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EU議会のスノーデン氏事情聴取における問題点とは(大貫 康雄)

米NSA(国家安全保障局)の膨大な通信情報の傍受・盗聴事件で、EU議会がエドワード・スノーデン氏にヴィデオで事情聴取する決定をしたのは、昨年の暮れだった。そのEU議会は9日、ようやく氏に事情聴取の要請を伝えた。遅れた理由は議論の過程でいくつもの問題が出てきたからだ。スノーデン氏が直ちに応じるか否かは今のところ不明のようだ。

また、この問題ではドイツ連邦議会も議会に調査委員会を設けるか否かで議論を続けている。

EU議会とドイツ連邦議会の議論の過程で浮かび上がった問題を筆者なりに整理してみる。

●事情聴取は氏にとっても利益になり、氏の基本的権利を保障するものである必要がある。

●スノーデン氏は、いわゆる諜報の専門家ではない。NSAの秘密の傍受・盗聴を知って、そのデータを外に持ち出しただけ。NSAの具体的な活動実態をどこまで知っているかわからない。事情聴取で成果があるのか。

●スノーデン氏がEU議会の事情聴取に応じれば、氏の逮捕状を出しているアメリカ政府に居場所が特定されてしまう恐れがある。

●スノーデン氏は1年間の滞在ビザを給付されるのにロシア政府からいかなる条件を付けられたかを確認する必要がある。

●EU議会の“公正と市民の自由”委員会は、NSAがEU加盟国の市民と政府の通信をどこまで傍受・盗聴していたかを調査しており、事情聴取でそれが解明できるかわからない。

一方、ドイツ連邦議会は大連立政権が成立し、昨年とは与野党の構成が大きく変化した。NSAの通信傍受・盗聴疑惑については、与党野党を問わず怒りをあらわにしている。しかし、疑惑にどう取り組むかについては意見が異なる。調査委員会の設置を求めるのは、少数野党の緑の党と左派党。メルケル首相のCDU(キリスト教民主同盟)は反対、昨年まで野党だったSPD(社会民主党)も今は消極的だ。

理由は以下のようなもの。

ドイツ連邦議会は、外国政府の動きを監視できるわけではなく、外国政府の誰の証言を求めるか特定が不可能。

●ドイツ人の通信がアメリカ通信企業の回線を経由したからというだけで、安全でないとは断定できない。

議会の調査委員会である以上、一定の成果が確信できなければならない

●ドイツの議会である以上、焦点はこの件にドイツの情報機関がどこまで関与していたかに絞るべきである。

●スノーデン氏がドイツ連邦議会で証言する場合、政府が身の安全を保障、氏に亡命許可を与える必要がある。亡命許可がないままドイツに入国し、アメリカに強制送還される恐れは氏も避けたい。今のところドイツ政府が氏に亡命許可を出す可能性は低い。

アメリカのオバマ大統領はメルケル首相をワシントンに招待する旨を伝えた。理由は欧米間の大西洋同盟の現状と今後を話し合うとのことだが、両国間の“喉に刺さったトゲ“になっているNSA疑惑が焦点になることは間違いない。オバマ政権も米議会もNSAの活動の範囲を制限する議論に入っている。

メルケル首相が招待を受けるとすれば、オバマ大統領の今年の「一般教書演説」の後、メルケル首相のスキーでの怪我が治る2月に入ってだろう。

両首脳の会談が実現すれば、スノーデン氏の身分に変化もないまま、問題の本質を問わないまま、欧米間のいわゆる“ボス交渉“の形で、一応の決着が図られることになるかもしれない。

【DNBオリジナル】

[caption id="attachment_18274" align="alignnone" width="620"] エドワード・スノーデン氏[/caption]

by TheWikiLeaksChannel