脱原発 小泉元首相の爆発力と「本番」までの傾向(上杉隆)
東京都知事選挙は舛添要一氏が211万票強を集めて勝利した。今後4年間の都政は舛添氏に任されることになった。一都民として良い東京を作ってほしいと願うばかりだ。
さて、この3年間で3回目になる都知事選だったが、都民の投票行動に関して注目すべき変移があった。
2011年の都知事選(4月10日投開票)は震災直後(一ヶ月後)ということもあって、論争らしい論争もおこなわれず、現職の石原慎太郎氏の4選が決まった。危機管理能力と震災対応との処理に関心が集まった選挙だった。
今回、焦点となった「脱原発」というキーワードは、震災直後にはメディアで取り上げられず、当然ながら争点化もされていなかった。当時、私は日本青年会議所(JC)の公開討論会の司会を担当したのだが、原発のあり方について疑問を投げかけていたのは共産党推薦の小池晃氏くらいであった。その小池氏の得票数は60万票程度、事故直後にも関わらず原発についての都民の認識はその程度だったのである。
2012年、石原知事の国政回帰のための辞職に伴って行われた都知事選挙は衆議院選挙とのダブル選挙になった(12月16日投開票)。一般的に、東京都および首都圏の投票行動はのちの日本全体の傾向になることが多い。だからだろう、永田町ではFNN(フジサンケイグループ)の首都圏調査が注目される。
その観点からも、2012年の都知事選で、脱原発票が増えるのか減るのか、あるいは地方の国政選挙の票の出方はどうなるのか、そこを注目した。結論から言えば、国政選挙レベルでは「脱原発」がテーマになるほどではなかった。震災から一年半以上が経っても、原発事故当事国の日本の認識はやはりその程度だったのだ。
だが、先行型の傾向を示す都知事選では違った。433万票を取って圧勝した猪瀬直樹氏ばかりに目が行きがちだが、脱原発を掲げた宇都宮健児氏に100万近くの票が集まったことに政界関係者の多くは注目した。私もそのひとりだった。なにしろ、松沢成文氏、笹川堯氏の国会議員経験者を押さえての2位である。
案の定、2013年夏の参院選でその傾向に拍車がかかる。東京選挙区で無所属の山本太郎氏、吉良よし子氏が当選を果たしたのだ。この流れを敏感に感じ取ったのが「希代の勝負師」小泉純一郎元首相である。
「もし安倍総理が「原発ゼロにする、自然を資源にする国家をつくろう」と方針を決めれば、反対派はもう反対できません。必要論を唱えているマスコミも意見が変わる。正面きって「あくまで必要だ」と盾突く議員は一握り。安倍総理として、国民から与えられた権力を望ましいあるべき姿に向かって使う。こんな運のいい総理(は)いない。使おうと思えば使えるんですよ。総理が決断すれば、「原発ゼロ」反対論者も黙っちゃいますよ。顔が浮かびますが。できるんです。国家の目標として、ほとんどの国民が協力できる体制が。もし自民党がゼロ方針を決めれば、全政党が賛成する。このチャンスを生かす。活用、大事だと思いますよ」
日本プレスセンターの記者会見でこう語った小泉純一郎氏は、今回の都知事選で細川元首相を推した。確かに、結果は90万票に届いた程度だ。しかし、2位の宇都宮候補と合わせれば180万票を超えている。震災から3年目を迎えようとしてようやく世論は変わり始めたといえまいか。
小泉氏という圧倒的なスターが脱原発を明確に表明したことは大きい。日を追うごとに日本人は事の真相に気づきだしている。小泉氏の云うように、政治やメディアなどによって隠されていた「フクシマの嘘」も暴かれ始めている。
60万→100万→180万
3年経っても東京電力福島第一原発の事故処理はままならない。そうした今、都知事選が示した「脱原発」の傾向を止めることはもう誰にもできないだろう。
本番は今年11月、3・11後初となる福島県知事選、そこが潮目になるかもしれない。