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猪瀬都知事は“ミニ石原”を目指していたのか!?(大貫 康雄)

国際都市を標榜する東京都で、その歴代知事が国際的に評価されたという話は浅学にして聞いたことがない。猪瀬直樹知事というと「石原慎太郎前知事の作品」であり、「石原氏の忠実な生徒」という印象を抱く。石原氏は、欧米では民族差別や女性差別発言で警戒され、軽蔑もされている国家主義者。

アメリカの政府要人が彼と会わないのも、それが背景にある。猪瀬氏の国際常識からずれた発言は、その石原氏の小型版のようだった。少し例を挙げてみる。

かつて石原氏は、大阪枚方市の式典に招かれた際、招待されていたウィーン市長の前で“ヨーロッパから学ぶものはない”と無知丸出しの挨拶をして、枚方市の関係者をあわてさせた。

一方の猪瀬氏は、ニューヨークで地元の新聞記者の取材を受け、トルコ・イスタンブールに関し、イスラムは“喧嘩ばかりしている”とか、トルコには“階級がある“などと無知に基づいた差別的と受け取られる発言で批判を浴びた。

知事時代の石原氏は“文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものは「ババア」なんだそうだ”など、一学者の発言をねじ曲げて女性差別発言を繰り返したのを女性週刊誌が報じた。この発言はあっという間に世界に広まり、石原氏は欧米で批判、軽蔑され、ギャグの対象にもされた。それでも都知事に再選された。

“生徒”の猪瀬氏は2005年、子どもを産まない専業主婦を“ごろごろしている主婦”とか“パラサイトワイフ(寄生虫主婦)”などと評するなど、一連の女性蔑視と受け取られる発言をし、批判される。

石原氏は、不透明で私物化を疑わせるいくつか政策で批判されている。若手芸術家支援事業トーキョーワンダーサイトで四男を重用した。また、税金で作り、多額の負債を残した新銀行東京。この融資先企業に三男の選挙区の企業が多いことなどが批判された。

猪瀬氏は、夫人が必要でない出張に夫人を公費で同伴させようとしたのを指摘されたりしている(もっとも欧米で夫人同伴は良くあることだが)。

猪瀬氏は作家業からいつのまにか石原前知事の副知事となった。四選後、まもなく都政を放りだすように辞任した石原氏は「後任は猪瀬さんで良いではないの」と一言。石原氏の信頼が相当に厚かったのか信頼を得ていたのだろう。石原氏の方針通り、都知事選では自民党と土建業など都産業界がこぞって推薦。猪瀬氏の選挙運動は、実働面も資金面も石原氏の秘書経験者が丸抱えで進めたと言われている。主要候補の政策論争が繰り返されることも少なく、猪瀬氏有利の雰囲気が作られ、443万票以上の記録的な得票数で楽勝。

猪瀬氏は評価される業績もある。副知事時代から官僚の天下りを批判、2つの地下鉄の統合・一体化を主張してきた。原発事故を引き起こした東京電力の経営体質を批判し、東京電力に頼らない電力施設計画を推進中だった(東京電力に関しては、東京電力病院のむだな経営体質を追求し、売却させる方針になった。それが徳洲会との関係で問題視されているのは皮肉としか言いようがない)。

また千代田区の清水谷公園の隣で、都心にある数少ない緑地への参議院議員宿舎の建設計画を中止させた。

破産自治体となって苦しむ夕張市支援に職員を派遣してきた。東日本大震災では、宮城県・気仙沼市の中央公民館に取り残された人たちの救出を地元の出動要請がないうちから東京消防庁に命じる果断な決断をしている。さらに東日本大震災の被災者救援には陣頭指揮に立つなど、評価された面も多い。

それが1年前、石原氏と深い関係が知られている徳洲会の徳田会長から“5000万円を借りた”事が仇となって異例の辞任になった。

そういえば石原氏は、料亭で糸山英太郎氏や水谷建設元会長の水谷功氏らと会食し、現金2000万円を受け取りながら政治団体の政治資金収支報告書に記載していなかったと批判された。この件で石原氏は、都内の男性らから東京地検に告発されたが、地検は動かなかった。

猪瀬氏は、徳洲会からの5000万円の件で都民から告発され、東京地検はこれを受理している。

石原氏は今も傷つくことなく衆議院議員の地位にある。

(東京オリンピック招致は石原氏時代からの運動でようやく実現したが、石原氏や猪瀬氏の力というよりは関係者の尽力でようやく実現したものだ)

猪瀬氏の場合はまさに“教師”石原氏の踊りを下手に真似て、つまずいて終わった、という印象だ。

国際都市を標榜する東京都である。平和の祭典・東京オリンピック開催を前に、既得権益に縛られない、国際的に評価される知事の選出を目指してはどうだろう。

【DNBオリジナル】