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年末年始にアベノミクスの成果を検証してみると……(大貫 康雄)

個人的ではあるが年末年始に自らの体験や報道を通じて感じたことを記しておく。この期間、以前のマスコミ記者は、上野のアメヤ横町など下町の商店街やデパートなどに出向いて活気、売上状況などを報じていた。政治家にも長靴姿で商店街を歩いて人々の生活実感を共にしようとする者もいた。

しかし、この年末年始のマスコミ報道からは、それがあまり見られなかった。流通形態や人々の嗜好、生活様式が変わったためかわからないが、少なくともマスコミが検証すべき問題は多々あった。

例えば安倍政権が華々しく打ち挙げマスコミが宣伝した「アベノミクス」。この年末年始はその1年の成果を占う上でも格好の取材現場のはずであった。

株が1万5000円を大きく超えたことは宣伝している。しかし経済政策本来の目的である“アベノミクスで一般市民の生活は良くなったのか?”、なぜかこの報道が極端に少ない。筆者が街でお聞きした限りでは、消費は落ち込んでいるというのだが。

①   東京・港区内のすし屋のご主人。“暮れの築地の雰囲気は盛り上がらなかった。一部高級魚と低価格の魚介類は売れるが、多くのすし屋が大量仕入れを諦めた。高級料理店と低価格の回転すし店を除き、平均的なすし店のお客が減っているからだ”と言っていた(日本社会を支える土台である中産階級の没落の始まりかも知れない)。

ひとつの指標として、築地市場株式会社の業績を見ると年年減り続け、2013年3月での年間売り上げは730億円以下だ。2年前までは800億円かそれ以上の業績を挙げている。今年3月の決算でも低迷が続くのは必至と見られる。

テレビ・新聞は、デパートでは年末年始に高級時計や装飾品など、高額商品は2ケタの売り上げ増になったと報じた。

しかし、デパート全体の売上増は2ケタに遥かに及ばない。一部デパートをのぞいた限りでも、食料品売り場は賑わっていたが値段が高くなっている。

各地の商店街の年末年始商戦はどうだったのか。知人の奥さんは言う。“とにかく安いものしか買わない。スーパーは混雑していたが、商店街の飾り付けが地味になった”。そういえば神社仏閣の初詣の報道でも、なぜか大きな賽銭受けがマスコミの映像から消えた。

あらく推測して、圧倒的多数の国民の懐は決して良くなっていない。ごく一部の富裕層が、消費税率引き上げ前に高額商品を購入し、一般消費者は円安で値上がりしたものを選んで買わされたとの構図が描ける。

円安にした以上、当然、輸入品は高くなる。円安で誰が儲けたのか?(金に余裕のある)大株主、(押し並べて大きな)輸出企業と経営陣に限れば、収入が増えた様子だ。

②  安倍氏は最近あまり「アベノミクス」を口にしなくなった。“第2の矢”、“第3の矢”と華々しくマスコミが喧伝したが、結果はどうなったのか? マスコミは報道しない。

多くの政権は公約実現の見通しが危うくなると口を閉ざし、あいまいに誤魔化す傾向がある。

安倍政権も「アベノミクス」の実態が明らかになる前に、別の言葉を使って国民の支持をえようとしているのかも知れない、と推察する。

安倍氏が伊勢神宮参拝後に“力強い経済……”(?)などと言い出したが、マスコミはただ垂れ流しするだけで、アベノミクスのいかなる成果の上で言っているのかは報道しない。

“力強い経済”“企業に要請し賃上げを実現”(?)を繰り返す安倍氏に「アベノミクス」1年間の結果、“第2の矢”“第3の矢”の効果を問い検証するべきだろう。

アベノミクスが国民生活を改善するバラ色の政策のように思わせ、有権者を安倍政権支持に導いたマスコミの責任として。

安倍氏がいう“デフレ脱却”は一体何を意味し、誰のためなのだ? 物価を挙げるだけではないか? 新年度予算も大企業への大バラマキ予算になっている。将来の膨大なツケは大企業でなく、一般国民に押しつけるつもりかも知れない。

彼は“企業にお願いして賃金引き上げを実現”を繰り返し、期待を持たせる。しかし、政権寄り、政権批判の別を問わず、調査結果は賃上げ見通しに否定的だ。多くても17%の企業しか賃上げを考えていない。賃金を上げたとしても、いくらにするのかも不明だ。大半の企業は円安効果による利益を内部留保に回すという。

大企業の番頭政権のような姿勢は誤りである。第一、大企業は儲かっている。大株主は高配当を受け、経営陣は自分の収入は増やしているのだ。しかし、圧倒的多数の従業員の給与・賃金を改善するつもりはさらさらないようだ。従業員の苦しみをよそにブラック企業の経営者は依然として大手をふるっている。

それであるならば“国民生活の改善“という政府の基本的任務を自覚し、最低賃金の引き上げ、失業手当の改善(保険金引き上げではなく)、健康保険制度の充実、年金給付水準の引き下げではなく引き上げ、大企業への優遇政策を廃止(少なくとも縮小)、ブラック企業への罰則、税負担能力のある富裕層への課税強化、などを国会で決めればいいだけの話である。

③   安倍政権は、一般国民をばかにした経済理論「おこぼれ効果・trickle down」をいう。企業・経営者が潤い、その一部(水や豆粒がすくった手からこぼれおちる)を一般従業員に与えるという理論だ。「レーガノミクス」を打ち出し、国民を煙にまいたレーガン政権下の80年代、アメリカの経済学者たちが盛んに言っていたのを覚えている。そのレーガノミクスは失敗。アメリカの経済増加を鈍化させ、貧困層を拡大しただけというのが経済学者の常識だが、わが安倍政権はその真似をしようとしている感じだ。

中央銀行の最重要任務は“通貨の番人”のはずだったが、今の日銀は安倍氏に都合のよい総裁のもとで“通貨の破壊者”と化した。輸出企業優先、物価高で国民生活が苦しくなっても構わないようだ。

④   しかし、今の日本は将来に備えて待ったなしで最優先に取り組むべき課題がある。

昨年末に出された、OECD31カ国の17歳以下の子どもの生活状態を対象としたユニセフの調査結果は深刻なものだ。それによると、日本の子どもの物質的豊かさは31カ国中22位“先進国”では最低の部類に入る年収125万円以下のいわゆる“相対的貧困”(一家庭平均年収250万円で、その半分)で暮らしている子どもが、全体の15%、300万人もいる。さらにそのうち30%が絶対貧困の生活であるという。

年収125万円以下の家庭は、日々の食生活で手いっぱいだろう。暖かく冬を過ごしているのか? 子どもたちに本を買ってやれるのだろうか? 子どもたちがくつろぐ空間はあるのだろうか? 一体、何が買えるのだろうか? など考えてしまう。“お年玉”や“クリスマス・プレゼント”は? 

一般の子どもと同じようにあるとは考えられない。共通の話題や体験も少なく、時には孤独感に覆われ、いじめに泣く子も多いだろう。

“子どもの貧困大国ニッポン”といわれるのも当然の状況だ。

ユニセフの調査結果を予測するかのように、“早急の対策を!”との声が高まり、昨年6月「子どもの貧困対策法」が成立した。この法律では子どもの教育の機会均等を国や自治体に義務付け、健康で文化的な生活の保障、次世代への貧困の連鎖を防ぐなどを目的とし、3年ごとに調査結果を公表し、見直しを進める。

子どもは次世代、日本の将来を担う人材、まさに待ったなしで取り組む課題である。安倍政権は国民や近隣諸国を不安と疑念の渦に陥れるようなことをせずに何よりも、この法律を具体的に推進するべきである。

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by 大阪