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迫害されるメキシコのジャーナリストを擁護し続けたマイク・オコナー氏逝去(大貫 康雄)

現在、問題の真相に迫ろうとするジャーナリストが世界各地で迫害にあっている。メキシコでは、麻薬組織の活動を報じるジャーナリストたちが脅迫の果てに殺されるなどの事件が急激に増えている。

マイク・オコナー(Mike O’Connor)氏(67歳)は、自ら麻薬マフィアを取材・報道するかたわら、NPO「ジャーナリスト擁護委員会(Committee to Protect Journalists)メキシコ支部」の代表として、脅迫・迫害を受けるメキシコのジャーナリストの擁護に奔走した人物だ。

そんな氏が12月30日(現地時間)、メキシコ市内の自宅で亡くなった(67歳)。そこで、氏の生涯を『NYタイムズ』の記事を若干引用しながら紹介する。

メキシコは昔から犯罪が多い国だ。筆者自身、1980年代から90年代にかけて、何度か訪れた時に危険に遭遇した経験がある。行きつけの店がマシンガンを構える4人組強盗に襲われ、警察官も突然辻強盗に早変わりするのにあった(この時は途中逃走したが)。また、車に難癖をつけてカネを要求する警察官にあったこともある(この時は通訳兼用心棒が撥ねつけた)。

しかし、現在と比べると、この頃はまだ“牧歌的な犯罪”の時代だった。それが90年代からは、殺人・拷問をいとわない組織犯罪が横行する危険な状況になっていった。

政府の腐敗の間隙を縫うように麻薬組織が勢力を広げ、メキシコ各地で一般市民を巻き添えにした武力抗争が繰り広げられる。警察署長以下が買収され、殺人事件の捜査などは一向に進まず、目撃者に事情を聴くなどした捜査官たちが逆に脅迫され、殺されたりして沈黙を強いられるか、“犯罪組織に協力的”になる。

そんなマフィアの活動を取材し、報道する記者たちは、様々な脅迫や迫害を受け、家族にも危害が加えられるようになった。「ジャーナリスト擁護委員会」の調べでは、1992年からこれまでに29人のジャーナリストが殺害されている。

オコナー氏は80年代、アメリカ・カリフォルニアのテレビ局を経て、『CBS』(アメリカ3大ネットワークのひとつ)の中南米担当記者となり、さらに『NYタイムズ』の中米担当記者、旧ユーゴスラビアや中東取材などを経る。

氏がメキシコに活動の重点を移すのは、メキシコのジャーナリストたちが脅迫や迫害にさらされ、危険な状況にあることを知ってからだ。

アメリカとメキシコを行き来しながら、メキシコのジャーナリストたちが置かれている危険で複雑な状況を把握し、迫害を受けるメキシコのジャーナリストの支援に乗り出す。2009年1月からは「ジャーナリスト擁護委員会」メキシコ支部の代表として、内外に働きかけを進める。

特に地方で取材活動するジャーナリストたちが日々脅迫にさらされ、孤立無援になる恐れが多いのを気にかけ、直接現地に乗り込み調査をするようになった。

そして現地で記者会見を行い、事件を一向に捜査しようとしない警察、州当局の姿勢を批判した。特にメキシコ・シノロア州で行なわれた記者会見で『シノロア州の治安の責任者は一体誰なのだ!? 政府なのか、それとも犯罪組織なのか!?』という発言が、国内外で報道され大きな反響を呼ぶ。

その後もアメリカの新聞、テレビ、ラジオで報じつつ、遠方の記者と何時間も電話で話しながら励ます活動を続けた。

さらにオコナー氏は、隠しごとや誤魔化しをするメキシコの政治風土の欠点を指摘。

2010年9月に、当時のカルデロン(Calderon)大統領にメキシコのジャーナリストが置かれた状況に関する「メキシコの報道は沈黙か死」という報告書を提出して大きな衝撃を与える。

また、メキシコ連邦政府に国際的な圧力をかけるなどして、2012年、“ジャーナリストに対する犯罪を連邦政府機関が捜査し、訴追する権限を強化する法”を成立させる原動力の一人となった。

「ジャーナリスト擁護委員会」は、改めて報道の自由と人権の擁護に力を尽くした氏の活動を偲び、突然の死を惜しんだ。

メキシコの麻薬組織の犯罪は、アメリカの捜査官を射殺するなど国境を超える問題になっている。米国務省のサキ報道官(Jen Psaki)は、オコナー氏を悼み以下のような声明文を出した(筆者意訳)。

「恐れ知らずに真実を追求し、多くの人々のために情熱的で歯切れのよい“良心の声”をあげた。オコナー氏の業績と生涯は、真実の追求、そして人間の尊厳・権利、報道の“力強い自由”を守る闘いへと多くの人々を鼓舞していくだろう」

【DNBオリジナル】

[caption id="attachment_18024" align="alignnone" width="620"] メキシコ・メキシコシティの夜景[/caption]

 

by Quasipalm