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【38カ月目の福島はいま】異口同音に語られる「被曝が不安な人は既に避難した」~福島市、大玉村

「健康被害など無い」と大学生は笑った。クマガイソウを楽しむ観光客でにぎわう里山では、お年寄りが「被曝を気にしないから住んでいる」とつぶやいた。そして、小さな村が翻弄される除染と〝0.23μSv/hの壁〟。地元男性の協力を得て、福島市から大玉村までを車で廻った。福島第一原発から約60kmの中通り。3年経っても汚染は依然として解消されていないが、住民は異口同音に言う。「放射線など気にしていない」…


【「誰も倒れていない」と大学生】
 漫画「美味しんぼ」の騒動でにわかに話題になった福島大学。東北本線・金谷川駅からほど近いキャンパス内は除染が施されているが、学生たちは依然として放射線と隣り合わせの生活を送っている。


 キャンパス内にある「信陵公園」。大学側も「静かで、休憩にはもってこいの場所。小高い丘の上には、東屋があり、散歩コースにオススメ。吾妻・安達太良連峰の山々がとてもきれい」と胸を張る森だが、少し足を踏み入れただけで手元の線量計は0.5μSv/h近くに達した。周囲に放射線量の掲示など何も無い。


 とても学生が散歩を楽しむような環境ではないが、危機感を抱いているのは私だけの様子。大学総務課は「あまり学生が立ち入るような場所ではありませんから」と話す。森の入り口近くのベンチで談笑していた学生グループに声をかけても「放射線ですか?うーん、原発事故の直後は関心がありましたけど、最近はまったく無いですね」と口を揃えた。


 「だいたい、あの『美味しんぼ』の描写には驚きました。私自身、原発事故以降にかなり被曝しているはずなのに、一回も鼻血出たこと無い(笑)。周りでも誰も倒れたりしているわけではないですし…」。女子学生は時折笑みを浮かべながら話す。傍らの男子学生も「被曝、被曝と福島県外の人が騒いでいるという感じですね。先生も授業で『福島は安全だ』と言っています」とうなずいた。


 福大から国道4号をはさんだ福島県立医科大学。モニタリングポストの数値は0.522μSv/h。校内のベンチでは学生が弁当を食べていたが、手元の線量計は0.5μSv/h前後で推移していた。駐車場付近の植え込みでは、0.6μSv/hを上回った。


福島大学にある信陵公園は、依然として汚染が解消されていない。しかし学生は「別に気にしていないですね」=福島市金谷川

福島県立医大の中庭。近くのベンチでは学生が弁当を食べていた=福島市光が丘

福島市松川町水原の「クマガイソウ群生地」。土日はボランティアスタッフが休憩できないほどの人出だという


【「不安な人は既に避難した」】
 東北自動車道・福島松川パーキングエリアのさらに西。福島市松川町水原の里山は、「クマガイソウの里まつり」が開催されているとあって、カメラを手にした観光客でにぎわっていた。お目当ては斜面一面に咲いた約7000株のクマガイソウだ。ラン科の多年草で絶滅危惧種に指定されている。福島市によると、野生クマガイソウの群生地は、全国に3か所しかないという。


 「2011年は山は開けたけれどイベントは自粛しました。来てくれた人には案内をしようと毎日、会員がここに来ていました。特製の絵葉書を用意してね。あれから少しずつ、観光客が戻って来ました。この辺りは当初から放射線量は低かったんですよ。まあ、気にする人は気にするだろうけれど…」。ボランティア団体「水原の自然を守る会」の男性会員は話した。


 「俺たちは避難せずにここに残って生活しているからね。放射線は気にしていないよ。不安に感じている人は既に、避難してしまったろう」とも。女性スタッフに放射線のことを尋ねると、急に表情が曇って口も重くなってしまった。「この辺りは放射線量は高くないからねえ」。


 観光客が息を切らせながら山道を登り、満開のクマガイソウに感嘆の声をあげる。山の向こうは土湯温泉。手元の線量計は0.24μSv/hだった。


国道115号に面する「道の駅・つちゆ」。土湯温泉周辺は比較的放射線量が低い=福島市松川町水原

「ふれあい村民の森」に設置されたモニタリングポスト

森に少し入ると、手元の線量計は0.3μSv/hを超えた。大玉村も汚染とは無関係ではない=安達郡大玉村前ヶ岳(写真はすべて05/20撮影)


【村役場悩ませる「0.23μSv/hの壁」】
 福島第一原発から約60km。二本松市や本宮市、郡山市に囲まれた安達郡大玉村。人口8500人足らずの小さな村も、いまだに放射性物質の拡散に翻弄されている。


 「雨どいの真下や水の溜まる場所など、局所的に1-2μSv/hに達する個所は、やはり村内にもあります。現在の放射線量が高いか低いかは住んでいる方々各人の判断になるかと思いますが、村としては放射線量が0.23μSv/hを下回ると除染はできないのです。国から交付金が下りないからです。村の財政だけではとてもできませんから…」


 村役場の再生復興課原発災害対策係。取材に応じた男性幹部は〝0.23μSv/hの壁〟に苦い表情を見せた。「もちろん、村民からの苦情もありますよ。何でやってくれないのかって。0.01μSv/hでも下回れば除染できないわけですから。逆に『この程度の数値なら除染しなくて良いよ』という声もあります。本当に、放射線量の捉え方はそれぞれです」


 村役場から車で10分ほどの「ふれあい村民の森」。8ヘクタール超の広大や里山の入り口に設置されたモニタリングポストの数値は0.348μSv/h。手元の線量計も、森に少し入ると0.3μSv/hを超えた。子どもを遊ばせるには決して安全とは言えない数値。役場近くで聴いた、女性の言葉が思い出された。


 「お母さんたちはもちろん、心の中に不安を抱えているとは思います。実際、そういう話題も出ます。しかし、私たちはここで暮らすと決めました。役場もきちんと除染をしてくれていますし、大丈夫ではないでしょうか」


(鈴木博喜)<t>
Eye Catch Photo by BehBeh, via Wikimedia Commons
The Ōu Mountains in Kōriyama, Fukushima