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ウクライナが「紛争時には原発が攻撃対象になる」と警告(大貫 康雄)

福島第一原発事故の後、欧米諸国は原発の安全性強化に乗り出し、“テロ攻撃にも耐えられる原発”を目指している。

内戦の危機に瀕しているウクライナの臨時政府は、オランダ・ハーグでの『核安全サミット(Nuclear Security Summit)』で、「チェルノブイリなどウクライナの原発(関連施設)が攻撃対象になる危険性」を訴えた。

アメリカの核兵器政策専門家が、旧ユーゴスラビア内戦時に原発が攻撃される恐れが実際にあったことを挙げ、原発は世界でさらに増設される見通しで、今後はさらに危険性が高まると警告している。

この指摘はアメリカ・ブッシュ(父)政権下、国務省で核兵器拡散やテロ対策を担当したベネット・ラムバーグ(Bennett Ramberg)博士が、「ウクライナ問題のチェルノブイリ要素」として自身のブログ「プロジェクト・シンジケート(Project Syndicate)」で警告している(『Japan Times』も4月19日付けで博士の指摘を全文紹介している)。

それによると、今年3月ハーグで開かれた核安全サミットで「ロシア軍が侵入したらチェルノブイリ原発など、原発関連施設が(過激派などの)攻撃対象になる(深刻な核汚染を引き起こす)」とウクライナ臨時政府のデシュチツィヤ(Andrii Deshchytsia)臨時外相が各国代表に懸念を訴えた(筆者の知る限り、日本政府からはウクライナ政府の訴えについて何ら言及はなかった)。

これより前に、プロコプチュク(Ihor Prokopchuk)IAEA大使が、理事国代表に「ロシア軍侵入の際は、チェルノブイリ原発が破壊され、深刻な放射能汚染がウクライナだけでなく、隣のベラルーシやロシアにも広がる」と警告の書簡を送り、またウクライナ議会もウクライナ財政が逼迫しているとして、国際社会にチェルノブイリ原発の安全防護への協力を呼び掛けている。

(チェルノブイリ原発は、1986年、4号炉の爆発事故の後、残りの3炉も全部運転が止められ、建設中だった5号炉、6号炉も建設が中止された。4号炉は、当時ソビエト政府が何百人もの人命を賭して、巨大な覆い“石棺”を建設し、10日余りで放射能の大量流出を食い止めた。

従ってチェルノブイリの原発は、現在、稼働していないが、大量の危険な核燃料や廃棄物はその場に管理・保存されたままだ。

4号炉も28年前作られた“石棺”にひび割れが多く、放射能の大量流出が再び懸念されており、古い石棺ごと覆って閉じ込める巨大な工事が続けられている。また“親ロシア派”が多い東南部など他4カ所の原発施設で15の原子炉が稼働している)

ラムバーグ博士によると、“ウクライナの警告は決して誇張でも、脅しでもない”と過去に原発が攻撃対象になる恐れがあったと例を挙げている。

そのひとつが、旧ユーゴスラビアの最北の国・スロヴェニアの独立戦争、いわゆる10日間戦争(91年6月末から7月初め)の際にあったという。

セルビア人主導のユーゴ連邦軍は、小さなスロヴェニア軍を簡単に鎮圧できると考えた。これに対し、スロヴェニア軍は近代的な対戦車砲、対ヘリコプター・ミサイルなどを駆使し、また山岳地帯の地形を利用したゲリラ戦を展開して連邦軍を圧倒した。

これに焦ったセルビアの民族主義過激派が、スロヴェニア南東部にあるクルシュコ(Krsko)原発攻撃を主張し、上空に航空機を出動させたという。

しかしセルビアは、直接国境を接するクロアチアとの(事実上の)独立戦争があったため、スロヴェニアとの戦争を短期間で停戦とし、その年の10月にユーゴ連邦側がスロヴェニアの独立を認めて、幸い原発空爆までに至らなかった。

(国際社会はスロヴェニアとクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの3カ国の独立を92年5月に承認するが、セルビア主体の連邦軍とクロアチアとの戦争、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争はその後も続く。当時ヨーロッパ担当だった筆者も旧ユーゴスラビアの一連の紛争と連邦国家解体過程を追っていたが、スロヴェニア独立戦争が簡単に停戦したので、事態が“原発攻撃”の瀬戸際まで行っていたとは取材できなかった)

旧ユーゴ紛争は、その後も長く続き、特に96年からコソヴォ紛争が激化した。その過程で99年3月24日から6月11日まで、NATOの10週間にわたるセルビア空爆が展開された。

NATOは軍事施設だけでなく、交通網や電力施設を攻撃目標としたことから、今度はセルビア政府がNATOに対しベオグラード近郊の2つの原子炉は攻撃しないよう要請したという(まさかNATOが原発施設の攻撃を想定したとは考えられない。しかし、どんなに倫理観がしっかりした軍で、いかに精度が高い兵器を駆使していても“誤爆”はあり得る)。

ラムバーグ博士は、「少なくとも過去2回は原発が軍事攻撃されうる危うい事態だった。今後、世界各地で原発建設計画があり、一方で過激派が各地で活動する事態が続く以上、“原発関連施設が今後軍事攻撃の対象になる危険性は増える”」と指摘。

また、紛争や内戦となると原発の管理も困難になり、担当者の過ちを誘発する恐れもある。世界の原発施設は一層の安全・防護体制の強化が必要になると警告している。

一旦、破壊された原発の被害の拡大防止と安全処理は一層困難になるのは、何年続くかわからない福島第一原発の惨状を見れば一目瞭然だ。

【DNBオリジナル】

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Photo:Tiia Monto