日本のメディアはダヴォス会議の何を伝えているのか(大貫 康雄)
毎年、スイスの小さな町・ダヴォス(Davos)のホテルで開かれる『世界経済フォーラム(World Economic Forum )』の年次総会、通称“ダヴォス会議”(今年は22日〜25日)。
日本のメディアは、「安倍総理、日本の総理大臣として初めて基調演説」と大きく報道。一方、韓国の『KBS』などは「パク・クネ大統領開幕演説」とこれも大きく報じている。“基調演説”と“開幕演説”はどう違うのか?
この会議は、全部で250の様々な分科会が開かれていて、開会式から閉会までユーチューブで見ることができる。
“フォーラム”のホームページで確かめてみると、安倍氏もパク氏も“演説者”のひとりとして紹介されている。紹介はアルファベット順なので、安倍氏はオーストラリアのアボット首相の次、2番目だ。
二人ともフォーラムの設立者クラウス・シュヴァープ(Klaus Schwab/英語ではシュワーブ)氏が司会する「世界の変革(Reshaping of the World)」の会場で、初日に演説したことがわかる。
それを韓国では“開幕演説”とし、日本では“初の基調講演”と報じた。上げ底表現で自国の指導者を持ち上げた感じだ。日本のメディアも韓国メディアも似たようなものだ。
世界経済フォーラムは、毎年2百人以上が演説する。いくつもの分科会で活発な討論が開かれる。世界のメディアが各々の立場から報じ、聴き入る人たちも様々である。
世界経済フォーラムは厳寒期にアルプスの小さな村のホテルを借り切って行うので、どうしてもいろいろな人と顔を合わせることになる。
安倍氏はパク・クネ大統領の演説時、最前列に座って聴いていた。この場で日韓関係を何とかしたいという安倍総理の意欲が感じられた(韓国のKBSは、パク大統領開幕演説のニュースで“両者の会談はなかった”と付け加えていた)。
安倍氏が韓国外相らと挨拶をしていたのは良いことだ(米欧も驚く歴史認識のずれ、靖国参拝などで韓国側の感情を一方的に逆なでした後だけに、どれだけ効果的だったかは別にして)。
肝心の安倍氏の演説は、自分の金融経済政策・アベノミクスについてで、第一の矢(金融緩和)、第二の矢(財政出動)、そして(投資促進などの)第三の矢の説明だった。
インターネットで会場の反応を見ると、現時点では期待を持って御手並み拝見といったところだが、やはり賛否両論あった。
第一の矢で急激な円安が進み、企業や金持ちの株投資が活発になって利益を得たが、輸入物価が軒並み上がり、一般国民、特に貧困層にさらに負担が増えた。そして年金水準の引き下げ、所得税課税強化、保健医療負担増などの政策が打ち出されている。消費税引き上げ後の消費の冷え込みに対する懸念も強い。
要は国内消費が活発になるか否かだ(財政出動は、民主党政権ではマスコミと自民党が“バラマキ”と非難したが、今は“大バラマ”政策だ。財政出動で国の借金は大きく増えている。民主党政権でのバラマキを批判したマスコミはどこに行った!?)
安倍氏はまた、中国を意識して東アジアの平和と安定には軍事力増強での対立でなく、国際法に基づく対話と協力が必要だと訴えた。この姿勢には会場の大半の人が歓迎した(しかし、日本の国内事情を知らない人たちが大半で、安倍政権が国内で何をしているのかわかれば反応も違ったであろう)
各国メディアが最も注目したのがイランのロウハニ大統領の出席だった(たまたま隣り合わせになった安倍総理が、ロウハニ大統領を意識してか緊張した面持ちで演説を聴いている映像が流れたが)。
ロウハニ大統領は、シリアの和平に積極的に関与する姿勢を示しつつ、欧米が主張する一方的なアサド退陣ではなく、自由で公正な選挙の実施を経てこそ和平が実現すると発言した。
ロウハニ大統領はさらに、世界経済フォーラムのあり方に異を唱えるかのように、問題は経済の視点からだけでは解決できない。文化や精神、倫理などの観点からも考えてこそ解決できるなどと主張したのが目を引く(一方、同じ会場でイスラエルのネタニヤフ首相はイランへの不信感を繰り返した。呉越同舟の場でもある)。
ダヴォス会議は本来経済の視点から、世界の諸問題を語り合う場になった。しかし、ボノ氏(U2)らに「雪の中で踊る金持ちたちの会合」と言われ、貧困者を無視しているとの批判も浴びた。毎年のように抗議デモも行われている。
以来、「社会」「教育」「貧困」「環境」など様々な問題の関係者が世界から集まり、様々な意見を主張し合う場として存続している。何をニュースとするかは、「各国メディア」「それぞれの記者の見識」「視点」次第である。
【DNBオリジナル】
[caption id="attachment_18640" align="alignnone" width="620"] スイス・ダボスの町[/caption]
Photo:Flyout