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原発ゼロを決断し、再生可能エネルギー大国となったデンマークを見習いたい(大貫 康雄)

3月3日から5日にかけて、デンマークのトーニング=シュミット(Helle Thorning-Schmidt)首相が来日し、安倍晋三総理とエネルギー、環境、安全保障、人権などの分野で話し合った。

デンマークは再生可能エネルギーと省エネ推進の先進国。石油危機を機に国民全体の論議を経て、原発ゼロ政策を決断。同時に省エネ、化石燃料からの脱却を推進している国だ。

わが日本政府が、新エネルギー計画(案)で「原発を重要な“ベースロード”電源」と、およそ日本語とは言えない奇妙な表現で原発再稼働を意図しているのとは大違いである。

そんな両国の差が出たのか、首脳会談後の日本政府の発表は、原発ゼロについても脱化石燃料についても、どんな話があったのか一切触れていない。マスコミもデンマークの革新的なエネルギー・環境政策を紹介する良い機会となったはずだが無視したようだ。

デンマークの原発ゼロ政策は、簡単に実現したのではない。国民全体での開かれた議論とメディアの公正な報道の結果、決まったことを知っていただきたい。

デンマークの冬は、北海からの冷たい風が吹きつけ、とにかく寒い。アラブ産油国の石油禁輸、いわゆる石油危機で十分な暖房もない厳しい冬を過ごした経験から、1973年、15か所での原発建設や、石炭・ガスなど化石燃料による発電・暖房を推進する方針を打ち出した。

これに対し、デンマークの青年たちが、政府案は国民の声を聴かず一方的なもの、「エネルギー政策は国民一人一人、自分たちが決めるもの」と主張する。

政府は、方針の通り15か所の候補地を選定し、「エネルギー情報センター」を設けて地元の人たちの説得を続けた。また、これに対し青年たちや科学者たちが、環境NGO「OOA」を立ち上げ、原子力の危険性や問題について長年にわたってシンポジウムを開催、メディアにも働きかけていく。

新聞、テレビなどのメディアは、政府の計画とNGOの指摘を公平に報じて論争が続く。

そこに1979年、アメリカのスリー・マイル島原発事故が起き、世論は圧倒的に原発計画放棄に傾く。もちろん国民の声が最重要視され、翌80年に原発計画の見直しをはじめ、81年に放射性廃棄物処理問題を理由に原発導入計画を無期限凍結。専門家の調査で“原発と石炭火力発電との間の経済的な優位差はない”との結論が出される。

(“原発は安い”という主張は、デンマークでは通用しない。デンマークは原発関連に人材も予算も必要とせず、その分を他の分野に振り分けている。各国で頭痛の種になっている放射性廃棄物の処分・管理の問題もない)

最終的に85年、議会が原発建設を全部取り消す決議を可決する。チェルノブイリ原発事故が起きたのは、その1年後の86年である。

デンマークがただの国ではないのは、原発ゼロの決定後、中長期的なエネルギー計画を定期的に打ち出したこと。そこに再生可能エネルギーと省エネの推進、エネルギーと環境政策を統合させたことだ。

具体的には、風力発電とバイオマス発電、熱利用を重点的に推進した。3方を海に囲まれ、北極圏に近い酪農国デンマークでは、太陽光の効率利用は望めないが、風は豊富にある。また、動植物の排出物で作るバイオマスもあるという特性を活かしていく。

大企業優先の日本との違いは、再生可能エネルギーの推進で、地域の人々の経済的利益を優先させたこと。地域の個人、共同組合、自治体が経済的な利益を得られるよう、さまざまな補助制度が作られていった。発電と送電の分離が図られ、送電網は皆が公平に利用できるよう制度改革。2004年には電力、送配電会社が所有していた高圧送電網を国営企業の系列会社に移管する(風力が普及するにつれ補助制度は徐々に小さくなった)。

「風力は地域住民の固有の財産である」との考えが定着し、現在デンマークには大小取り混ぜて6200基近い風力発電所がある。大規模な洋上発電を除き、90%は地域の個人や共同組合、自治体が所有や運営をしている。現在は、いかなる風力発電所でも、地域に住む人たちが20%の所有権を持つような仕組みになっている。

当然、再生可能エネルギー推進で経済的恩恵を受ける国民は相当数に上る。

近年は環境政策でもある“脱化石燃料”政策を打ち出し、エネルギー消費量を減らしていった(これには流石にデンマークの企業も反対したが。)2030年までに再生可能エネルギーを全体の35%までに引き上げ、CO2排出量を88年水準から20%引き下げ、さらに2050年までに石油・石炭などの化石燃料依存をゼロにするという野心的な国家目標を設定している。

デンマークのエネルギー自給率は、80年頃5%前後だったが、97年には自給率100%を達成。現在は120%以上の自給率で、余剰エネルギーを周辺国への輸出や冬の熱エネルギー転換などに利用している。風力発電の技術輸出も盛んだ。日本でもデンマークの企業の優れた技術に印象を深くした人も多いだろう。

(日本国内の議論は、相変わらず第三世界型のような開発優先の企業優先の大型事業と原発固執。日本がこれらを超えられず、一歩も前に進まないのを見ると別世界の印象を受ける)

余談だがトーニング・シュミット首相は、中道左派社会民主党党首だが、この新エネルギー計画の推進にヘッジファンドの資金を導入するか否かで与党内が揺れている。

ヘッジファンドは、投資でなく投機が目的で人々に害しか及ぼさない、として党内左派の反発を買ったからだ。2011年の就任以来、高い支持率を維持してきたトーニング・シュミット首相は、この国家目標推進の過程で初めて、政権運営の困難に直面している。

【DNBオリジナル】

[caption id="attachment_19627" align="alignnone" width="620"] デンマークのトーニング=シュミット首相[/caption]

photo:Håkan Dahlström