氏はG7首脳会談の後、イタリアを訪れ、ヴァチカンのフランシス教皇とも会談した。フランシス教皇は貧困に苦しむ人たちの救済を訴えている人だ。
日本の貧困率が先進国でも最悪の水準に陥る状況で、一体どんな会話を交わしたのだろう。マスコミの報道を見る限り、良く判らない。
これは安倍氏の責任、ではないが、G7首脳会議の場で一人のユーモアに皆がドッと笑う瞬間があったが、安倍氏一人に反応が無い。ユーモアを理解するセンスと、英語の能力の差に尽きるのだが、やはり安倍氏が場違いの処にいる、という印象をぬぐい切れなかった。
日本の記者クラブ・メディアが本質的な質問をすることなく安倍氏の発言を垂れ流すのは情けない限りだが、
一方で最も問題なのは安倍氏自身が記者団の質問に対し、既に読み上げた発表文を殆ど繰り返すだけの応答しかできないことだ。
英語通訳で聞いていた限りだが、G7首脳会議後の記者会見でもAP通信記者の質問に対し具体的な説明もなく、発表文を殆ど繰り返す答えしかしていなかった。
これでは“中身、実態が無い”、“何も理解していない”、と見られても仕方がないし、日本の政治家の知的水準を疑われ、ひいては日本の評価に影響するのを自覚して貰いたい。
安倍氏の5月のヨーロッパ歴訪では12~3億円の公費(税金)がかかったとの報道もある。安倍氏も記者クラブ・メディアも、“外交は国民の利益のためにある民主主義国家の原則”を弁えるべきだろう。
写真:首相官邸HPより(G7及びEU首脳と写真撮影に臨む安倍総理)