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中国政府がジャーナリストの高瑜氏を拘束。これは日本の特定秘密保護法を連想させる事例だ(大貫 康雄)

中国政府は、天安門事件25周年を前に国民の批判を抑えるため、天安門広場に150輌の装甲車を配置するなど警備体制を強化する一方、言論活動家への締め付けを厳しくしていた。

5月8日、中国国営・新華社は、共産党政権を一貫して批判してきたジャーナリスト・高瑜(Gao Yu・70歳)氏を拘束していることを報じた。高瑜氏については、氏が寄稿していたドイッチェ・ヴェレ(DW・Deutsche Welle)が4月末に姿を消したと報じて以来、各国のメディアが消息を追っていた。

氏の拘束事件は、日本の特定秘密保護法を思わせる。安倍・自民党政権は今年の末までに厳しく適用条件を定めると言うが、どこまで国民の納得いくものになるのか予断を許さない。高瑜氏の事件は、このまま特定秘密保護法が実効されるとどうなるかを想起させる無視できない一例だ。

新華社の報道によると、北京市警察は高瑜氏を4月24日以来拘束していたという。理由は、氏が中国共産党中央指導部の秘密文書違法に入手し、海外ネット・メディアに提供したため。その結果、2013年8月にある海外ネット・メディアが報じて以来、多くのメディアが転載した、と。

しかし、具体的にどんな秘密文書をいかなる手段で入手したのかなど、具体的な点が明かにされていない(日本の特定秘密保護法も中国と同じく、ジャーナリストを処罰対象にし、違法な入手手段についても具体的に規定されていない。同じように、誰が一体いかなる理由で違法と判断するのかも不明だ。これでは裁判になりようがない)。

中国政府は、高瑜氏の拘束に続き、知識人や著名な人権擁護派弁護士を相次いで拘束している。

高瑜氏は93年にも同じように国家秘密を暴露したとして逮捕され、94年に懲役6年の刑を言い渡されている(この裁判は、一方的な審議の末、6年の刑期を言い渡されている。日本の特定秘密保護法、現時点で考える限り、時の政権の都合で何年も延長されかねない)。

89年6月4日に民主化を求める学生たちの集会を中国政府が武力で鎮圧。いわゆる天安門事件では、数百人が殺されたと言われるが実態は知らされていない。すべては秘密として隠されたままだ。

国際NGO「人権監視・ヒューマンライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)」は、今回の高瑜氏の拘束に関し、「高瑜氏が一体どのような文書を入手し公開したのか明かにされていない」という。最大の問題は「中国の国家秘密法が極めて広範にわたり、曖昧かつ意味不明、このため弁護側は何が問題なのか具体的・明快に把握できず、裁判で合法的に争うことが不可能なことだ」と中国の国家秘密法自体を批判している(日本の特定秘密保護法は、安倍政権が広範な国民の意見をくみ上げず、満足な議論もせずに強行成立させたが、まさに中国の国家秘密法と同じく曖昧で政府の都合で国民を縛り易くしていると懸念せざるを得ない。高瑜氏拘束のような事件は特定秘密保護法によって明日の日本のジャーナリストにも起きうる)。

【DNBオリジナル】

photo:Michel Temer