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チェルノブイリ法の否定ありきか〜内閣府の現地視察報告書を公開(木野 龍逸)

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日付で毎日新聞に掲載された「復興を問う:消えた法の理念1 法案作成と重なるチェルノブイリ視察(http://mainichi.jp/select/news/20131201mog00m010003000c.html)の記事が指摘した、問題のチェルノブイリ出張報告書を公開する。

「チェルノブイリ出張報告書〜原子力発電所事故における被災者への対応について」2012年8月 https://drive.google.com/file/d/0B5jyJeiqBSmLZGt0TV9XQ0FRUE0/edit?usp=sharing

作成は内閣府の「原子力被災者生活支援チーム」。開示請求をすると報告書はすんなり出てくるが、現時点まで、原子力被災者生活支援チームはこの内容を公表していない。

視察日程は2012年2月下旬から3月上旬だった(http://bit.ly/1c66z74)。視察出張者の多くは経産省関係者なので(原子力被災者生活支援チームは、当時は経産省、原子力・安全保安院、文科省が中心で、現在は全員が経産省)、出張費は経産省や保安院で処理している。

原子力被災者生活支援チームは内閣府の組織ということになっているが、当時も今も復興庁の指揮下にあることになっている。けれどもHPは経産省内にあり、また出張費は経産省で切っていることからも、経産省と非常に密接な関係にあることがわかる。 http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/kinkyu.html#info_shien  組織のトップは経産副大臣。ナンバー2の事務局長補佐(事務方トップ)は、現在は菅原郁郎経済産業政策局長が兼任している。経産省事務次官は従来、経済産業政策局長出身者が多かったようだ。つまり菅原氏は、経産省のエリート官僚の中でも王道を歩いているといえる。そしてこの視察は、菅原氏が自ら担った。 http://www.jiji.com/jc/zc?k=201306/2013062100926

このようなチームが作成したチェルノブイリ視察報告書について、先日、当時の復興大臣だった平野達男氏に取材する機会があった。平野氏は、改めて報告書を見てみるとちょっと偏りがあるかもという認識を示した。これは毎日新聞の記事と重なる。そして調査は「私が指示した」といっていたが、関係者の話では「まあ、それは誰かがそういうふうにもっていっても、大臣はそう言うんじゃないでしょうか」とのことだった。では真の企画者の意図はどこにあったのだろうか。

調査の実施は、「子ども被災者支援法」と、復興庁が出していた「福島復興再生特措法」の関係性が、政府、民主党内で取り沙汰されていた時期と重なる。福島復興再生特措法は、福島に戻る人、企業を対象に支援をする内容であり、その意味で帰還するしないを問わず支援する子ども・被災者支援法と、相反する主旨だ。当時は民主党内でも、この2つの法律をどのように整理するのか議論があった。

そんな中、官僚としてはどちらを推奨し、政治家としてどのような判断をするのか。そんな議論のたたき台になるべき報告書のはずだが、毎日新聞は、この報告書は野党の一部や原発推進団体などだけに配られていたと指摘。子ども・被災者支援法の策定の中心になっていた議員らは、視察自体を知らないとコメントしている。

そして報告書の内容は、かなり偏重している印象を受ける。

チェルノブイリ原発事故に関する最新の公式な報告書は2011年前後に、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ各国から出ている。そのうち健康影響に関しては、厳しい見方をしているウクライナの報告書はまったく参照にせず、ロシア報告書のみを採用。「セシウム137の汚染が最大であるブリャンスク州軟性地域の住民の白血病発症率は、ロシア全体の通常の発症率と同等であることが確認された」などと記載している。

 

 

 

 

 

 

 

 

またチェルノブイリ法に関しては「チェルノブイリ被災者支援法は、ソ連から少しでも多くの資金を引き出してソ連から独立することを企図したもの」というウクライナのナスビット国家戦略研究所主任研究員のコメント引用するなど、一様にネガティブなコメントの紹介が続く。「医学的な因果関係が認められない者に対しても、認定委員会は簡単に障害者認定をしてしまう」「補償、年金、公共料金の減免等の様々な恩恵が与えられるため、障害者認定を得ようとする」というウクライナ保健省リフタイロフ氏のコメントも紹介している。

しかし「補償、年金、公共料金の減免等の様々な恩恵が与えられるため、障害者認定を得ようとする」という話について、今年になって現地調査をした平野前大臣は、「そういう話も聞いたが、確認できなかった」と話した。このあたりは発言者の思惑もあるので統計的な数字がないと裏付けがとれないが、件のチェルノブイリ報告書にはそうした数字は出ていない。

加えてチェルノブイリ報告書は、ウクライナ放射線医学研究所のバズーカ所長にヒアリングをしているにもかかわらず、まったくコメントを引用していない。

コメントが出ていないバズーカ所長の例や、ひとり(一か所)数時間のヒアリング時間に比べて、報告書に出ているコメントがひと言、二言しかないこともあり、ヒアリングそのものの議事メモ、録音などを開示請求していたが、これは「存在していない」として不開示になった。ヒアリング内容の記録を残していないというのである。

膨大なチェルノブイリ原発事故報告書の中から一部分だけを短くつまみ、コメントも短くつまみ食い、それ以外は非公開というのでは、視察報告書の中立性が確保されているのかどうかまったく判断ができない。こうした報告書を、毎日新聞が指摘するように一部の政治家、原子力推進者等にだけ回して一般には非公開という官僚たちの姿勢は、あまりにも不誠実であろう。

【ブログ「キノリュウが行く」より】

Photo : ChNPP Unit 4 Wikiexpedition 2013(Wikimedia Commons /Author:RLuts)