北朝鮮No.2「張成沢失脚情報」の読み方(辺 真一)
権力序列ではNo.5ではあるが、実質的に北朝鮮のNo.2の実力者である張成沢党行政部長が失脚したとの情報が駆け巡っている。
聞けば、部下の第一副部長と副部長が反党行為で逮捕され、公開処刑され、その関連で上司の張部長も失脚したというのがその根拠だ。
党行政部は反党分子やスパイ、汚職や不正蓄財など犯罪を摘発する国家安全保衛部と警察にあたる人民保安省など保安、治安機関を管轄する上部機関である。その部署のNo.2とNo.3が身内の公安機関によって逮捕されたというのである。前代未聞である。
日韓のメディアでは、張氏の失脚は、序列No.4の崔龍海軍総政治局長との対立によるとの見方もあるが、二人が1980年代から義兄弟の関係にあったことは北朝鮮通ならば誰でも知っていることだ。1998年に不正蓄財で失脚した崔龍海氏が、その後、カムバックし、ここまで出世できたのは、ひとえに兄貴分の張成沢氏とその夫人の金慶喜政治局員のお蔭である。その崔氏が恩人である張氏に刃を向けるとは常識ではとても考えられない。
また失脚ならば、他のポスト、例えば政治局員や国防委員会副委員長、さらに北朝鮮が力を入れている体育部門の国家体育指導委員会委員長のポストも解任されているはずだ。政治局員や国防副委員長のポストの解任には20人の政治局員を含む党政治局及び党軍事委員会の総意が必要である。すなわち妻である金慶喜政治局員、さらに甥でもある最高指導者の金正恩第一書記の同意がなければできない話である。失脚が事実なら、張氏は金ファミリーからも見捨てられたことになる。
韓国メディアは、失脚説の根拠として、「張氏の親戚の外国大使2人が召還された」と伝えているが、そのうちの一人が駐マレーシア大使の張勇哲氏のようだ。韓国のニュース専門テレビ、YTNは「最近、北朝鮮に呼び戻された」と伝えていたが、「今もマレーシアにいる」との情報が、メールでその日のうちにマレーシアから届いていた。一体、どっちが本当なのだろうか?
5日付の「読売新聞」によれば、張氏もまた不正に関与したとして、国家安全保衛部などの取り調べを受けているとのことだ。
一体、どこの誰が、実質No.2の、それも金正恩第一書記の叔父でもあり、最高権力機関である国防委員会副委員長の張氏を取り調べられることができるのだろうか。興味のあるところだ。
「読売」の報道とおり、取り調べているのが国家安全保衛部ならば、その責任者は政治局員でもある金元弘部長である。
張氏よりも歳は一つ上で、2年早く大将に進級している。筋金入りの軍人で、軍の保衛司令官から軍の総政治局副局長を経て、昨年4月に今のポストに就いている。
本来ならば、上部機関である党行政部のトップである張氏が失脚したなら、配下の幹部らも「連帯責任」を取らされるものだが、金元弘部長は健在で、11月20日、20年ぶりに開かれた軍保衛要員の大会に出席していた。これまた、不思議だ。
いずれにせよ、失脚したかどうかは、金正日総書記の命日にあたる今月17日にはわかる。この日、党及び軍幹部が一同揃って遺体が安置されている錦繍山主席宮殿に参拝に行くからである。そこに姿を現さなければ、失脚ということになる。
by Ryuugakusei
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