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安倍総理の“地球を俯瞰する外交”を検証する(大貫 康雄)

地球を俯瞰する外交」とマスコミが宣伝する安倍外交。しかし、何を目的に俯瞰をし、その成果が国民生活にどう還元されるのかわからない。今年も早々にアフリカ4カ国を歴訪、新聞テレビは無批判で報道。外交はもちろん大事だが内政と密接に関わり、国民の税金で動いている。

政府は国民にきちんと結果報告をし、マスコミはそれを検証して伝えるのが当然だが、その報道は極まれだ。

そこで自分なりに安倍「地球を俯瞰する外交」を俯瞰的に検証してみる。

安倍外交の特徴は、「1.対米最優先」「2.原発輸出」「3.対中国」「3.国連改革への支持拡大」などだろう。

いずれにしても対中国意識が強く、その必要上、アメリカ(軍)の支持が必要で、アメリカ軍を引きとめるために、沖縄の人たちに犠牲を強いて普天間基地の辺野古沖移転を強行しようとしている。

原発輸出」は3・11事故発生前の自民党、民主党を問わず、歴代政権が推進、国民全体ではなく原子力ムラの代理人活動の一環だ。安倍総理になって加速している。

それも、東京電力福島第一原発事故の収束どころか、依然として放射能の大気中放出、汚染水の大量流出を止められない状況下での輸出だ。当然世界各国の目は厳しくなる。

原発輸出が原子力ムラだけの利益に寄与するのは、ベトナムへの件を見ても一目瞭然だ。日本原子力発電(株)におよそ20億円で「“低炭素発電”事業国際展開」の調査事業をさせている。

すでに南部ニントアン省での原発建設で、日本企業の受注が決まったが、この地域には大地震、そして津波が起きる可能性が指摘されている。原発事故が起きた際、日本政府はどう責任を取ることになるのか?

菅政権が受け入れたベトナム側の条件は、「A.先進的設備の導入」「B.人材育成」「C.資金提供」「D.使用済み核燃料を含む放射性廃棄物の処理」「E.技術移転」だ。すべて日本側の負担で建設し、ベトナムに提供するのであれば、ベトナムは合意するという内容だ。

つまり、政府(国民)が負担しなければ原発輸出はできない。それだけ商業的には採算に合わないことが明白だ。 特に使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理・保管は、日本も先進国でも解決できない課題だ。それを日本側が受け入れる甘さ、逆にそれを認めさせるベトナム側のしたたかさが目立つ。

日本政府は一体どうする積りなのだろう? まさか国内どこかに処理施設を作って負担は国民に? そこまでして政府は原子力ムラ優先の政策を進めるのか!? 何故だ? 原発輸出は、政府が(国民の税負担で)乗り出さなければ受注できない。一体説明責任はどうなっているのだ?

危険なだけではない。普通の商売では採算に合わないのが明白である以上、税金のムダ使いの最たるもの。原発輸出は即刻中止すべきだろう。

トルコとの間でも安倍政権が原子力協定を結び、「原子力海外建設人材育成委託事業」として、地質調査の予算を計上。12億円近い事業費で、同じく日本原子力発電に受注させている。トルコも大地震地帯であり、事故が起きる可能性は高い。

また菅政権の時から、中東のヨルダンに原発輸出の動きを加速させている。冷却用の水もない砂漠地帯に原発を建設して、一体安全はどう保障するのか?

日本のODA支援事業は、基本的に「日本企業に受注させる」という条件付きが多いが、それにしても国民の利益は二の次、原子力ムラの利益優先丸出しの政府の姿勢が良くわかる。

「対中国」は、増大する中国への恐怖感が安倍内閣自体に背景にある。また中国の“強硬姿勢”を強調して、国民の安全保障上の危機感を煽って右傾化を進め、憲法改変、国家主義体制の強化というイデオロギー上の思惑があると考えられる(その対中国危機感を煽る政策も特定秘密保護法の強行成立、靖国参拝等イデオロギー上の独走で肝心のアメリカから不信を買っている)。

ミャンマーは民主化移行の過程で、中国一辺倒から広く各国との通商関係を広げる政策に転換。安倍政権は早速中国けん制にもなるとしてミャンマーへの援助強化外交に乗り出し、経済界首脳も引き連れて訪問した。

しかし、期待した携帯電話事業日本企業受注は実現せず、ノルウェーとカタールの企業が事業免許を獲得した。また、国際空港建設事業も日本企業でなく韓国企業に受注が決まった。

安倍総理は国民に相談(国会審議)もないまま、ミャンマーの対日債務数千億円の債務も解消。新たに910億円の追加ODAを実施したが、ミャンマーは安倍総理のソロバン通りには応じなかった。

日本との良い関係を世界各国に見せつけて利用する、ベトナム同様ミャンマー側のしたたかな国益追求外交と安倍政権の甘さが対照的だ。

貧しい国の人たちへの支援を否定はしない。債務帳消しもやむを得ない時がある。しかし、せめて現地国の民主化や人々の人権状況の改善などを約束させるなどの交渉をした上でやるべきだった。対外支援は日本の国民の多くが苦しい生活の中から出した税金を使っている。安倍総理には責任を取って、国民に賠償してもらいたいくらいだ。

昨年は安倍政権の中国への対抗心むき出しの東南アジア外交が目立った。しかし、東南アジア側は日本が想像する以上に中国との通商関係を深めている。日本が経済支援で対抗できる可能性は薄い。

かといって中国一辺倒ではなく、中国をけん制する上で日本カードを使う、という方針を取っているのがわかる。自己中心的な安倍政権、こうした外交の初歩も理解していないのだろうか?

日本ができることは、経済利益最優先で腐敗国家を擁護する中国とは一線を画し、あくまでも両国民間の信頼を築くための支援であるべきだ。

国連改革に向けた支持拡大」は、単なるODA支援の強化などでできるわけではない。これにも対中国の思惑が見え隠れするが、中国は安全保障常任理事国。拒否権を持つこの国を敵に回して自分に有利な国連改革などできるはずがない

新年早々、安倍総理は経済界の代表を引き連れてアフリカ4カ国を歴訪し、資源開発、インフラ整備などへの大規模支援を約束した。しかし、中国のアフリカ諸国への投資は日本の何倍にも上っており、各国の政府機関の建物も(中国企業が中国人労働者を動員して建設)無償で提供している。同じことをやっても対抗できるはずがない。

例えば、安倍氏の最後の訪問国エチオピア。ここの首都アジスアベバには、AU(アフリカ連合)の本部がある。このAU本部の建物も中国が建設して提供している。

また12月10日、南アフリカで行われた故・マンデラ大統領の追悼式を想い出してほしい。ズマ大統領の挨拶の時に参加した国民からブーイングが起きた式典だ。この追悼式典で演説を依頼されたのはアメリカのオバマ大統領と共に中国の国家副主席だったことを。

南アフリカのズマ政権は、マンデラ氏を裏切るくらい腐敗している。中国がその(国民ではなく)ズマ政権との関係を強め資源獲得を進めている。ズマ政権にいかに歓迎されているかがわかる。

中国は、アフリカでも資源獲得最優先、独裁国家や腐敗国家の弾圧、腐敗を増長、現地国の人たちに必ずしも歓迎されてはいない

こうした中国の経済的利益優先外交と距離を置き、東南アジアでも中東でもアフリカでも、現地社会に貢献する支援を進めてこそ、日本が信頼を得る有力手段であることを忘れてはなるまい。

安倍氏は、目先の利益でしかない企業利益優先外交の限界を理解し、人材育成、民間交流、顔の見える支援など長期的に両国民のためになる地道な外交の推進こそ日本が国際社会で尊敬を得られるのを認識すべきである。

【DNBオリジナル】

Photo:PresidenciaMX2012-2018(Wikimedia Commons)