東南アジアの対日感情と日米同盟強化(藤本 順一)
安倍晋三首相は21日、靖国神社の春季例大祭(21~23日)に合わせて「内閣総理大臣 安倍晋三」名で真榊を奉納した。参拝自体は中韓両国との関係修復を求めるオバマ大統領の来日を前にしての外交的配慮から見送るそうだ。
とりわけ韓国との関係について安倍首相は18日、バイデン米副大統領との電話協議で「大局的観点に立って韓国とさまざまなレベルで緊密に意思疎通していく」と述べ、関係改善への意欲を示している。
ただ、安倍首相は真榊を奉納することで今後の靖国参拝に含みを残した。新たな追悼施設の建設にも否定的は発言を繰り返している。国内右派勢力に配慮してのことだろうが、これでは安倍政権に対する中韓両国の不信払拭には至るまい。
もっとも安倍首相にとって目下、最大の外交的関心事は24日のオバマ米大統領との首脳会談で日米同盟強化を打ち出し、集団的自衛権の行使容認に向けた地ならしを行うことだ。むろん、尖閣諸島をはじめ東シナ海での海洋権益拡大を目指す中国の脅威を念頭にしたもの。このため首脳会談後に出す共同文書には中国が領有権を主張する尖閣諸島が日本の施政権下にあり、日米安全保障条約の適用範囲になることを再確認する文言を盛り込みたいところだ。
また、中国の海洋進出と併せ東アジアの脅威となる北朝鮮の核・ミサイル開発については、日米に韓国を加えた三カ国の連携強化が求められよう。安倍首相が外交の最優先課題に掲げる拉致問題を解決するためにも、米韓両国の協力が不可欠である。話を靖国参拝に戻せば、だからこそ安倍首相には対韓関係の修復が迫られてもいよう。
共同文書にはさらに東南アジア諸国連合(ASEAN)の沿岸警備能力向上を図るため巡視船供与や人材育成などを日米が協力して推進する方針が盛り込まれる。
その上で安倍首相はいよいよ集団的自衛権の行使容認に向けた国内議論を加速させるつもりだ。
ただし、東南アジア諸国についても国内世論同様、タカ派体質の安倍政権下で日本の軍事的プレゼンスが高まることへの警戒感は強い。
「安倍晋三首相や私が集団的自衛権のことを言えば、『危ねえんじゃねえか』となるが、(大島派前会長の)高村正彦自民党副総裁が言うと『いいんじゃねえの』となる」
麻生太郎財務相は先週、17日に開かれた自民党大島派の政治資金パーティーでこう述べ、会場の笑いを誘った。それが分かっているなら、少しは言動を慎んではどうか。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】
Photo : Yasukuni Shrine 2012(Wikimedia Commons /Author:Kakidai)