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市民の不安に寄り添わない伊達市 ~0.5μSv/hでも安全?「0.23μSv/hがひとり歩き」とも

 伊達市民が怒っている。小国地区は依然として1.0μSv/hを超す汚染が続き、比較的放射線量が低いとされる市街地でも、仁志田市長が市長選挙の公約に掲げた「Cエリア除染」が中途半端なまま。市幹部は「県内で最も進んでいる」と除染に胸を張るが、一方で0.23μSv/hは実態にそぐわないとして環境省に除染基準の引き上げを要請する動きも。行政は本当に市民の不安に寄り添う気持ちがあるのか。
 
【いまだ高線量の小国地区、農家の怒り】
 「仁志田(市長)は小国を馬鹿にしている。こんなに放射線量が高いのに、もう安全だと言わんばかり…。小国は人口が少なくて選挙でも大した票にならないから、どうでも良いんだろ。仁志田は大票田の保原しか見ていないんだよ」
 70代の男性は怒っていた。伊達市の東側、相馬市や飯舘村に近い霊山町下小国地区。桃の剪定作業を一時中断し、脚立を下りる。足元には、ピンポン玉ほどの大きさの青い桃が転がっていた。
「もっとこっちさ来てみろ」。
 早口でまくしたてる男性に従って移動すると、手元の線量計は1.3-1.4μSv/hを示した。
「小国は伊達市の中で一番、放射線量が高いんだ。飯舘村と変わらないだろ?本来はマスクをしていなきゃ駄目なんだ。子どもなんか絶対駄目。1mSv/年どころじゃないよ。いわき市に住んでいる孫は1回も来たことが無い。そりゃそうだよなぁ」。
 男性の自宅は特定避難勧奨地点に指定され、一時、梁川町に避難していた。「もっと避難していたかったさ。でも打ち切られちゃったし、こいつ(桃)もあるしね。仕方ない。戻って来たよ」。
 別の畑では、小国地区に生まれ育ったという男性(65)がキュウリを栽培している。ビニールハウス前で手元の線量計は1.0μSv/hを超えたが、男性は「つい先日、市職員が測ったら平均で4μSv/hだったよ。地表真上で10μSv/h超えた個所もあった」と話した。
「除染の計画はあるようだけど、具体的な日程は何も決まっていないよ」と男性。
 キュウリの収穫は、真夏にピークを迎える。
「うちは原発事故前からハウス栽培だからセシウムは検出されていない。でも、これだけ放射線量は高いし、不安に感じるのは当たり前じゃないかな。人によって考え方は違うし。一概に〝風評被害〟とは言えないよね」
 もうすぐ4度目の夏。
 先の男性は、桃の剪定作業を再開しながら言った。
 「結局、こんな状態で毎日、農作業をしている。原発事故が収束するには20年も30年もかかるんだろ?そのころには俺は死んじまってるな」
 深いしわが刻まれた顔には、苦笑とも泣き顔ともつかない表情が浮かんでいた。
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1.3μSv/hを超す桃畑。生産者の男性は「子どもには絶対駄目」と憤る
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キュウリのビニールハウス前でも1.0μSv/hを超した。「場所によっては地表真上で10μSv/hに達するよ」と農家の男性
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墓地のすぐ横に設置された仮置き場=霊山町下小国


【「県内で一番、除染が進んでいる」】
 市民の怒りをよそに、市当局の〝暴走〟は止まらない。
 仁志田昇司市長は「だて復興・再生ニュース」5月22日号に「年間1ミリシーベルト=0.23μSv/hの呪縛」と題したコラムを掲載。
「1ミリシーベルトが、今すぐ達成されていないと安心できないという市民の受け止め」「国の示している0.23μSv/hは実態に即していない。年間1ミリシーベルトは0.46~0.5μSv/hだ」などと持論を展開し、0.23μSv/h以下の空間線量を求める市民を暗に批判している。
 また昨年10月、原子力規制委員会の会合に提出された参考資料「『伊達市の除染』について」では、仁志田市長の決断力などによって同市の除染が他市に先行した、としたうえで「仮置き場への、かたくなな抵抗」「説明会100回…でも、誤解が解けない」「0.23μSv/hがひとり歩き」「全体を見ている行政vs自分の家だけの住民」「自分の近くにある放射能忘れた?→単なる迷惑施設」(原文ママ)などと、不安を抱く市民を愚弄しているともとれる表現が並んでいる。
 資料を作成した伊達市放射能対策政策監の半澤隆宏氏は、苦笑交じりに否定する。
 「市民を愚弄?そんなつもりは毛頭ありません。まあ、どう解釈していただいても良いですよ。それは自由ですから。それに、パワーポイントで作った資料なんてそんなものだと思っています。あれは市民向けに公表するものでもないですしね。ある程度、ストレートな表現にならざるを得ない。第一、別の資料でもはっきり書いていますけど、私は住民の協力があったからこそ、ここまで除染が効果的に進められたと思っているんです」
「伊達市の除染が福島県内で一番進んでいる」「うちほど進んでいる自治体はない」と胸を張る半澤政策監。
「自然低減が進んだ今から除染始めても、0.8μSv/hが0.4μSv/hに下がるだけ。しかし、伊達市は早めに取り組んだおかげで3μSv/hが1μSv/hに下がった。これは、福島市や郡山市をはるかに凌ぐ除染効果ですよ。今でも放射線量が高い個所が通学路などに点在していることは承知しています。では、除染をやらずにおいて良かったんですか?やらないよりはやった方が良かったでしょう」
 過去に経験のない未曽有の事故。わずか3年で被曝の危険性や住民の不安感が払しょくできるはずがない。
 「われわれは神でも預言者でもありませんから、安全だとも危険だとも断言できません。分からないのだから、放射線を気にする自由、気にしない自由、どちらも尊重されるべきです。100人いたら100人全員を同じ方向に向かせることなどできませんしね」
 最後に「伊達市は汚染されている、という表現は事実に反するか?風評か?」と尋ねた。半澤政策監はきっぱりと言い切った。
 「風評ではありません。伊達市が放射性物質に汚染されているのは事実です」
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霊山町から保原町に抜ける県道349号線には0.5μSv/hを超す個所も=保原町柱田
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阿武隈急行線・保原駅前のモニタリングポストは0.39μSv/h
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除染土の仮置き場には、保原高校美術部の生徒が描いた絵がフェンスに掲示されている。「生活圏に設置された仮置き場の景観が住民に与えるストレスの緩和策」という


【「Cエリア除染」の公約はどこへ?】
 伊達市は、市内を空間線量の高い順にABCの三つのエリアに分類し、優先順位をつけて宅地の除染作業を行ってきた。
 Cエリア(5mSv/年以下、市全体の70%)の保原町に住む女性は今春、市職員による測定で自宅2階の雨どいが4.7μSv/hに達したことに驚いた。だが、もっと驚いたのは「2階はフォローアップ除染の対象外」として手つかずのまま放置されていることだ。
「住民を馬鹿にする言動ばかり。Cエリアの除染にしても、フォローアップなどというあいまいな表現を使ったと思ったらこれです」と女性。
 Aエリア(特定避難勧奨地点を含む線量の高い5地域)やBエリア(Aエリアに隣接し、5mSv/年以上)同様に除染を実施するよう求めるのは当然だ。
 仁志田市長は今年1月、市長選挙に際して配布した「後援会NEWS」で「Cエリアも除染して復興を加速」と赤字で明記した。
 さらに当選後の3月市議会で「市民の安全イコール安心ではないという思いに配慮しながら、安心を確保するため、丁寧にやっていきたい」「市民を直接話をする機会があり、何らかの手を打つべきと感じた」と答弁している。
 選挙の公約で掲げ、丁寧に実行するはずが、ここに来て除染の基準を0.23μSv/hから引き上げるよう、福島市、郡山市、相馬市と共に環境省に要請する仁志田市長。広報紙に掲載されているコラム「市長日誌」2014年1月号では、こうも書いている。
 「そもそもヨーロッパでは1キロあたり1200ベクレルが基準だし、毎日食べるのであれば如何かと思いますが、多少基準値をオーバーしていても、美味しい物を食べた方が精神衛生上はいいのではないですか」
 これでは市民の不安に寄り添う政策が実行できるはずがない。
 

(文と写真:鈴木博喜)<t>