特定秘密保護法で「医師と患者の信頼関係がまったくなくなる」(木野 龍逸)
「特定秘密保護法案に反対する医師と歯科医師の会」は12月5日、参議院会館(東京)で記者会見を開き、特定秘密保護法を衆議院で強行採決したことに抗議するとともに、同法の廃案を強く訴えた。会を呼びかけた青木クリニック(東京)の青木正美院長は「公務員の身元調査があれば、カルテ、診療内容を国に出しなさいという強権が発動される。患者がなにか話しても国に出てしまうのではないかと思えば、私たち医師と患者の信頼関係がまったくなくなる」と危機感をあらわにした。
その思いから一週間前に賛同者を募るウェブサイトを立ち上げたところ、4日までの5日間で351筆の署名が集まった。青木院長は「実名を公開するだけでも勇気がいる。ひとりひとりの心から血が出るような叫びを聞いてほしい」と強調した。署名は同日、安倍晋三首相宛に提出した。同会では引き続き賛同者を募っている。 「特定秘密保護法案に反対する医師と歯科医師の会」 http://haian.jimdo.com
会見に出席したのは青木院長のほか、呼びかけ人のひとりである杉山正隆医師(杉山歯科医院・福岡県)と、全国の医師・歯科医師ら10万4千人の会員を擁する全国保険医団体連合会の住江憲勇会長。杉山医師は、「例えば自衛隊や海上保安庁の人が来て問診するときに、『こんなになるまでどうして来れなかったの』と聞いて、『海で任務にあたっていて』ということがあると、法に触れかねない。秘密の範囲が広すぎる。なにが秘密かわからないのは非常に困る。現状の法案には反対せざるをえない」と述べた。また住江憲勇会長は「特定秘密保護法により、国民の命や健康、暮らしに関わることに網がかけられ、後景に押しやられる」と指摘した。
12月2日に毎日新聞は、参議院国家安全保障特別委員会で内閣官房の鈴木良之内閣審議官は、仁比聡平議員(共産党)の「病院に調査があったときに守秘義務を理由に回答を拒むことはできるか」という質問に対し、特定秘密保護法が施行されると「照会を受けた団体は回答義務がある」と答弁したことを伝えた。政府が、特定秘密を取り扱う公務員の身元調査に対して病院は患者の病歴、通院歴などを開示する必要があることを認めたことになる。
秘密保護法案 「照会受けた病院に通院歴など回答義務」(12月2日 毎日新聞) http://mainichi.jp/select/news/20131203k0000m010092000c.html
これに対して医療関係者からは、「日本を含む多くの国で、 実質的に国内法の上位規範として機能」しているジュネーブ宣言をひもとき、「私は、たとえ脅迫の下であっても、人権や国民の自由を犯すために、自分の医学的知識を利用することはしない」という一節の「脅迫」する側には「国家も当然含まれる」とし、「政府の求めるままに個人情報を報告すれば、患者個人の自由が奪われます」と批判する声も出ている(「特定秘密保護法案:医師に情報回答義務はあるのか」医療ガバナンス学会メールマガジン)。
特定秘密保護法案:医師に情報回答義務はあるのか(小松 秀樹 2013年12月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行) http://medg.jp/mt/2013/12/vol296-1.html#more
ジュネーブ宣言(日本医師会ホームページ) http://www.med.or.jp/wma/geneva.html
Photo : 参議院会館での会見。左から杉山正隆医師、青木正美医師、住江憲勇保団連会長/2013年12月5日(木野 龍逸撮影)