今年のピュリッツァ―賞、ジョージ・ポルク賞はともにスノーデン氏関連報道者が受賞(大貫 康雄)
エドワード・スノーデン氏が公開したNSA(米国家安全保障局)の膨大な通信傍受・盗聴事件。日本ではまったくといって良いほど報道されていないが、欧米では今も政治問題であり、重要な報道対象となっている。
アメリカでは、ジャーナリズムの分野で最高の名誉とされる二つの賞、ピュリッツァー賞とジョージ・ポルク賞が、NSA事件報道に従事した者に贈られた。
そのうちのひとつであるピュリッツァー(Pulitzer prize・創設者本人の呼び方はプリッツァー)賞のジャーナリズム部門は、14日、NSA事件の報道を続けている『ガーディアン』紙(の米国法人)と『ワシントン・ポスト』紙の記者たちに。またジョージ・ポルク(George Polk)賞の調査報道部門は、11日、スノーデン氏から膨大な資料を受け取ったグリーンウォルド(Glenn Greenwald)記者と映画制作者のポイトラス(Laura Poitras)氏、それに『ガーディアン』紙と『ワシントン・ポスト』紙の4人のジャーナリストにそれぞれ贈られた。
二つの賞はアメリカのジャーナリストへの最も名声のある賞と言われ、これまでもそうそうたる報道関係者に贈られている。
ピュリッツァー賞は、アメリカの企業(の所属職員)と個人が対象で、コロンビア大学が事務局となっている。今回受賞したのは、ガーディアン・アメリカの報道担当者と、ワシントン・ポストの記者たちで、ガーディアン紙、ワシントン・ポスト紙とも厚く伝えている(この欄で先の記事で紹介したドイツ人フォトジャーナリスト、アーニャ・ニードリングハウスさんは、AP通信が受賞した時のAPのジャーナリストの一員として受賞)。
ガーディアン紙は、NSAが何百万もの人々の通信を秘密裏に傍受・盗聴し膨大なデータを集積していたことを最初に報道し、その後の調査報道の過程でイギリス捜査当局の家宅捜索を受けるなどの脅しや弾圧にあってきた。
ワシントン・ポスト紙は、自国のNSAが、秘密裏の傍受・盗聴事件が多くの国民の権利を侵害していると報じ、国家の安全保障と国民個人の権利との関係で大きな論争を巻き起こすきっかけを作った。
ワシントン・ポスト紙は、ピュリッツァー賞の他の21部門の受賞者と並列で報じている。
両社が発表して以来、この10カ月間、欧米では毎週のように報道が続いた。そして今も続き、アメリカやイギリスだけでなく、多くの国のメディアを巻き込み、EUやドイツでは政治・外交問題に発展している。
両紙ともこれまで一貫して事件の取材・報道体制を維持し、またドイツの『シュピーゲル』誌、『ディ・ツァイト』紙など、他の国のメディアも継続報道をしている。
今回の受賞にガーディアン英本社と米ガーディアン双方の編集長は、次のように語っている。
「非常に複雑な事件で、取材、編集、掲載・出版までに関わった優秀なジャーナリストの尽力と、我々を脅し活動の息の根を止めようとする環境の中で、我々を支えてくれた世界内外の人たちに感謝を捧げたい。またワシントン・ポストの同僚たち、それに自らの危険を克服して秘密文書を世に出してくれたスノーデン氏とともに栄誉を分かち合いたい。氏とともにジャーナリスト達の活動が社会に大きく貢献できたのが認識された」
ピュリッツァー賞委員会は、両社への授賞理由についてこう述べている。
「NSAの大規模で膨大な秘密監視活動を明らかにし、安全保障と個人の権利の問題で、政府と国民との関係について広く活発な論争を巻き起こした」
今年はピュリッツァー賞とともに、ロング・アイランド(Long Island University)大学が事務局となっているジョージ・ポルク賞が誰に贈られるのかに注目した。
今年の受賞者は、昨年7月香港でスノーデン氏からNSAの秘密資料を直接受け取り、ガーディアン紙、ワシントン・ポスト紙を通して最初に世界に報じて以後、NSA事件報道に引き続き関与してきた4人のジャーナリストだった。
ブラジル在住のアメリカ人フリーランス・ジャーナリストのグリーンウォルド氏とベルリン在住のローラ・ポイトゥラス氏、それにガーディアン紙のユーエン・マカスキル(Ewen Mac Askill)記者とワシントン・ポスト紙のバートン・ジェルマン(Barton Gellman )記者。
この中で、グリーンウォルド氏とポイトゥラス氏がNSA事件で重要な参考人視さされており、アメリカへの入国がすんなり認められるかどうかの懸念があった。
昨年7月、NSAの秘密資料を手渡したスノーデン氏はロシアへ渡り、受け取ったポイトゥラス氏らはベルリンなどに行った。
その後、グリーンウォルド氏のパートナーのミランダ(David Miranda)氏は、ベルリンからリオ・デ・ジャネイロに向かう途中、ロンドン・ヒースロー空港の入国管理事務所で9時間拘束された。また、ポイトゥラス氏もスノーデン氏関連文書とは関係ない件で、これまで(6年間)に40回以上も米入国管理局に足止めを食っていた。
グリーンウォルド氏とポイトゥラス氏の二人は、NSA事件関連で自分たちが手配されているのか米政府に問い合わせたが、明らかにされなかった。
しかし、4月11日に二人がベルリンからニューヨークのJFK国際空港に着いた時は、何の問題もなく入国が認められたという。
「アメリカ政府を始め、当局は容疑者扱いにするのか否かも明言せず、関係者をわざと不安定な状態にしておくのだ。“自分には何も起きない”と考えるのは簡単だが、(権力の)脅しが実際に向けられた時、本人は相当深刻になる」(グリーンウォルド記者)。
「今回は世間の多くの人が注目しているが、だからと言って懸念しなくて良い、ということにはならない」(ポイトゥラス氏)
授賞式でポイトゥラス氏は“この賞はスノーデン氏のためのもの”と、またグリーンウォルド記者も“この賞はスノーデン氏の行為が、何年もの懲役刑なのではなく、社会に貢献し、称賛に値する、絶対に正しいものであったことだと認め報いられたもの”、ともにスノーデン氏を讃えている。
一方、この調査報道のもととなるNSAの秘密資料を暴露したスノーデン氏は、今回の二つの賞が、関係ジャーナリスト達に贈られたことに感謝の声明を出している。
「グリーンウォルド、ポイトゥラス、ジェルマン、マカスキル、それにガーディアン紙とワシントン・ポスト紙の受賞者たちを、世界中の人たちとともに祝福する。今回の受賞は、一般国民が政府に果たす役割の重要さを確信する人たちの努力が報われたものだ。
これら勇敢な取材記者や同僚たちは、テロ関連法を不当に適用するなど、取材活動を止めさせようとする権力側からの異様な脅しにも屈せず、報道を続け、一般国民の政府に関する役割が死活的に重要なことを世界中に認識させた。
今回の受賞は一個人が変えられないことでも、自由な報道で変えることが出来ることを認識させた。
私の努力も、こうしたジャーナリスト達の尽力、情熱、そして技量がなければ意味のないものになっていただろう。彼らの並はずれた取材・報道活動のお陰で、よりよい未来が開かれ、透明性と説明責任のある民主主義社会が齎された」
今回のNSA事件報道は、1971年米国防総省のベトナムに関する秘密文書を明らかにしたいわゆるペンタゴン・ペーパー報道以来、最も実質的で意味のある機密暴露報道と言われている。
「国民のためにあるはずの政府が、秘密活動で逆に国民の基本的権利を侵害することなど断じてあってはならない」当然大問題であり、忘れてはならず、今も大きな政治・社会問題として報道されている。
一方、日本のマスコミは、今年のピュリッツァー賞はそれなりに伝えているが、これまでのスノーデン氏及びNSA事件は過去のものであるかのようでほとんど報道されていない。日本と欧米マス・メディアの落差は大きい。
【DNBオリジナル】
photo:https://www.youtube.com/user/TheWikiLeaksChannel