【スクープ】松江介護詐欺 1万5000円で72歳女性逮捕の怪(今西憲之)
2013年9月11日朝、島根県松江市の静かな住宅街にある障害者施設。何台もの車が止められ、捜査員が急襲した。応対したのは、身体障害者介護事業会社「いずみ」の経営する田窪紘子被告(72)。
「私が、逮捕なの?」
と何が起こったのかよくわからない様子で、島根県警の警察車両に乗せられていったという。
逮捕容疑は、2012年6月から11月まで7回にわたり、松江市から地域生活支援給付金、合計6万7千円を詐取したというもの。
だが、6万7千円の第1次逮捕については、処分保留とした島根県警。10月2日には、紘子被告を再逮捕。そして、紘子被告の夫や事業会社の担当者3人、合計で5人を逮捕。容疑は、松江市に虚偽の申請書を提出して、地域生活支援給付金約400万円を詐取したというものである。
松江地検は、11月29日に紘子被告を起訴。紘子被告の夫など、他の4人の逮捕者は、起訴猶予とした。だが、第1次逮捕の6万7千円は、今もって、誰も起訴されていない。
紘子被告は、第1次、第2次逮捕とも、一貫して容疑を否認し無罪を主張。事業会社を利用していた人からも多数の嘆願書が寄せられ、松江市には、抗議までが寄せられているのだ。
紘子被告の弁護士は、起訴状を見て驚いた。
詐欺で詐取した金額が、392万4,685円という。だが、起訴状の<別表>が添付されていた。そこに記されているのは、5回のサービスのみだ。松江市に請求できるのは、1時間あたり1,970円。弁護士と紘子被告の家族が計算したところ15,830円。
請求はまとめて行われるので、振込金額が392万円になった。その中に、15,380円が含まれていた。15,380円を詐欺するために松江市に392万円を振り込ませたのが、詐欺と松江地検は主張するのだ。
「意図的にだまそうと請求したのではない。ヘルパーが休むなどして混乱して、間違って請求してしまった」
と逮捕され起訴猶予となった、紘子被告の夫は言い、いずみの決算報告書を見ると、毎年8千万円ほどの売り上げがある。詐欺事件は騙そうとする「犯意」が前提となる。
「15,000円を騙し取るために、392万円を振り込ませたというのが、検察の構図なんだろう。年商8,000万円の会社が15,000円を騙そうとするのか、とても詐欺の犯意があるとは思えない」
と元東京地検特捜部検事で、島根県出身の郷原信郎弁護士はあきれる。
紘子被告は、72歳と高齢。逮捕後、後述する「重病」で一時、執行停止となり緊急手術を受けている。今も「否認」のため拘束が続いている。
私は思う。
果たして、これは「事件」なのだろうか?
起訴状には、そうとは思えない記載がさらにあった。
(続く)