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世界の流れに逆行する安倍政権、日本孤立化の恐れ(大貫 康雄)

12月26日の安倍総理の「靖国参拝」は戦後最悪の愚挙と言っていいだろう。中国、韓国だけではなく、アメリカをはじめ世界主要国の批判を呼び起こした。これは初めてのことである。

それは今回の靖国参拝が、安倍政権が発足以来、国民多数の反対を無視して強行してきた一連の国家主義的政治の象徴的な行為だからだ。多くの人々が、戦後営々と築いてきた“平和と発展に貢献する日本”という世界の評価を一変させる恐れがあるからだ。各国の反応を見てみよう。

何といってもアメリカの反応がこれまでと質的に変化した。安倍氏がいう最重要同盟国が参拝後、異例の速さで「失望」の意を表した。普天間基地移転先に予定の辺野古沖埋め立て申請認可を受けた小野寺・ヘーゲル両防衛大臣の電話会談もアメリカの意向で急遽中止になった。アメリカの不満の度が測り知れる。

安倍氏は参拝前にケネディ駐日大使に電話で事前通知したようだが、それでアメリカが了解したと思い込んだのだろう。甘すぎる。安倍参拝後、アメリカ大使館は時をおかず「失望」声明を出す。いかに異例か。

参拝の時、ワシントンは25日クリスマスの深夜、大統領以下多くのアメリカ人が、家族そろって団欒を楽しむ数少ない機会に東京とワシントンの担当者間であわただしく電話打ち合わせをし、確認したのだろう。

翌日、国務省のサキ報道官が改めて、「失望」の意を繰り返した。これも“緊密な同盟国”に対しては極めて異例のことだ。また国防総省も、普天間基地移転、辺野古沖埋めたて申請認可を歓迎したものの、靖国参拝が近隣諸国との緊張を悪化させることへの懸念を表明している。よほどのことである。

筆者も経験があるが、日本のマスコミは何かあるとアメリカ大統領府やアメリカ関係省庁高官の談話を取る。時差の関係上、普段は7~8時間遅れでの確認・発表となる。それと比べても今回のアメリカの対応がいかに異例であることか!(鳴り物入りで作ったはずの国家安全保障会議は、早くも無能力を示した。どんな情報に基づき一体何を協議し、情勢をどう判断したのか!?)

またEU(アシュトン外務安全保障政策上級代表)が“緊張を高める行動を慎み、近隣諸国・地域の信用を高め、長期的安定を確保する建設的な関係構築を築くよう”慎重な外交を要望する声明を出した。ヨーロッパのメディアは、1年前の安倍政権発足直前から、右傾化、国家主義に傾斜を強める日本に警戒の念を表してきた。しかしEUとして日本首脳の動きに自制を促したのは初めてのことだ。EUはアメリカ・カナダからロシア、旧ソビエト諸国も含む広範な地域での“OSCE(全欧州安全保障協力機構)”を推進し、普遍的価値に基づき、とりわけ紛争が絶えない中央アジア各国やバルカン半島国家などで、武力によらず話し合いと協力で国安全保障を追求してきた。28カ国が加盟するEUは国際会議の場でも多数派を形成する力がある。EUの懸念は、それだけ国際社会が安倍政権の動きを重大視し始めた表れでもある。

そして日本とは経済関係強化を優先、右傾化に特段の反応を示さなかったロシアが、アレクサンダー・ルカシェヴィッチ外務省報道官の名で、“日本の一部勢力第二次大戦の結果(戦後の国際秩序)に世界の共通理解と反する評価をしている”などと遺憾の意を表明した。これは北方領土問題でのロシアの原則的立場を再確認する形にもなった。

台湾までが懸念の声明を出した。

つまり日本に関係が深い主要国の大半が安倍政権に強い懸念を表すことになった。

今回の安倍靖国参拝を中国メディアは“電撃参拝”と呼んだが、“アメリカも安倍を批判した”と喜んだ。かたくなな対日強硬姿勢でアメリカとの関係が冷えていた韓国も、“アメリカが同じく批判”など歓迎する報道が相次いだ(嫌中派、嫌韓派にとって安倍氏は、サッカーで言えばオウンゴールを蹴った、あるいは身から錆が出たといえる)。

安倍政権が目指す“集団自衛権”問題でも、アメリカは安全保障担当者を通して、“(日米安保条約があるのに)何故その必要があるのか!?”、と水面下で自重を促してきた。

10月には来日したケリー国務、ヘーゲル国防の両長官が、靖国ではなく千鳥ヶ淵戦没者墓苑を揃って訪れて、献花をし戦争犠牲者の冥福を祈っている(千鳥ヶ淵戦没者墓苑は思想信条を問わず人々が押し並べて訪問する国立施設である。靖国は一宗教法人である。両長官の千鳥ヶ淵訪問はアメリカの明確な意思の表明だ)。

NYタイムズは、年末の29日に独自の教科書を採用した沖縄県竹富町に対し、文部科学省が国の指定する教科書に変更するよう直接指令を出したのを重視、安倍政権の言論の自由の否定思想統制強化に警鐘を鳴らしている。

安倍政権はこうしたアメリカのていねいな警告を甘くみ、無視した末に暴走を始めたといえる。

戦後の国際体制を最も大事にしているのは、日本の皇室であるともいえる。昭和天皇は1978年以来、靖国参拝をしていない平成天皇はまったく参拝していない。靖国の神官たちが勝手にA級戦犯を合祀してからだ。

戦後、日本と象徴天皇制はポツダム宣言受諾、東京裁判を受け入れた上で、平和憲法の制定、サンフランシスコ平和条約批准の後、国際社会(“戦後レジーム”)に復帰を許され、国際連合に加盟を認められたといえる。

平成天皇は80歳の誕生日を前にした記者会見で、戦後復興の歩みに平和と民主主義が果たした役割をきちんと指摘されている。

アメリカは冷戦時代を通して安全保障や通商利益を優先し、各国の民主主義や人権への配慮をとにかく後回しにしてきた。安倍晋三議員が「戦後レジーム」からの脱却を唱えてきても日米安保や日米の通商関係が順調である限り、右傾化、国家主義的な軍備拡張も“抑えられる”と大めに見てきた節がある。

しかし、国民大多数の反対にもかかわらず特定秘密保護法の強行成立歴史見直し教科書問題での思想統一化政策、巨大与党の議会民主主義を踏み外した少数意見無視の荒々しく傲慢な国会運営などに強い懸念を抱いてきた(すでに2013年春の時点で議会図書館調査局が下村博文・文部科学大臣の名を挙げて警戒する報告書を出したのは、この欄でも紹介したとおりだ)。

アメリカは、今回の靖国参拝で安倍政権の国家主義的体質が、アメリカの価値観と基本的に相容れないとの確信を強めたともいえる。EUが初めて懸念を表明したのも安倍政権が普遍的な価値観と相容れない道を歩み始めたと判断したためであろう。

このままいけば国際的な孤立である。

今回は、さすがに日本の大手メディアも参拝批判で歩調を揃えたかに見える。果たしてこの後、どこまで徹底して批判を展開できるか、メディア及びメディアに関係する者の役割が問われる。

【DNBオリジナル】

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