日英の架け橋、一世紀以上の時を超えて世界平和への祈り(成瀬久美)
4月22日(火)、代々木上原のMUSICASA(ムジカーザ)にて徳川家・英国ロスチャイルド家 奇跡の対談コンサートが開催された。
この企画は「音楽の力」をテーマに、第一次世界大戦から100年経過してもなお戦争・紛争が止まない今だからこそ、国境を越えた同士の繋がりを感じ取ってもらえるようにと「世界平和コンサートへの道実行委員会」が立ち上げている。
世界平和コンサートへの道実行委員会は、2013年8月11日に新宿モア4番街でバルカン室内管弦楽団・コソボフィルハーモニー交響楽団の音楽指揮者である柳澤寿男氏と170名のオーケストラ・合唱団で第九コンサートフラッシュモブを演奏した事を皮切りに、今年7月5日にサラエボでの「旧ユーゴ民族紛争で交流を断絶された各民族を音楽で繋ぐ」平和コンサートプロジェクトを実現すべく様々な会を企画しており、今回は日本国憲法を1946年の帝国議会で最終的に採択するよう主宰した徳川家正氏の曾孫、政治経済評論家・翻訳家の徳川家広氏(第18代徳川家当主子息)と経済と文化を支え続けている英国ロスチャイルド家の息女、歌手のバロネス・シャーロット・ドゥ・ロスチャイルド氏を迎えた二部構成の対談とコンサートが催された。それぞれ社会に多大なる影響を与えてきた一族の末裔ということで、114名の観客を前に、各人のスピーチ、そして歌声が注目された。
まずは徳川氏。現在話題となっている憲法9条改正問題にも触れながら「国際情勢から見た世界平和」について語るとともに、昨今の政治経済状況を交えつつ今の日本国会で何が必要かを提言。国内の富をどう均平化させて若年者の雇用状態を救う事が出来るかなど、言及した。またウクライナ情勢についても、正に22年前にユーゴで起きた事の繰り返しであると、平和に共存していた時代があったこと、それを思い起こす必要があることを明示した。
今回のテーマである「音楽の力」については、こう述べている。
「文化の力、音楽に限らず、人に“なんで生きようとするのだろう?”と思う力を思い起こさせるのが芸術です。芸術が大切にされる世界であれば、それは平和な世界だと思います。(略)戦争が長期化しているソマリア等アフリカ全体や犯罪が多いラテンアメリカでも、音楽は社会を癒す力を持っています。私が一番好きなのは南アフリカワールドカップ開会式で歌ったアンジェリーク・キジョーですが、こんな素晴らしい歌手が生まれること、そういう力を信じたいと思います」。
バロネス・ロスチャイルド氏は1862年に日本で初めての貿易視察団(文久遺欧使節)が訪英し、ロスチャイルド銀行を訪れたことが最初の日本との関わりであること、1902年に初代ロスチャイルド男爵の息子が来日したのが最初の訪日であること、また日英の友好関係等を明示したうえで「音楽の力」について次の様に述べている。
「音楽とは、大変力を持った道具です。それは悩みを癒してくれるもの、喜びをもたらすもの、悲しみを呼び起こすもの、魂をゆり動かすものです。日本と英国の文化が、ほかの国と比べてより強い影響力があるかは言えないと思います。(略)個人的に申しますと、私は、日本の歌の美しさを世界中の多くの国々で披露出来る幸運に恵まれています。他の国の文化を知れば知るほど、より深く相手を理解できます。これは、とくに若い人達へ伝えたい私からのメッセージです。もし世界で人種や宗教に拘わらず、皆が仲良く暮らせたら、世界はもっと平和になるのです。それには文化の力が大切だと思います。私は音楽家なので、音楽が人々に人間本来持つ優しさをもたらすことを信じて、それに貢献できたら幸せだと思います」。
バロネス・ロスチャイルド氏はこの日の為に自分で全て日本語での返答を用意しスピーチをした為、会場からは大きな拍手が寄せられた。
また「音楽の力」については、モデレーターを務めた柳澤氏も次の様に言及している。
「音楽は不思議な力がありますし、私はそれを目の当たりにする機会が沢山あります。バルカン室内管弦楽団にて「今戦争が起こったら自分は戦争に行きたい。自分の身内、家族、子供を守るためにも、戦争になったら楽器を銃に持ち替えて戦争に行きたい」と言っていた楽団員が、「音楽から受けたインプレッションで気持ちが変わった。言葉で説得したい」と変化したような不思議なことが何度もありました」。
今回のメインイベントの一つである、日本人以上に日本の歌、情緒を愛しているバロネス・ロスチャイルド氏によるコンサートでは、日本で初めてショパンの自筆譜「マズルカ」ピアノソロの披露やロスチャイルド家と縁のある作曲家たちの演奏に続き、日本の名曲数々が披露され、来場者の中には「心のこめ方がすごい」と涙する者もいた。最後は東北支援復興ソングの「花は咲く」で幕を閉じた。
筆者は、こうした一挙手一投足、全ての発言が重要な意味と責任を持つ人たちこそ世界平和を唱え、導く牽引力があるのではと考えている。江戸幕府を開闢して400年の徳川家と世界金融の頂点に立つ300年のロスチャイルド家というそれぞれが長い歴史を持つ家柄、経済界を支える立場であるため様々な情報や憶測が飛び交いがちだが、注目してもらいたいのは両家が世紀を超えて影響力を持ち続けている背景に、ノブレス・オブリージュの精神が存在していることだ。それは文化支援や世界貢献を本気で考え、平和を願う、心そのものである。私達もそれぞれの活動範囲の中で何が出来るのか、改めて考えさせられる。