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習近平指導部発足1年、「ぜいたく禁止令」を打ち出す習近平ファミリーの驚くべき隠し資産(相馬 勝)

肉まんも腐敗撲滅キャンペーンもパフォーマンス

 

習近平政権が発足して1年が経つが、中国では厳しいぜいたく禁止令のほか、軍備増強、激しい反日姿勢など、習近平国家主席が掲げる「チャイニーズ・ドリーム(中国の夢)」とはかけ離れた政策が目立つ。習近平は何を考えているのか?

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「今年は本当に最低の春節(旧正月)だ」――。こう嘆くのは、北京の共産党幹部だ。

中国では、今年の1月31日が日本の元旦に当たる春節。今年は9日までの大型連休とあって、例年ならば、家族はもちろん親戚一同が集まって、高級料理店で新たな1年の始まりを盛大に祝うところ。だが、今年は習近平・国家主席が打ち出した「ぜいたく禁止令」の厳守が徹底されており、日本の紅白歌合戦に相当する旧暦の大晦日の「春節晩会」をテレビで、家族だけでひっそりと見て、手作りの水餃子をつまんで、老酒(ラオチュー)を引っかけるくらいしか楽しみがない。北京では市民の大半が自宅に引きこもっていたせいか、番組の視聴率はほぼ100%に近かったという。

[caption id="attachment_20511" align="alignnone" width="566"] PM2・5に霞む北京/撮影=筆者[/caption]

また、北京や上海ではPM2・5(微小粒子状物質)による大気汚染の激化が懸念されていたことから、市政府は花火や爆竹の使用を控えるよう呼びかけていたが、日ごろの鬱憤を晴らすように、30日の夜から31日に未明にかけて、例年より盛大に花火が打ち上げられ、爆竹が鳴った。この結果、昼間に比べて、25倍も大気汚染がひどくなり、数m先の視界も効かなかったほどだ。

禁止令をぶち上げた当の本人である習氏は1月26日から28日まで、零下30度以下の酷寒の内モンゴル自治区を訪れ、中国人民解放軍の基地や降り積もる雪の中で国境付近を警備する兵士らを慰問したり、少数民族のモンゴル族の家庭を視察する姿がテレビや新聞などで頻繁に報道された。また、これに先立つ1カ月ほど前の昨年末、習氏は北京で庶民が利用する肉まんチェーン店に1人で現れ、肉まんと砂肝、野菜炒めなど合計で21元(約360円)の食事を注文し、庶民性をアピールした。まさに、西側の政治家がするようなパフォーマンスぶりだ。

「しかし、庶民性をアピールすればするほど、習氏の実態とはほど遠くなってくる」と習氏ら習ファミリーをよく知る北京の中国人ジャーナリストは語る。習氏の姉夫婦や弟などのファミリーは不動産などのビジネスを幅広く展開していることはよく知られており、カリブ海のバージン諸島などタックスヘブン(租税回避地)に設立された企業や信託の顧客リストに掲載されていることが分かっている。

[caption id="attachment_20512" align="alignnone" width="567"] 習近平が掲げる「中国の夢」の政治スローガン=北京市内で/撮影=筆者[/caption]

ファミリーの莫大な資産形成は、習氏の父親である習仲勲氏が1970年代に広東省のトップとして、西側の市場経済原理を採用した経済特区の創設に関わったことと深く連動している。

習仲勲氏は中国共産党の古参幹部として軍を指揮し、日中戦争や中国国民党との国共内戦を戦い抜いた新中国建国の功労者で、副首相など要職を歴任した共産革命の元勲。しかし、62年、毛沢東主席を打倒しようとした反党集団の首謀者の嫌疑がかけられ、失脚。さらに毛沢東が発動した全国的な権力闘争である文化大革命(66~76年)により迫害が激化し、78年の名誉回復まで16年間、身柄を拘束され残酷な拷問を受けるなど自由を失う。

父親の過酷な運命は習近平氏ら家族にも降りかかる。母親は労働改造所に送りこまれ、習氏や姉らも片田舎の農村に下放され、厳しい労働を強いられる。文革中に「反革命分子の娘」と非難されて、腹違いの姉が殺されたほどで、習氏も幹部や農民らの理不尽な命令に従うなど生き残りに必死だった。

しかし、文革が終わり、78年に父親の名誉回復がなされると、習氏らの運命も好転する。習氏は北京の名門、清華大に入学を許され、卒業後、国防大臣の秘書に抜擢。その後、25年間もの地方幹部の生活を経て、中央に転じ、中国のトップに上り詰める。

党幹部の道を歩んだ習氏とは違い、姉や弟はビジネスの世界に入る。そのときに役立ったのが、父・習仲勲氏の広東省人脈である。広東省には3つの経済特区が創設された。香港に隣接する深圳とマカオと隣り合う珠海、それとスワトウである。なかでも、香港資本の流入を見込んだ深圳は中国最大の特区だが、かつては人口が数百人程度の閑散とした鄙びた漁港だった。それが、いまや数十階建てのオフィスビルがどんどん建設され、工場やマンションが所狭しと建ち並び、人口も1300万人以上と中国有数のマンモス都市に変貌。当然、不動産物件は急騰した。

これに目を付けたのが、習氏の2人の姉夫婦や弟だった。彼らは不動産デベロッパーとして会社を立ち上げ、深圳市内の都市開発が計画されている有力な土地を買い漁った。二束三文の値段で購入した土地を計画が公表されたあと、数十倍、数百倍で転売するのである。

このときの事情をよく知る広東省の党幹部は「父親が『経済特区の父』と讃えられた習仲勲だから、広東省内の幹部は娘や息子に恩義を感じており、逆らえるはずがない。それに、ただで有力なビジネス情報を教えるわけでなく、抜け目なく謝礼をもらっているから、自分の利益にもなるしね」と明かす。

姉たちは、いわゆる土地転がしで巨万の富を掌中にする。さらに、深圳で得た利益を基にして、中国各地の不動産も売買するようになる。このとき、フルに利用したのが、いわゆる「太子党」といわれる高級幹部の子弟グループである。

習仲勲は新中国建国の元勲であり、これらの長老指導者グループとして知られるのが80年代から90年代にかけて権力を振るった「8大元老」だ。習仲勲氏のほか、改革・開放路線を推進した鄧小平氏、副首相を務めた陳雲、全国人民代表大会(全人代)委員長だった彭真、国家主席の李先念、副首相だった薄一波らで、彼らの子弟のなかには習近平のように党や政府の最高幹部になったり、有力企業のトップなど中国各界で活躍している名士、有力者が多い。

北京の大手新聞社の記者は「彼らは大幹部の娘や息子で、幼馴染みの遊び相手だったこともあって結束が固い。また、不動産開発や政府の機密情報などに通じており、太子党仲間で情報交換をしては、自身のビジネスに生かしている。とくに、習近平ファミリーはその傾向が強い」と指摘する。

「例えば、習近平の弟の習遠平は一時、北京の不動産会社『羽白(ユイバイ)』の社長を務め、土地開発やマンション建設に熱心だった。この会社の名前の『羽』と『白』は習という字を分解して、企業名として付けたものだ」と語る。また、香港の中国筋は「遠平氏はその後、香港に拠点を移し、欧米諸国を中心に、さまざまなコネクションを使ってビジネスを展開すると同時に外資を誘致している。彼は現在、北京に本部を置く国際環境団体の会長に就任しているが、それは多分に名誉職的な肩書きであり、兄から得た内部情報をもとに事業を展開している」と同筋は指摘する。

[caption id="attachment_20513" align="alignnone" width="567"] 建設が進むマンション群=上海市内で/撮影=筆者[/caption]

また、姉の習橋橋さんも夫の鄧家貴氏と共同で不動産会社などを幅広く経営し、首都の北京や経済特区の深圳の土地開発を手掛けている。不動産バブルに沸く大都市の一等地を優先的に開発できるのは、父の習仲勲や、やはり最高幹部の習近平氏の強い影響力があるからだ。次女の安安夫妻はカナダに居住しカナダ国籍も取得していながら、中国の携帯電話事業に出資し巨利を得ているという。

金融・経済情報専門通信社「ブルームバーグ」や香港メディアなどの情報を総合すると、習近平ファミリーの総資産は少なくとも日本円で565億円を下らない。

まず、最も活発なビジネス活動を展開しているのが斉橋橋と鄧家貴夫妻だ。鄧夫妻は2人で11社の企業のオーナーであり、そのほか、少なくとも25社の重役として経営に携わっている。鄧氏は深圳にある投資会社の深圳遠為投資の会長を務め、この資産が18億3000万元(約311億円)。さらに、同社の関連会社の資産が5億3930万元(約91億円)に上る。彼はこれらの企業を通して、江西省にあるレアアースを生産・販売している江西レアアースの株式の18%を所有しており、それだけで4億5000万元(約77億円)に上る。

夫妻は北京で不動産会社の北京中民信房地産開発を経営しており、橋橋さんが会長、鄧氏が社長に納まっている。同社のホームページによると、同社は2001年8月9日創設で、資本金5000万元(約8億500万円)。同社が開発した北京の一等地に建つマンションのうち、面積が189平方㍍で、3ベッドルームの物件は1500万元(約2億5500万円)で売りに出されている。

さらに、夫妻の一人娘夫婦が北京の電機会社の株式1億2840万元(約22億円)を所有しているほか、鄧夫妻や娘夫婦は香港に、3150万ドルの豪邸のほか、6件の不動産物件計2410万ドルを所有していることが分かっている。このほか、鄧家貴名義で中国有数の不動産会社、大連万達商業地産の株式を3000万元分保有。これらの資産をすべて合わせると、中国人民元分では約29億9770万元(約510億円)、米ドル分は5560万ドル(約55億円)で、合計565億円に達する。

また、習近平氏の2番目の姉である安安さんの夫の呉龍氏は「広州新郵通信設備」の会長を務めており、中国最大の携帯電話事業を展開する中国電信集団(チャイナテレコム)と密接な関係を持ち最近、数億元の事業を受注したと伝えられる。

ところで、肝心の習氏自身の個人資産だが、米国を拠点とする中国語ニュースサイト『博訊( ボシュン)」によると、預金が230万元(約3900万円)と、北京市民の平均年収である約3万元(約51万円)からみれば気の遠くなるような額だ。このほか、不動産物件も北京と浙江省杭州、福建省福州に3戸所有。杭州と福州は以前の勤務地であり、北京は現住所。これらの物件は姉夫婦が斡旋しており、ただ同然だ。これを日本円の購買力平価に換算すると、少なく見積もっても3億円となる。これは、日本の政治家に比較すると、麻生太郎副総理の4億7000万円には及ばないまでも、安倍晋三首相の1億793万円に比べ3倍も多い。

習氏は党中堅幹部の教育機関である中央党校で、「配偶者や子女、親戚、友人、部下が権力を濫用して私利を図ることがないよう管理しなければならない」などと述べてと特権を利用してのビジネスに強く注意を促しているが、習近平ファミリーの実態は、彼の言動とはまったく相反しているといえよう。

「習近平は表面上、寡黙で鈍重。よく言えば、控えめで、慎み深いという印象が強いが、その実、権力欲が強く、自分の利益になるとみれば、すぐに掌を返すように態度を豹変するなど、パフォーマンス好きな政治家なのだ」と前出の大手紙記者は強調する。

さきに北京の肉まんチェーン店でのパフォーマンスを紹介したが、最も大きなパフォーマンスはファーストレディの彭麗媛さんとの結婚式のエピソードだろう。彭さんはもともとは軍の歌舞団の花形歌手で、美人で有名で、若いころは人気絶頂。日本の紅白歌合戦と同じく、旧暦の大晦日春節晩会ではずっとトリを務めていたほどの大物歌手。習氏が廈門市副市長時代の87年、2人は北京の共通の友人宅で会い、意気投合し、習氏は「わずか40分で将来の伴侶と決めた」ほど。彭麗媛さんも「彼こそ私が待っていた男性」というように二人が回想するほどの大恋愛だった。

[caption id="attachment_20514" align="alignnone" width="567"] 中国のトップ・セブン=CCTV/撮影=筆者[/caption]

ところが、双方の両親に結婚を反対されるが、二人は結婚を強行。習氏は厦門市で、上司や同僚を呼んで、結婚式を開いてしまう。ただ、上司や同僚にも、結婚相手が彭麗媛だということについては話しておらず、結婚式に現れた彭麗媛を見た同僚らは、大スターの彭麗媛の登場にびっくり。「どうして、彭麗媛がいるの? 何かアトラクションでもやるの?」と習氏に尋ねると、習氏は「この人が私のお嫁さんになる人だよ」と言うと、さすがに驚く。このサプライズで、習近平には一時「秘密局長」というあだ名が付けられたほどだった。

また、習氏は昨年11月の党総書記就任後初の演説で、汚職などの「腐敗撲滅」を政治公約に掲げ、「虎だろうが、蝿だろうが、ともに叩き潰す」と大見得を切った。その言葉通りに、いまや腐敗撲滅キャンペーンが大々的に展開され、演説では必ず「中国の夢」というフレーズが数多く登場する。しかし、習氏や習ファミリーの実態はすでに触れたように、自らが腐敗にまみれているようなものなので、彼が強調する腐敗撲滅はパフォーマンスに過ぎない。

これは、国民にはぜいたく禁止令を強いていながら、その裏では、長女の習明沢さんを米ハーバード大学に留学させていることで一目瞭然だ。ハーバード大の学費は年間、3万5000ドル(約350万円)で、寮生活を含めると、年間の生活費は1万5000ドルかかる。しかし、中国の最高指導者の娘が寮生活をすれば、誘拐などの危険性もあるので、さすがにマンション住まいとなる。ボストン近郊のマンションは月々約2000ドル(約20万円)かかり、娘1人の年間の生活費は4万ドル近くなる計算だ。

こう見ると、習近平の言動はパフォーマンスばかりで、その実は人気取りのポピュリストであることは明らかなのだ。

さらに、習氏が強調するのが「強国、強軍の実現」であり、「中国の夢」の実現だ。その鉾先は、尖閣諸島を領有する日本に向けられているのは周知の通りだ。中国は連日、激しい日本政府や安倍晋三政権批判を展開している。これは裏返せば、自らのパフォーマンスの裏にある真意を隠すために、日本を悪者にして、激しい罵詈雑言を浴びせていると言えよう。

習近平指導部は昨年11月下旬、尖閣諸島を含む防空識別圏の設定を突然、一方的に宣言した。この結果、日米両国の戦闘機などの飛行を事実上禁止し、民間の航空機の航行も安全さえも脅かし兼ねない状態にある。自身の保身のために外交を利用するのは、中国共産党政権の習い性とはいえ、そのような最高指導者を戴いた中国国民が哀れであり、習近平指導部は欺瞞に満ちた政権であるといえよう。