電気料金を人質に脱原発批判を繰り広げる安倍政権の卑怯(藤本 順一)
「エネルギー政策は東京都だけでなく国民みんなの課題だ。都知事としての課題もバランス良く議論されるべきだ」
安倍晋三首相は13日、外遊先のモザンビークから脱原発を掲げて都知事選に立候補する細川護煕元首相に向けてこんなメーセージを送った。原発再稼働問題が都知事選最大の争点に浮上したことへ不快感を示したものだ。
しかも、自らを過分に取り立て首相の座にまで導いてくれた小泉純一郎元首相が後ろ盾になっての出馬となれば心穏やかではなかろう。
周知のとおり、アベノミクスによって輸出企業は円安の恩恵を受けて収益を拡大させ、証券市場に活況をもたらした。一方で円安は原材料、エネルギーの調達コストを跳ね上げ、これが消費税率引き上げと相まって4月以降、電気料金や衣料、食料品価格などに価格転嫁されるから国民の暮らしを圧迫する。結果、インフレ誘導で給料の額面は増えても消費拡大にはつながらない。内需主導の経済成長を目指す安倍政権にとってこの最悪のシナリオを回避するためには原発再稼働によるエネルギーコストの負担軽減は欠かせないもの。
そこに降って沸いた脱原発を掲げる細川元首相の出馬である。
「安定的で安全なエネルギーの供給を確保することが政治の責務であり、エネルギー政策は国策として国民益を考えながら取り組んでいかなければならない」
安倍政権の経済成長戦略を陣頭指揮する甘利明経済担当相は10日の記者会見でこう述べ、肥後熊本藩主の末裔にあたる細川元首相の出馬を「殿、ご乱心」とまで言い放った。
またこの日、テレビでは安倍首相の後見人を自認する森善朗元首相が「小泉氏の原発反対論で知事選を勝とうとしている。卑怯だ。フェアではない。原発を絡めて通ろうとする人は心がやましい」と述べ、細川氏を切って捨てた。
首相経験者とは思えない下品な物言いだが、それだけ政権与党内に動揺が広がっているということか。
同じ日、自民党のエネルギー政策議連の柴山昌彦衆院内閣委員長は政府が今月中の閣議決定を目指していたエネルギー基本計画が原発を「基盤となる重要なベース電源」と明記していることについて「方向性が間違っている」と意を唱えた。産経新聞の取材に応えてのもの。ちなみに自民党は24年12月の衆院選の公約で「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立を目指す」としている。
また、公明党も先の参院選で「可能な限り速やかに原発に依存しない社会・原発ゼロを目指す」と公約に掲げている。そうであれば本来、原発再稼働は解散総選挙で国民に信を問うべき重大な公約違反である。
それに安倍政権は都知事不在のドサクサ紛れに下村博文五輪担当相と日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長とで示し合わせ、森善朗元首相を五輪組織委員会の会長に就任するよう要請している。
卑怯なのはどちらか。せめて原発再稼働の是非を都民に問いかけたいとする細川氏の出馬を否定する資格は安倍政権にはない。
【ブログ「藤本順一が『政治を読み解く』」より】
Photo : Shinzo Abe at CSIS(Wikimedia Commons /Author:Ajswab)