ノーボーダー・ニューズ/記事サムネイル

訪日で見せつけられたオバマ大統領の実力(大貫康雄)

オバマ大統領の国賓訪日に伴う首脳会談を経て、“(日本の施政下にある)尖閣諸島防衛が日米安保条約の適用範囲であること”を明記する一方、(問題の多い)“TPP交渉については二国間の重要な課題について前進する道筋を特定した”という表現で共同声明が出された。

今回の国賓訪日は、安倍政権がアメリカ側に何度も粘り強く懇願した末に実現した。オバマ大統領は“アメリカ主導の世界の安定の上にアメリカの利益を追求する”という実質的仕事優先で形式にこだわらない。また人権活動家で右翼イデオロギーの安倍氏とは距離があるのも知られる。

歴史観・世界観が異なる両者が相対で食事を共にし、一定時間、直接話し合う機会。今回のオバマ訪日を安倍氏らは特に両首脳の良好な関係誇示の機会にしたかった。

不信感を解きたい安倍氏本人の狙いが適ったかは別にして、日米関係の深さと(現在の)質をあらためて内外に示した訪問と言える。

焦点は23日昼過ぎの両者記者会見だった。

オバマ大統領は、“日本の施政下にある尖閣は(当然)日米安保条約の適用範囲に含まれる(アメリカは防衛義務がある)”と歴代大統領として初めて明言した。

●これは安倍政権(や多くの日本人)の対中恐怖心と(アメリカは実際に頼りになるのか)という対米不信を同時に和らげた。

●安倍氏や側近たちが、中国や近隣諸国の神経を逆なでするような軽挙妄動を慎み、(尖閣問題を含めて)対話を重ねて信頼醸成を進めて地域の平和と安定に寄与するよう強く助言した(これが安倍氏に一番難しい問題だろう。“戦後レジームの転換”などアメリカも目を向くようなことを言ってきた手前、今さら“靖国参拝は誤りだった”とか“慰安婦問題での認識は間違っていた”などとは言えないだろう。まして謝罪に近い言葉さえ口が裂けても言えまい。自分の過去の言動を反省もせず“対話の窓口は何時も空けている”などと言っても簡単に“そうですか”と応じるほど軟い相手ではない)。

●また、中国には日本(など同盟各国)に不安を与える一方的な軍事行動は容認できない(中国も話し合い解決の努力を)と警告した。

●印象深かったのは、日米安保条約が(施政下にある)尖閣の防衛も適用範囲内との見解についてオバマ大統領は、“安保条約は自分が生まれる前に成立”“歴代政権が踏襲してきた方針”で自分も同じ方針である(何ら目新しいことではない)と理論づけた。

 

アメリカ人記者たちの、“オバマは尖閣問題で危険な一線(red line)を越えたのでは!?”との懸念“これまで通り”と軽くかわしたことだ。

さらにオバマ大統領は、中国は“今後世界の諸問題解決を話し合う重要な国であること”をわざわざ認識させることを忘れなかった。

日米、日中、米中関係を揃って安定させるというオバマ政権のアジア政策をあらためて論理的に語って再確認させた、オバマ大統領の頭脳が光った一幕だったといえる。

ただ一方、オバマ政権が内政上も最重要視していたTPP交渉は(当初から問題と矛盾に満ちた交渉と批判されている)が、日米間の隔たりが大統領滞在中に埋まらず、短期間に交渉が妥結する見通しは今のところないようだ。

結局、共同声明では、“尖閣諸島の防衛が日米安保条約の適用範囲内”と明記する一方、TPP交渉は“二国間の重要課題について前進する道筋を特定した”(?)と良く意味がわからない表現になった。

また憲法上の問題点が指摘されている集団的自衛権の行使容認については、“アメリカは、日本(安倍政権)が検討を行っていることを歓迎し支持する”と通り一遍の平素な外交的な表現になっている。

安倍政権は、オバマ大統領が(施政下にある)尖閣は安保条約の適用範囲と公言しても満足せず、集団的自衛権の行使容認を認めさせようとする姿勢を崩していない。

いずれにしても目を離してはならない問題だ。

日本のメディアには、オバマ大統領が尖閣問題で力による現状変更を認めないと明言した背景にウクライナ情勢があるとする論調もある。

しかし、それはないと考える。

アメリカにとって日米関係、米中関係と東アジア安定の重要性は、ウクライナ情勢とは比べものにならない。取り巻く条件も東アジアとウクライナでは異なり、同じ方程式では解けない。

また、今回の訪問国、日本、韓国、マレーシア、フィリピンはいずれも中国との間で領土・領海問題を抱えている。

オバマ政権としては、今回の歴訪で中国の一方的な行動は強く牽制しつつ、東アジアの同盟各国のアメリカに対する信頼を確かなものにする機会と考えている(日本での発言を最も注視していたのはこれらの国々と中国だ)。

余談だが、共同記者会見で安倍晋三総理が前半、オバマ大統領を“バラク”と何度かファースト・ネームで呼んだ。前夜、鮨の後オバマ大統領が安倍氏に“ありがとうシンゾー”と言ったのが頭にあったのだろう。

オバマ大統領は、一度“シンゾー”と呼んだだけで、終始“安倍総理”で通し、両者のズレが目立った。安倍氏が”オバマ“と言い出した時、CNN中継を見ていたアメリカ人が、”エー!?“と驚いた。”いつの間にそんな関係になったのか?“と。レーガン・中曽根関係を安倍氏が意識したのかどうかわからないが、彼らのような関係が築けたとは言えない。

いずれにしても、今回の共同声明は中国を念頭におき“平和で安定し繁栄する東アジア”を意図するアメリカの“アジア重視「リバランス政策」の基本的立場、具体的役割”をこれまで以上に明確にするものとなった。

それにしても、アメリカが頼りになる同盟国であると日本をはじめ同盟・友好関係の国々を安心させ、同時にことさら中国を刺激しないよう自制を促し、かつ中国にも軽率なことは許し難いと釘を刺す。オバマ大統領の論理展開は上手かった。

 

【DNBオリジナル】