米元政府高官が“日本の特定秘密保護法は同盟国の中で最悪の秘密保護法”と批判(大貫 康雄)
アメリカ大統領特別顧問などを歴任し、アメリカ政府内で長年安全保障問題を担当したハルペリン(Morton H. Halperin)氏が、安倍政権が強行成立させた特定秘密法について国会内で講演し、特定秘密保護法は“アメリカでも同盟国でも最悪の秘密保護法”だと批判した。
氏はまた、“アメリカ政府関係者が、日本の秘密保護の体制が十分でないなどと圧力をかけた話しは聞いていない”とも明言。法制定の言い訳に日本政府とマスコミが流布しているアメリカの圧力を否定した。
これは、日本の特定秘密保護法が他の民主主義国の法律とは異次元のものであるとアメリカ政府当事者が指摘したもので、ネット・メディアだけでなくさすがに一部マスコミも報じている。
国会議員会館などでの ハルペリン氏の指摘をまとめた(カッコ内は筆者。氏は南アフリカの都市ツワネで各国関係者が協議して作られた「ツワネ原則」についても語っているが、この記事では省略し、別の機会に紹介したい)。
●秘密にすべき情報の規定が、具体的でなく曖昧、いくらでも拡大される。誰が責任を持つかも不明。情報の秘密解除までの期間が長すぎる(いつまでも政府関係者の都合で秘密にするのは民主主義社会とは言えない)。
●一般国民、ジャーナリストも罰則の対象にするのは大問題。(アメリカの)西欧同盟諸国で、一般国民やジャーナリストを刑事罰に処するとしている国は皆無。日本では秘密保護法がない時でも新聞記者が起訴された例がある(毎日新聞記者だった西山太吉氏が“沖縄密約”の存在を報道して起訴された「西山事件」を指し、事件には正統性がないと断じている。また氏は、質疑応答で「“沖縄密約“は沖縄返還の際の土地復元費用を日本(国民)が負担するのを知ると日本国民に不満が出るのを時の日本政権が避けたからだ」と言い、「秘密にする必要などなかった」と答えている)
●アメリカではこれまで、国家の安全保障関係の情報を漏洩したからと言って起訴されたジャーナリストは一人もいない。政府関係者でない“一般市民”が国家の安全保障に関する情報を漏えいしたとして起訴された例は一件あるが、その後、不起訴になっている。アメリカでは国家安全保障に関する漏えいしたからと言って、事実上、刑事罰は問えない。
●アメリカでは数年前、情報機関職員の身分をどこまで秘密にするかの法律を制定したが、法の策定には議会や人権団体や一般市民との協議や公聴会が何年も続けられた。氏自身、市民団体の代表として、公聴会で6回発言。結局、3年間の議論の後に法律が作られ、市民社会にも納得いくものとなった。
●日本政府は「アメリカ政府から秘密保護法を作るよう圧力があった」と言ったと聞いている。「国家安全保障上、秘密保護法が必要」などと。しかし、日米の安全保障協議で秘密保護法がなくても日米間に障害はなかった。
●ブッシュ政権末期、核戦略関係委員会の一員として、日本との核戦略協議を増やすべきと提言したが、日本に秘密保護法がないから協議できないなどとは誰も言っていなかった(日本の政権関係者が、アメリカ政府が知らないうちにアメリカ政府に濡れ衣を着せた形だが、アメリカ政府当事者が知らないはずはない。氏は相当驚き、日本側関係者に不信の念を抱いていると推測できる。哀れなのは、マスコミがそんな政権のごまかしを一方的に報道するため、本当のことを知らされないまま、政権を支持している我々一般国民だ。氏の発言を知れば普通の国民ならば、政権に対して怒るべきだが……)。
●強行採決で成立させた審議過程も問題。民主主義国家であるならば、(国民の知る権利を侵害する)秘密保護の法を作る際、政府は広く各界の人々と話し合い、さらに国際的な専門家を招いて各国の状況を調べるなどして作るべき。福島市とさいたま市で(賛成者を多数参加させ政権に都合のよいアリバイ作りに)地方公聴会を強行開催しただけ(前述のハルペリン氏が挙げたアメリカの例と比較するだけでも安倍政権のいかがわしさが浮き彫りになるが)。
●重要なのは、国民の知る権利を堅持し、情報に関しては広く深く、国民的議論を重ねること。その上で国家の安全保障に現実に害を及ぼすこととの釣り合いをとることだ。
筆者の経験では、アメリカは国家安全保障や情報を秘密扱いにするか否かなどの問題で、外交問題専門家や人権活動家を含め超党派の関係者が広く納得するまで協議する慣習がある。
皆、民主主義社会の原則を認識し、日本のような所謂国民の権利を軽視する国家主義者はいない。
ハルペリン氏は、主に民主党政権下で大統領特別顧問、国家安全保障会議議長(Director for Democracy at the National Security Council,1998-2001)をはじめ、国防総省次官補(Consultant to the secretary of Defense and the Undersecretary of Defense for Policy,1993)、国務省の頭脳集団を統括する政策企画本部長(Director of Policy)などを歴任している。現在は「アメリカ市民自由人権協会(America Civil Liberties Union)」の代表だ。
経歴が示す通り、長年アメリカ政府の国家安全保障問題に関わってきた専門家で、(1970年代はジョンソン大統領時代の国防次官補代理、ニクソン政権では国家安全保障会議の一員として安全保障政策に関わるが、タカ派の攻撃で辞任)一貫して民主主義と人権の擁護と国家安全保障上の秘密の関係を健全に維持しようと努めてきた。
特定秘密保護法の危険性については、日本国内だけでなくすでに各国関係者からも指摘されているが“日本には氏のような人が不在である”ということが今の日本の問題点のひとつと言える。
筆者自身は、安倍政権が特定秘密保護法を強制採決可決し、拙速ともいえる審議で国民投票法改正を実現させたのは、自民党の憲法改正を実現するための一手であると見ている。
今後は、今以上にマスコミの報道を規制し自民党憲法改正案の危険性を指摘するのを制限するのではないかと疑っている。
【DNBオリジナル】
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