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不屈の詩人、マヤ・アンジェルーさん死去(86歳)

 人の生涯は一言で言いつくせない。

 現地時間5月28日、86歳で亡くなったマヤ・アンジェルー(Maya Angelou、Marguerite Ann Johnson)さんは、現代アメリカで最も幅広い層に読まれた黒人女性詩人であり、歌手であり、また不屈の公民権活動家でもあった。

 日本でも翻訳されていると思うが、彼女が一躍世に知られたのは1969年に出版された自伝「かごの鳥が何故啼く(歌う)のか知っている I Know Why the Caged Bird Sings」だろう。

 南部アーカンソーに黒人の子として母子家庭に育ち、8歳の時母親の恋人にレイプされ一時声を失ったこと、それを母の愛で克服し歩み始めた過酷な子供時代を、抒情的な、しかし容赦の無い表現で記している。その後、自伝は7巻になったがいずれも広範な層の読者に読まれている。

 オバマ大統領はアンジェルーさんの死を悼み、“現代の最も輝く光brightest lightであった。聡明な作家、しかし最も手厳しいfierce友人で存在自体が現象そのものの女性(a truly phenomenal woman)だった”と讃えている。各国メディアも長い追悼記事を載せている。

 アンジェルーさんは詩人であり弱者の権利擁護、人種差別と闘う活動家でもあった。そしてその活動を詩に謳い、またカリプソ歌手として、更にアメリカ現代オペラ『Porgy and Bess』にも出演、オペラ歌手としても活躍した。

 彼女の声が世界に広まったのは、1993年1月の厳しい冷え込みの朝だった。
 ビル・クリントン大統領就任式で自作の詩「朝の脈動にOn the Pulse of Morning」を朗詠した。厳寒の空気を震わせるように、太くて力強く朗々とした声がアメリカ議会前広場に響き渡った。

 詩は意味が大まかに判れば本来、原語で聞くのが一番で、彼女が就任式で自作の詩を朗読するのをビデオで聞き、その響きを、リズムを感じると英語が判らなくても胸に響く。


 全くの拙訳で恐縮だが、その時の詩の一部を紹介する。アンジェルーさんのメッセージをくみ取って貰いたい。

~岩よ、河よ、木よ、
A Rock, A River, A Tree
既に長く死に絶えてしまった種の宿主に
Hosts to species long since departed,
巨像マストドンも痕跡を残している
Marked the mastodon.~
、、、、

~来たれ、そして
Come, you may stand upon my  
私(岩)の背に立ち、遥か彼方の貴方の運命を直視せよ
Back and face your distant destiny
しかし私(岩)の陰に安息所を求めるな。
But seek no haven in my shadow. ~
、、、、
(と続く詩はアメリカ社会が困難の末、遂に幾多の人種間の融和をなしつつあると謳う)

~歴史よ、挫折と苦痛にも拘わらず
History, despite its wrenching pain,
それを償うことなしには続かない
Cannot be unlived,
しかし(それが再来しても)勇気を持って直視すれば
but if faced
With courage,
そんな(過去の)歴史はもはや存在の必要ない
need not be lived again.
目を上に開けてみよ
Lift up your eyes upon
貴方達の画期的な日を
This day breaking for you.~

PHOTO by Talbot Troy (originally posted to Flickr as Maya Angelou) [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons