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米の地下核廃棄物貯蔵施設で放射能漏れ事故(大貫 康雄)

2月14日頃、アメリカ・ニューメキシコ州のカールスバッド(Carlsbad)にある地下核物質分離実験施設(Waste Isolation Pilot Plant)で、「施設内の空気から放射能が検出され、放射能が地上に漏れる事故があったが、被曝者はいない」と米エネルギー省が発表した。

その後、2月28日になって、「周辺の観測点で微量の放射能(人工的に作られる核種で半減期が超長期のアメリシウム241とプルトニウム)が検出され、地上の作業員13人が汚染(被曝)されたが、被曝は軽く、病院で治療を受ける必要もないほどのものだった(X線照射の10分の1)」と施設管理者が発表。

当然のことだが、アメリカの主要メディアは、このことを伝えている。

カールスバッドのWIPP(地下核物質分離実験施設)は、高濃度放射性廃棄物の保管処理では、実質的にアメリカで唯一の地下施設だ。この事故で、アメリカ政府が懸命に確立しようとしている高濃度放射性廃棄物の貯蔵・管理計画に少なからず影響を与えることは必至だろう。

WIPPは1999年、アメリカの核兵器開発など、軍事や原発で出た“低濃度”の放射性廃棄物を地下に貯蔵する実験施設として、カールスバッドの東42kmの砂漠の地下660mの場所に作られたが、その後、“中・高濃度”の放射性廃棄物も貯蔵する施設となっている。

この地が選ばれた理由は、地層が安定した岩塩層で、岩塩層には物理的可塑性がり、施設に亀裂があったとしても封印効果が期待されたからだ。

実験施設とはいえ、35年間で3万6000回にわたって放射性廃棄物が運ばれ、貯蔵される計画。すでに1万回近くの運送が終わり、現在、放射性廃棄物の密封容器(いわゆるドライ・キャスク)が大量(320万立方フィート)保管されている(最終的に620万立方フィートの廃棄物を搬入する計画だ)。

この事故の数日前には、地下で岩塩を運んでいたトラックで火災が起き、以来放射性廃棄物の搬入は中断されている。

“施設内には、放射能を99.97%除去できる高性能フィルターが取り付けられている”と言われるが、地上で放射能が検出されており、どこまで機能しているかは不明だ。

事故の原因は、「積み上げられた容器が崩れた可能性がある」というが、地下現場での調査はこれからで、詳細は判明していない。

地下岩塩層への高濃度廃棄物の処分施設は現在世界に4カ所あり、このうち490mの地下に作られたドイツの「アッセ2(Schachat Asse 2)」では、放射性物質の地下水への漏えいが確認され、計画が事実上行き詰っている。脱原発を決めたドイツでは、今後、出る放射性廃棄物の量を算定できるが、処分・貯蔵の問題は解決されていない。

また、フィンランドの島のオンカロの地下520mに建設中の地下処分保管施設は、フィンランドで出る100年分の放射性廃棄物の10万年間保管を想定している。しかし「10万年もの間地層が安定しているのか?」「10万年後の人類が現代の言葉を理解できるのか?」「それまで正確な資料がきちんと保管されるのか?」など多くの疑問点が出されている。

フランスが泥岩層の地下500mに建設中の地下試験施設は、今年完成予定という。これも数々の疑問点に明確な回答は出ていない。

アメリカは、カールスバッドの他にラス・ヴェガスの北西140kmの砂漠、ネヴァダ州のユッカマウンテン(Yucca Mountain)に高濃度放射性廃棄物の最終処分保管施設の建設を計画。当初、98年操業開始の予定だったが、地元の強い反対で大幅に遅れた。2003年、建設予定地が正式に決められ、審査を経た後、2020年頃までには廃棄物の受け入れを開始し、総量7万tを保管する予定だった。しかし、連邦政府のEPA(環境保護庁)が“保管期間基準を1万年”としたことに環境団体や地元ネヴァダ州政府が反対し、EPAを相手に訴訟を起こす。この裁判で、連邦高裁は“EPAの基準は米科学アカデミーの勧告と矛盾、1万年は短すぎる”と判断。これを受け、EPAは“保管基準を100万年後までの安全を考慮”することになった。

しかし、それでも地元の反対は根強く、アメリカ政府(オバマ政権)が1兆円の資金を投じた後、オバマ大統領がこの施設の開発予算を凍結。再開される見通しはない。

(日本やアメリカは、放射性廃棄物の地下処分貯蔵地としてモンゴル平原の利用をモンゴル政府に働きかけたがモンゴル政府に拒否された)

原発を推進してきたアメリカだが、放射性廃棄物の処分・貯蔵に関しては解決策が見いだせない状態だ。

現在、新規原発を建設する動きもない。安全対策や廃棄物処分の経費が増大し、電力各社も“原発は採算が合わない”として、新規原発の許可が出されても建設する動きは当面ない。

福島第一原子力発電所の事故を起こした日本は、原発の危険性について人一倍敏感になって然るべきだ。しかし、事故後も放射性廃棄物の安易な拡散・貯蔵を進め、さらに原発を推進しようとしている日本が、異常に見えるのは私だけではあるまい。

【DNBオリジナル】

[caption id="attachment_19558" align="alignnone" width="620"] Waste Isolation Pilot Plant[/caption]

Photo:Eastern New Mexico