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プーチン露大統領が政治犯を恩赦。ソチ五輪のため!?(大貫 康雄)

19日、ロシアのプーチン大統領は突然、最大の政敵で投獄中の“ロシアの石油王”といわれたミハイル・ホドロコフスキー(Mikhail Khodorkovsky)氏やグリーン・ピースの活動家、ロックバンド「プッシー・ライオット」の2人の女性らの釈放を発表した。表向きは新生ロシア憲法制定20周年記念による大量恩赦だった。

ホドロコフスキー氏の恩赦についてプーチン大統領は、“氏の母親が重い病にあり、氏が恩赦を願い出たため(人道的な配慮で)”と記者団に語っている(しかし、ホドロコフスキー氏は自身のウェブサイトで“自分は罪を認める話はしていない”と記している。氏の刑期は来年8月満了だが、新たな罪状が作られる可能性も言われていた)。

しかし、後述するが今回の恩赦に関しては、プーチン政権の相次ぐ人権弾圧政策に反対し、ソチ・オリンピック開会式を欠席する各国要人が増えるのを懸念したためとの指摘が出ている。

氏の釈放は、欧米メディアが経緯と意義などを大々的に伝える一方、日本での報道はやはり一過性であった。この点をふまえつつ述べる。

ホドロコフスキー氏は、フィンランドの東隣カレリア共和国の刑務所からの釈放後、そのまますぐにドイツのゲンシャー(Hans-Dietrich Genscher元外相に出迎えられた。ゲンシャー元外相が氏の弁護団の依頼を受けて交渉し、この釈放を実現させたからだ。重い病にあると言われる78歳の母、それに父と長男パーヴェル(Pavel)氏もベルリンにて再会を果たした(ゲンシャー元外相は2度モスクワでプーチン大統領と会談している。日本ならば“勝手な二重外交”などと批判する声が出るかもしれないが、ドイツではメルケル首相も釈放を歓迎。ドイツ外務省は即刻、氏に1年間の滞在許可を出した。氏と家族は日曜日ベルリンで記者会見したが、その場所は冷戦時代の東西間のチャーリー検問所の博物館だった。氏は「他の政治犯の救援に力を尽くすと語った」。

ホドロコフスキー氏は、プーチン大統領の強権政治に反対し、2003年の総選挙で有力野党を公然と財政支援した。すると直後、脱税容疑で逮捕・起訴され、その後、横領罪も追加され、2度の判決で合計10年以上の刑期が言い渡されていた。

氏はプーチン大統領最大の政敵といわれ、大統領がなりふり構わず長期間収監したため、2010年に国際アムネスティの「良心の囚人」に認定された。収監中、ホドロコフスキー氏の大石油企業「ユコス」は国有化され、国外を除く氏の資産は没収。今やプーチン大統領は氏を恐れる必要がなくなり、国際社会の批判もあるため恩赦に踏み切ったとの見方もある。

恩赦の対象者は、経済犯罪などで服役している2万5千人にのぼると言われる。政治犯の釈放はホドロコフスキー氏ら国際世論を意識したわずかな人数で、氏も語っているように多くは今なお獄中にいる。

釈放された中には、北極海での石油試掘に抗議し、掘削機に上ろうとして逮捕・収監されていたグリーン・ピースの活動家30人(“北極の30人”として欧米で救援キャンペーンが繰り広げられていた)、またモスクワのロシア正教大聖堂内で「マリア様どうかプーチンを追放して」と歌い踊ったロック・グループ、プッシー・ライオットの2人の女性が含まれている。プーチン政権のいう“公共の秩序”を損ねたのだという(どこか特定秘密法を想像させる)。

プーチン大統領の人権軽視は、かねてから欧米各国の批判を受けていた。今年夏は、いわゆる“同性愛者処罰の法”を相次いで成立させ、同性愛者の活動を厳しく制限し始めた。

これに各国が反発、国際オリンピック委員会も懸念を表したが、当初プーチン大統領は一切耳を貸さなかった。

しかし12月6日、ドイツのガウク大統領がソチ・オリンピックの開会式に欠席の意向を表明して流れが変わった。

フランスのオランド大統領も欠席の意向を表明、旧ソ連に占領されていたリトアニアのグリバウスカイテ(Dalia Grybauskaite)大統領も“出席する政治的意味を見いだせない”と欠席を決めた。

18日にはアメリカのオバマ大統領、バイデン副大統領も欠席を決め、ソチ・オリンピックのアメリカ選手代表団長を同性愛の女性にするなどの動きが続いた。

ソチ・オリンピックは、プーチン大統領自ら先頭に立って誘致を実現したもので、開会式に世界の首脳が揃わないと自らの権威にも関わる大問題だ。聖火リレーを宇宙やバイカル湖底にも運ぶなど大々的に展開。開催地を結ぶ高速鉄道が完成したといっては乗り込むなど、オリンピックを是が非でも成功させたいというプーチン大統領の並々ならぬ決意が感じられた。プーチン大統領としてはオリンピックを直前に控え、人権弾圧の印象を少しでも和らげたい狙いがあったのは確かだろう。

一方、わが日本の安倍総理もソチ・オリンピック開会式に出席するか否か悩んでいるといわれている。しかし、それは欧米各国と同じく「共通の価値観」からではなく、人権状況に対する批判などまったく考えていない。オリンピックの開会式が北方領土の日の式典の日程と重なるため、どちらに出席するか迷っているようだ。安倍氏としてはプーチン大統領との仲を損ねたくない。政権内では“閉会式出席は”という妙案も出ているという。主要国首脳の動きなどわれ関せずの感じだ。

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