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汚染水100トン漏洩で人為ミスの事故が続く可能性あり(木野 龍逸)

[caption id="attachment_19346" align="alignleft" width="300"] 濡れている部分が極めて高濃度の汚染水。写真:東京電力[/caption]

 

 

 

 

 

 

東京電力は2014年2月19日深夜0時半過ぎ、報道関係者への一斉メールで汚染水を貯蔵しているタンク(H6エリア)から漏洩があったことを伝えた。さらに東電は翌20日午前10時から臨時会見を実施し、貯蔵タンクの周囲に設置している堰の外に約100トンの汚染水が漏れたと推定していることを発表した。このほか堰内には約10トンの汚染水が漏洩した。

漏れた汚染水に含まれる放射能濃度は、ストロンチウム90が1リットルあたり2億3000万ベクレル含まれていた(海に放出できる濃度上限は1リットルあたり30ベクレル)。またセシウム134と137が合計で同1310万ベクレル含まれていた。

会見では、汚染水の取り扱いや作業確認が杜撰ともいえる状態になっている可能性が表面化した。東電がきちんと対応をしていれば、漏洩そのものが起こらなかっただろうし、漏洩しても100トンという膨大な量にはならなかった可能性がある。

H6エリアタンクからの漏洩についての東電資料 http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_140220_03-j.pdf

 漏洩の経緯は東電が時系列にまとめている。漏洩を発見したのは19日の23時25分で、ルーチンのパトロールをしていた協力企業作業員がH6エリアの汚染水タンク上部から漏洩しているのを発見。現場を確認したところ、天板の雨樋から堰外に直接、汚染水が流れていたことがわかったという。

[caption id="attachment_19347" align="alignleft" width="300"] 東電が公表した汚染水漏れ発見の時系列[/caption]

 

 

 

 

 

 

東電の発表によれば、汚染水が漏れたのは、本来の計画とは違ったタンクに汚染水を移送してしまったためだ。この日の計画では、除染装置から汚染水を移送する先はEエリアのタンク群だった。ところがEエリアより除染装置に近いところにあるH6エリアにつながる弁が開いていたため、汚染水が流れこんでしまったという。

疑問なのは、漏洩を示す兆候に気づく機会が何度もあったのに、見過ごされていた可能性が高いことだ。

まずひとつめの疑問。東電の説明によれば、漏洩発見の9時間半前に、漏れたタンクの水位が高いことを示す警報が鳴り、水位計の表示が激しく上下していた。このため現場の確認などをしたが異常が見つからなかったため、東電は計器の故障と判断してそれ以上の対応をしなかったという。

ところが会見では、現場確認の際にH6タンクの水位を目視で確認していなかったことがわかった。これでは水位計が異常なのか水位が異常なのか判断できないはずだ。なぜ現場の水位を見なかったのかについて、尾野昌之・原子力立地本部長代理は、「考えが至らなかった」「調査中」と述べるにとどまった。

2つめの疑問は、本来の移送先だったEエリアのタンクの水位が変わっていなかったと、東電が発表していることだ。汚染水はH6エリアに向かってしまったのだから、Eエリアの水位に変化がないのは当たり前である。

不思議なのは、汚染水を移送しているはずのEエリアの水位が変わっていないことに、汚染水が漏れるまで注意が払われなかったことだ。水位が変わらなければどこかに漏れていることになる。なぜ運転員は不思議に思わなかったのだろうか。東電はEエリアの状況をどう認識していたかについて、調査中だとしている。

これらのことから考えられるのは、現場の対応能力が低下し続けている可能性だ。13年夏に300トンの汚染水がタンクから漏洩した時には、杜撰なパトロールが漏洩発見を遅らせた。10月2日には、汚染水の移送担当者がタンクが傾いているのを知らずに入れ続け、溢れさせた。さらに10月9日には除染装置の配管を誤ってはずし11トンが漏洩したうえ、作業員6人が身体汚染をした。おまけに現場責任者はPHSの通話範囲を知らなかったため、連絡が遅れ、大量漏洩につながった。

さらに今年2月6日には放射能濃度の分析ミスが公表され、19日の会見では2号機の温度計を作業ミスで壊してしまったことが発表された。

すでに2013年10月28日には、汚染水対応で人為ミスが相次いだことから原子力規制委員会の田中俊一委員長は東電の廣瀬直己社長をはじめて呼び出し、長期的な計画策定を要請した。このときに廣瀬社長は、作業員の確保が困難になっていること田中委員長にを伝えた。

しかし東電は、公の会見では作業員不足を認めず、中期的に不足は生じないとしている。しかしどのような経歴、経験年数、経験値の作業員がどのくらいいるのか、作業内容に適した作業員は確保できているのかなど、詳細について東電は説明していない。これではほんとうに作業が進むのか、外からは確認のしようがない。

一方で福島第一原発の現場では、5年で100ミリシーベルトという法律の被曝限度に近くなっている作業員が増えているという。こうした作業員には、事故直後から福島第一原発で復旧作業にあたっていたベテランも多く含まれる。彼らの積算被曝がリセットされるのは、2016年3月31日だ。もし対応能力の低下要因が被曝量にあるとしたら、今後2年間は同じ状態が続くことになる。

福島第一原発の事故収束作業は、作業員というもっとも重要な要素が、抜け始めているのではないか。人為ミスは、これからも続く可能性が高い。

【ブログ「キノリュウが行く」より】

写真:東京電力