靖国参拝を強行した国会議員に足りない「公」の精神(藤本 順一)
国賓扱いとはいえ、慌ただしいオバマ米大統領の訪日だった。24日の首脳会談では日米同盟の強化を演出したものの、オバマ米大統領からすれば「新しい大国関係」を模索する中国との無用な摩擦は避けたところだ。日本とて同じである。
折しもオバマ米大統領の来日直前、中国の上海海事法院(裁判所)が日中戦争時に結ばれた賃借契約に基づく損害賠償訴訟で被告となった商船三井の所有する船舶を差し押さえの決定を下したのは偶然ではなかろう。
これを聞いた菅義偉官房長官は21日の記者会見で「極めて遺憾だ。日中国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と述べ、中国側に適切な対応を求めた。
だが国交正常化の際、日中共同宣言には「中華人民共和国政府は中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄する」との文言はあるが、民間の商行為については「戦時賠償の請求権を放棄した日中共同声明への明白な違反とまでは言えない」というのが外務省の見解である。
実際、2010年に敗訴した商船三井は判決に従い賠償金の支払いを前提に和解の可能性を探っていたところが、突然、中国当局に所有する船舶を差し押さえられてしまうのだ。
周知のとおり、中国ではこのところ戦時中に日本が強制連行した中国人労働者が日本企業を相手に損害賠償を求める訴訟が多発している。
理不尽な話だが、中国側からすれば、昨年暮れの安倍首相の靖国参拝はそれこそ、戦後の歴史を否定する暴挙でもある。
しかも、安倍首相は懲りずに21日、靖国神社の春の例大祭に真榊を奉納、古屋圭司国家公安委員長、新藤総務相ら現職閣僚が次々に靖国参拝を強行した。さらに22日、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の147人が集団参拝するに及んでは、今後、日本企業をターゲットにした中国の嫌がらせはますますエスカレートするに違いない。
せめてもの救いは、こうした狂信的な靖国信者が国会議員の4分の1程度にとどまっていることか。思想や信条は自由だが、保守政治家であれば我を捨て、公に生きることを知るべきだ。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】
Photo : Yasukuni Shrine 2012(Wikimedia Commons /Author:Kakidai)