富岡町民のやすらぎの場所「夜ノ森の桜」では……／富岡町レポート2014春（久保田 彩乃）
県外ナンバーの車が帰宅困難地域にある夜ノ森の桜に集まっていた
震災・原発事故から3年1か月が経過した。
いまだに原発事故の影響で全町避難が続く双葉郡の富岡町。この町の人々は、春の便りが近づくとそわそわし、共通の話題で持ちきりとなる。その話題とは「桜」だ。桜ならどこのものでもいいわけではない、富岡町内にある「夜ノ森の桜」がどうなっているかが気になって仕方ないのである。
富岡町の「夜ノ森の桜」とは、居住制限区域と帰還困難区域にある夜ノ森地区の、全長2.5kmにもわたる長い桜のトンネルのことだ。富岡町民は皆この夜ノ森の桜を「日本一の名所だ」と言い、誇りとしている。
昨年4月から富岡町臨時災害ＦＭ『おだがいさまＦＭ』でラジオ制作などをしている私は、昨年初めて富岡町に入り、夜ノ森の桜を見た。バスから外の景色を眺め、桜のトンネルが近づいてきた時の感動を今でも覚えている。しかし、町民いわく「去年の桜は花つきが悪くてイマイチだった」という。
「では、今年の桜はどうだろう。町民が『本当にすごい』と喜ぶ桜の姿をこの目で見たい」そんな思いで2014年4月12日、私は震災後4度目の富岡町を訪れた。
今年の夜ノ森の桜は4月9、10日には見頃を迎えていたようだ。土曜日で好天も重なってか、この日は貸切大型バスや乗用車で、夜ノ森地区はにぎわっていた。
県外ナンバーも多く見られ、去年誰もいない桜のトンネルで写真を撮ったのが嘘のようであった。人々は思い思いに桜の写真を撮ったり、記念写真を撮っていた。
防護服は誰も着ていない、マスクすらつけている人はほとんど見られなかった。その光景を見ていると、ただ観光地に花見に来ただけのような錯覚に陥る。ふと路肩に目をやると、地ベタに座り込んでいる男性、ブルーシートを敷いて弁当を広げる男女10人ほどの団体がいた。
何とも言えない違和感……。ここは原発事故によって住民が帰ることができない場所のはずだ。
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「夜ノ森の桜」ここから先は立ち入る事ができない[/caption]
桜のトンネルの真ん中には、バリケードと「この先 帰還困難区域につき通行止め」という看板がある。
この場所で弁当を広げて花見をすることを、なぜ「おかしい」と思わないのだろうか。個人の自由と言われればそれまでである。だが、帰りたくても帰れない富岡町民が“わざわざこの場所に桜を見に来なければならない”という現実を考えた時、観光客がそこで弁当を広げるという光景は、私にとってあまりにも残酷だった。
桜を眺めている人たちに声をかけ、インタビューをした。たまたまだろうが、どの人たちも富岡町にゆかりがあり、口々に夜ノ森の桜の思い出話を聞かせてくれた。
「今年の桜は最高だ」と安堵の表情を浮かべる富岡町民
富岡町民に桜の話を聞くたびに、夜ノ森の桜のトンネルは町民の生活に本当に密着した場所だったことを知る。
「学校に通う時、毎日のようにここを歩いた」「桜の木に登って遊んだ」「桜まつりの出店を毎年ここでやっていた」「この桜は俺が植えたんだ」という人もいた。生活の一部に桜があった。この桜こそが町民の誇りだったのだろうと思う。
そして皆、今年の桜を褒めていた。去年に比べて確かに花つきがよく、ボリュームがある。桜のトンネルの真下から上を見上げると、空が見えないほどであった。「今年は綺麗に咲いてよかった」「最高です。今年も見れてよかった」町民には安堵の表情すらあった。
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町内は除染の真っ最中、あちこちに黒いバッグが置いてある[/caption]
富岡町は、今年になってようやく一部の地域で除染作業が始まった。それにともなって出る廃棄物の仮置き場もあちこちに増え、黒いバッグが大きな山を作っていた。町内の宅地や農地・森林なども含めて2015年（平成27年）度内には除染を完了する計画だと発表されている。（http://josen.env.go.jp/area/details/tomioka.html）
しかし、宮本皓一町長は、2017年（平成29年）3月11日まで町に帰還しないという判断をした。（http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2012/09/post_5022.html）
この桜の下で、富岡町民が生活するまでの道のりは、まだまだ遠い。来年も、夜ノ森の桜を見に行こうと思う。
●富岡町臨時災害ＦＭ『おだがいさまＦＭ』（http://www.gurutto-koriyama.com/detail/index_213.html）
4月17日正午～午後2時「桜」をテーマに特別番組を放送します
（※インターネットの「サイマルラジオ」、スマートフォンアプリでも聴くことができます）
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空間放射線量を示すモニタリングポスト[/caption]
富岡町ではこんな放送が流れていた
