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【スクープ第2弾】松江介護詐欺、 元検事らも疑問(今西憲之)

15,000円あまりがほしいがために、約392万円を松江市から振り込ませたことが罪だと、島根県警と松江地検が立件した詐欺事件。
起訴状をさらに精査してゆくと、奇妙な記載にぶつかった。

<給付費をだまし取ろうと考え、同社(いずみ)従業員らと共謀の上>
松江市に392万円を振り込ませたと書いてあるのだ。

第1回目の記事でも書いたように、第1次(不起訴)、第2次逮捕(起訴)で主犯とされる田窪紘子被告と介護事業会社の従業員4人が逮捕された。紘子被告以外の逮捕者は、起訴猶予となっている。

起訴猶予とは「犯罪事実はあるが起訴するにはあたらない」という意味だ。起訴されないだけで、犯罪事実ではあるということ。しかし、共謀した共犯者の名前が「従業員ら」とされている。

「共謀があれば、共犯者としてその名前を書いてくるのが当然です。ましてや、詐欺をした金額がたった15,000円あまりという常識はずれの事件。完璧にしなければいけない。おそらく松江地検は、きちんと書けなかったのではないか」
と指摘するのは、元大阪高検公安部長で検察の裏金を告発したことで、口封じ逮捕された、三井環氏。

詐欺罪は、刑法第264条から読み解くと、犯罪行為者の「犯意」があることを前提である。
田窪紘子被告は、地元の生まれ育ちで、長く介護事業にかかわってきた。2006年、一念発起、独立して株式会社、いずみを設立。知的、身体的障害がある児童のサポートするサービスを中心に提供してきた。

5人の事務スタッフと約30人のヘルパーで運営をしてきた。サービスの主なものは、学校への送り迎えをする「通学通勤等移動支援」と自宅からいずみなどの施設への行き帰り「個別移動支援」。そして、いずみの施設に一時的に児童を預かる「日中一時支援」すなわちデイサービスの支援が中心である。

利用していた児童は約50人。地元では、松江市では大きな規模の部類に入るといい、紘子被告が逮捕後も
「ぜひ、いずみで預かってほしい」
という声が数多く、利用者の親などから寄せられた。

逮捕され、起訴猶予で釈放された紘子被告の夫。第2次逮捕でも詐欺には不可欠な「犯意」などかけらもなかったという。

「起訴された、松江市への不正請求。ある児童をマンツーマンでヘルプしなければいけなかった。だが、ヘルパーが交通事故にあって、病院に担ぎ込まれた。そこで、仕方なくヘルパー1人で2人の児童の面倒をみた。だが、規則なので我々から松江市にはそれが言えない。交通事故にあったヘルパーが面倒見たことにして、請求した。それが詐欺だとされた」

私もいずみの介護施設を見学した。重度の障害をかかえる児童があちこち動き回ったり、大声で叫んだりと厳しい現場。ヘルパーは、一瞬たりとも目が離せない。一方で、ヘルパーは、日常的に不足。入ってもすぐにやめていく人も少なくないそうだ。

いずみでは、評判がよく利用者が増えるに従って、日常的にヘルパー不足に悩まされ、その調達に追われていた。現場は火事場のように忙しく
「今、振り返れば、松江市などへの請求を担当している事務職員も、てんやわんやでやっていた。それは反省すべきところ。だが、詐欺などするような意思はまったくない」(前出・紘子被告の夫)

だが、松江地検は「犯意」があったとして、起訴に踏み切った。起訴状には、江渕悠紀という検事の名前が記されている。関係者に聞くと、山口地検や東京地検などを経て、2013年春に松江地検に赴任したという。

江渕検事の名前を検索すると、こんな記事があった。
http://www.asahi.com/area/shimane/articles/MTW20130619331060001.html
そこには、こう記されている。
<私は人々の命や幸せを守りたくて検察官になったのでした>
(朝日新聞デジタル 2013年06月19日)
とても「犯意」などない人を詐欺だと起訴する。おまけに、とても幸せを守っているとは思えないことまで、やっているのである。

(続く)